《銀狼転生記~助けたと異世界放浪~》閑話:~脈する帝國~
〈サハラの森〉を南に進んで抜けるとすぐに〈ヒルジオ山脈〉と呼ばれる山脈がそびえ立つ。
その山脈を隔てた向こうには、強大な國があった。
その名も、〖エンデ帝國〗。
別名〈強者の國〉名前の由來は至って単純。
ただ、強者たる國。
百戦錬磨の軍隊を持ち、平民でさえ、他國の兵の力を上回る。
地の利を活かした強固な守りを誇り、過去に一度とも、この國への侵略を功させたものはいない。
それもその筈。
この國は〔強さが全て、強きは正義、弱きは悪〕を掲げている。
この國では、殺人は罪にならない。
殺される方が悪い。
この國では、盜難も罪にはならない。
盜まれる方が悪い。
この國では、種族間の差別はない。
強ければどんな姿をしていようが関係ないのだ。
この國では、弱い事が罪なのである。
良くも悪くも、”強い”に重きを置いた國。
それが帝國である。
◆◆◆◆
──帝國 城中:謁見の間
唯一、王への拝謁が葉う部屋。
巨大な空間いっぱいに、重い空気が立ちこめており、壁や天井には趣味が悪いと評価せざるを得ない裝飾が施されている。
見る人が見れば「魔王城では?」という判斷を下すに違いない。
ここに、一人の男が跪いている。
彼の名前はロフォカス。
年の功は30程。
整った顔をしており、黒縁の眼鏡を著用している。
この若さで、帝王から國の宰相の座を賜っている逸である。
男の前には玉座があり、そこには黒々とした水晶が置かれている。
その水晶から、聲が放たれる。
『ロフォカス。一何のようだい? こんな夜中に。報告は帰ってから纏めて聞くって言ったはずだけど?』
まだ若さを帯びた聲。
だが、聞く者によっては失するほどの恐怖を伴う事だろう。
ロフォカスは、その聲にじることなく言葉を発する。
「お休み中、申し訳ありません。ケイン様。ですが、この報告の容は、早急にケイン様のお耳にれるべきだと判斷したため、こうして連絡させて頂いた次第です」
そう、水晶を介した會話の相手は、ケイン・クロイツ。
強者溢れる、この國の現トップ─帝王であり、七つの武の一つを極めた者〈拳王〉である。
『ふーん。君がそこまで言うのなら、余程の急事態なんだろうねぇ』
言外に、もしそうで無ければどうなるか分かってるよな?
というニュアンスが含まれている。
ロフォカスは、冷靜に手元の報告書を読み上げる。
「今日の夕刻、ヒルジオ山脈へ演習に向かった兵士達が、山頂で急激な気候の変化を確認。気になった者が、森の様子を見に行くと──」
『見に行くと?』
「森の一部─〈南の森〉が氷雪地帯と化していたようです」
『…は?』
しばらくの沈黙。
そして、王が乾いた言葉を発する。
『は、はは。それは…まずいね』
「はい。既にこの報は周辺諸國に伝わっており、近いうちに進軍のきを見せるかと」
『特に王國だね』
二人の懸念することは、今まで、〈南の森〉という驚異値の高い森が山脈の向こうにあることで、王國は帝國との戦爭時に森を迂回するしかなかった。
それにより、帝國は楽して王國の軍を迎え撃つ事が出來ていた。
だが、その森が無くなった今、帝國は王國を含めた周辺諸國にその無防備な背中を見せることになる。
『奴らに山脈を占領されたら不味いね。原因は何かな? 調査隊は? もう送ったかい?』
「いえ、まだです。ですが、〖雪姫〗が現象の原因と判斷し、現在捜索隊を派遣しています」
『いや、今回の件に〖雪姫〗は関係ないと思うよ? 僕と約束したしね』
「ですが──『何かな?』…いえ、何でもありません」
帝王の圧により、話は取り合えずの山脈警備の強化と調査隊の派遣へと傾く。
『多分、調査隊を送ろうとしているのは周辺國も同じだろう。だから、向かわせるなら、なるべく腕の立つものが良いよね?』
「そう予想されますね。それも、行を起こしやすいように人數で向かわせましょう。如何いたしますか?」
調査に行くなら、不測の事態に対処しやすいように數鋭で向かわした方が良いと考えた結果だった。
この方が、他國の妨害にも対処しやすい。
帝王はしばらく考えて言葉を発する。
『そうだね……。よし! 〖狂姫〗に向かわせよう。今、彼と連絡はつくかな?』
その人選はどうなのか?
