シュンとロニンはさすがの《俊敏》を誇っていた。

天使たちの間を、目にも止まらぬ速度で駆け抜け、一瞬にして神殿の部に消えていく。

そんな二人を邪魔しようとする天使は、殘らずアルスが斬り伏せた。おかげで數の天使はすでに倒れたが、それでも絶的なほどに、敵は殘っている。

――これが償いだ。あの夫婦に指一本れさせるものか――

気合いとでアルスが剣を振るっていると、ふいに、一の天使が苦々しげにび聲を発した。

「くっ……玩風がんぐふぜいが！　生意気な真似をしてくれるものだ！」

「がん、ぐ……」

そう、たしかにアルスは玩と呼ばれていた。

考えるまでもない。

言いようにディストに記憶を作され、勇者としてあるまじき行為――村の殲滅、そして殘的な暴力をさせられてきた。その無慘なさまを指しているのだ。

なぜそうさせられたか。

ディスト自が楽しむためだ。

ディストに娯楽を提供するためだけに、アルスは多くの人々を傷つけてしまった。シュンの両親をも殺してしまった。その罪は生涯アルスに重くのしかかることになる。償うことなど、できはしない。シュンには本當に申し訳のないことをした。

こうしてアルスが悔やんでいる様子さえ、ディストは楽しんでいるのだろう。まさに玩だ。自が壊れるまで、主人を楽しませるための奴隷……

そんなどうしようもない玩に、シュンは手を差しべてくれた。一緒にシュロン國に住もうと言ってくれた。両親の敵に対して、なんと優しすぎることか。

アルスはれた呼吸を整えながら、靜かに言い放った。

「そうだ。たしかに俺は玩であり、咎人とがびとでもある。だがな。そんなどうしようもない俺にも、背負ってるものがあるんだよ」

長いこと使い込んできた、自慢の剣。

鍔つばから切っ先にかけて、アルスは魔力のこもった手をすべらせていく。

――師匠、みんな、もう一度、俺に力を……！

その願いが通じたのかはわからない。

次の瞬間、アルスの剣が、新緑の火炎に包まれた。暗闇の空に反して、眩く輝く勇者の剣。

必殺技、ユグドラシル・デュアル。

いまは亡き師匠に授けられた、アルスの奧の手だ。

「な、なんだ、この力は……！」

天使たちがぴくりときを止める。全員、突然輝きだしたアルスの剣に面食らっているようだ。

それもそのはず。

アルス自、沸き起こる力の奔流ほんりゅうに、驚愕せざるをえなかった。

《　★理攻撃力　９９９９９

★理防力　９９９９９

★魔法攻撃力　９９９９９

★魔法防力　９９９９９　》

さきほどユグドラシル・デュアルを使用したときより、さらに力が増している。しかも防力までびているから驚きだ。

「玩、と言ったな……」

アルスは新緑の剣を振り払いながら、決然と言葉を発した。

「だが、そんな愚かな過去があったからこそ、俺は自分を見つめ直し、この力を手にれるに至った。思い知るがいい。これが勇者の力だ！」

世界消滅まで　――０：４６――