それがその二つ名を聞いたときのロフォカスの心だった。
〖狂姫〗
帝國の抱える問題児の一人である、の異名である。
容姿端麗、才兼備。
姿を見ればその一言につきるが、いささか神に問題があり、過去の任務では、味方の慘殺や過度な自然破壊を行っている。
そして、男、魔関わらず彼の手にかかった者は、無殘な死とりはてるか、神に異常をきたす。
狂った姫とは良く言ったものである。
「彼をですか? よろしいので? 々、王は彼に甘いのでは…」
『そうかな? まあいいじゃん。彼、見てて飽きないし。で、連絡は取れるの?』
誤魔化された。
そうじながら、ロフォカスは言葉を返す。
「それは大丈夫かと、この時間なら、いつもの掃除・・の最中でしょう。」
『ああ、なるほど。熱心だね~~。じゃあ、後の事は任せるよ』
「はっ!」
そして、通話が切れる。
水晶は役目を果たし、々に砕け散った。
「ふう」
報告を終えたロフォカスは息をらす。
この強者の國で、この若さで宰相の地位まで昇り詰めた彼にとっても、帝王ケイン・クロイツの放つ威圧が平気なわけではない。
通話越しでも、それは変わらない。
「…さて、あのは今何処に居るのやら」
外の調査に行けると知ったら狂喜しそうだ。
そう考えながら、ロフォカスは部屋を後にした。
◆◆◆◆
夜の帝國、そこは一言で表すなら危険地帯である。
そこかしこで喧騒が聞こえ、殺人沙汰の事まで起こる。
子供には暮らしにくいことだろう。
平民が強いのも、これが原因かもしれない。
帝國を訪れた冒険者が翌日、あられもない姿で道端に転がされている。
なんて事も珍しくない。
今夜も、數人の男がご馳走を見つけたようだ。
「へへっ、嬢ちゃん。なんかオコマリみてえだな」
「俺らが助けてやろうか?」
「安心しな。金を取ろうなんて思っちゃねえさ。ボランティアだよ」
いかにもな悪人面を構えた三人の男。
何処かの漫畫でヒァッハーしてそうな人にソックリである。
「ホントですか!? それは助かります♪ 実は宿に戻る道を間違えてしまったようで」
そんな男達に囲まれているのは、闇に溶けるような長い黒髪を攜えたうら若きだった。
目が見えないのか、小さく整った顔にある目蓋は固く閉ざされている。
服裝は、娼婦がにつけるような扇的な白い薄服を著用している。
武らしきは見當たらない。
の反応を見た男達は、これ幸いとばかりに生唾を飲み込む。
「ああ、任せとけお嬢ちゃん!」
「俺達にドーンと任せときな」
「ほらっ、こっちが近道だぜ」
と、一人の男がを人気の無い脇道へと導する。
男達に取って久々の獲。
しかるべき所まで我慢は出來ないらしい。
「親切にありがとうございます。皆さん。所で──」
が道の途中で立ち止まる。
「私を犯そうとしてらっしゃいます?」
冷たい聲音で問いかけた。
「「「・・・」」」
男達は一瞬きを止め、そして…。
「今更、気付いても遅えんだよ!」
「「おいっ!」」
男達の中でも際だっての気が多くあっちのも多い男がへ飛び掛かった。
仲間が止めようとするも、男の手がの肩へ置かれる。
そして──
ブシャァアアアアアアアア!
男の上半が飛沫を上げながら宙を舞った。
「ひっ!!」
「なっ!?」
二人の男が驚くのも無理はない。
飛び掛かった男がを押し倒そうとした剎那。
の手に虛空から出現・・した武が唸りをあげた──と認識したと同時に男のが宙へ吹っ飛んだのだから。
「ハア、卑しい蛆蟲ですね。やはりこういったクズは何処の世界にも蔓延はびこっているのでしょうか」
は、男の飛沫を平然と浴びながら呟く。
そこに、人を殺めたという罪悪はじられない。
「てめえ! 何しやがる!!」
先程の景を目にして尚、威勢の良い男が吠える。
完全に自分達のしようとしたことを棚にあげている。
は武を振ってを払うと、さも當然と言ったように言葉を発する。
「はい? 何って、害蟲駆除ですよ。こうもクズが多いとあの人でもが危険ですし」
「害蟲駆除だとっ!!」
「くそ、ポルをよくも!」
どうでもいいが、死んだ男の名前はポルだったらしい。
仲間を侮辱され、男は懐から短剣を取り出す。
軽く怯えていた男も武を出す。
「へえ、今のを見てもヤル気ですか。そんなに溜まってるんですか? 救いようのないクズですね」
「へっ。何とでも言いやがれ、この際、だからって容赦はしね──」
そこで男は言葉ときを止めた。
──何だ? あの武は?
それはの持つ武の異様さに気づいたからだ。
形狀は、剣に似ているがその持ち手は奇っ怪な形をしている。
そして、その刀の周りを無數の突起が周回しており、耳を澄ませば低い重低音が聞こえる。
ロウ達転移者がこの武を見れば、”チェンソー”という言葉を連想しただろう。
だが、それを知らない男は酒場で聞いた話を思い出した。
──飛沫を浴びてもじない殘忍を持った、駆除というおよそ人間扱いをしない言葉、極めて殺傷能力の高い奇妙な武……!!
そして、最近この辺りを騒がしている、ある名前を連想する。
「いくぞぉぉぉお!!」
同時に、もう一人の仲間がへ突撃する。
「やめろ! そいつは〖狂──」
「さあ、掃除・・を始めましょう♪」
帝國の夜、赤い満月の元に男達の斷末魔が響いた。
◆◆◆◆
「ん~~。スッキリしました」
の周りには、もはや誰の者ともわからない塊と無數の溜まりがある。
「掃除は終わった?」
そんな中、へ聲をかける人影が。
は、聲の聞こえた方──男達と出會った通りへと顔を向ける。
「ああ、セリシャですか」
そこには、覆面で顔を隠したが壁を背を預けて立っていた。
服は黒裝束である。
名前を呼ばれたは慌てる。
「ちょ、ちょっと! 外では〖影姫〗って呼びなさいよ! 〖狂姫〗!」
──〖狂姫〗はイタズラが功したような顔を見せる。
先程、慘殺劇を繰り広げたとは思えない。
「そうだしたね。スミマセン。はい、掃除なら今終わったところですよ」
”ほら”と言わんばかりにが手を広げて周りの景をアピールする。
どこに隠したのか、いつの間にかが手にあった武は消え失せていた。
セリシャはその景にピクリと眉をかした後、言葉を発した。
「まあいいわ。聞きなさい、〖狂姫〗あなたに、〈サハラの森・南部〉の調査命令が下されたわ。付添人は私と、〖牙姫〗よ」
その言葉に、〖狂姫〗は呆けた顔で言葉を返す。
「…それって、外へ行けるって事ですか?」
「まあ、そうね」
呆けた顔から一転、何処か惚悅とした笑みを浮かべると、はその場でクルクルと回り始める。
「ああ、素敵です♪ やっと外へ行けるんですね! これであの人に會う事が出來るかも!」
「そもそも、初任務であんたが、草原を更地に変えたり、味方のの雨を降らせたりしたければ、もっと早くに調査命令が出てたわよ」
セリシャの聲はには聞こえていないようだ。
以前として、笑みを浮かべながら回っている。
「……まあ、要件は伝えたから。ちゃんと準備しときなさいよね」
そう言って、セリシャは建のに沈み込んでいった。
それを見屆けたは立ち止まって空を見上げる。
「本當に、會えるかもしれませんね。──兄さん♪」
そう言って、見開かれたの両目は、夜空に浮かぶ月よりも濃い、紅をしていた。
──數奇な運命はいつも突然に。
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