《銀狼転生記~助けたと異世界放浪~》036 ~論爭と捕獲~
夜空に浮かぶ満月の下、今この場では、二人のの熱い戦いが繰り広げられていた。
「君は何を言ってるのさ!! おにーさんの魅力は外見だけじゃ図れないんだよ? おにーさんの本質は、その心に潛む邪とが見事に両立した素敵な魂にあるんだよ!!
そんな事も見抜けないなんて、神の名において、君をハーレムメンバーとして認めるわけにはいかないね!!」
「あなたこそ、何言ってるか理解不能。自稱神なんて、頭が沸いてるとしか思えない。私は”ロウが外見だけ”なんて言ってない。それに、ロウは最初から私の者、あなたにどうこう言われる筋合いはない!」
白熱する戦い、二人のはお互いに一歩も退く気はない。
「殘念でした~。おにーさんと最初に出會ったのは私です~! 私がメインヒロインです~!!」
紫髪の──サハラが言う。
「誰が最初に出會ったかなんて関係ない。ロウと一番長く一緒にいたのは私。ロウと一緒に寢たこともある」
金髪の──フィリが負けじと返す。
「くっ、羨まし─じゃなくて……。仕方ない。このままじゃ埒らちが開かないね。ここはお互い公平に、同時におにーさんの魅力をぼう」
いや、絶対お前の方が不利だったろそれ?
お前にとっての公平だろ? それ。
自分の話なのに、俺は渦中の外で、大人しく湖の畔ほとりに座って傍観してる。
「分かった。むところ」
いや、けちゃうのかよ!
なんか、フィリって自分が有利な時でも相手と同じ土俵に立とうとするよな。
別にどうってわけじゃねえんだが、損してるぞ?
「では、問おう! おにーさんの魅力的な表を二つ挙げよ!」
「そんなの、もう答えは出てる」
ちょっと待て!
なんだそれ!
本人の前で言っちゃうの? それ。
「「戦闘中と照れた時の表!!」」
どういうこと!?
「「・・・」」
沈黙。
そして
「君をハーレムメンバーとして認めよう!」
「あなたとは分かり合える」
お互いにい握手をわした。
「ちょっと待てい!!」
二人の顔が同時にこちらを向く。
「おに~さん。今聲をかけるのは野暮やぼってだよ。後で私だけに話しかけてね」
「ん。今、の友を結び合った所。ロウは黙ってて。私だけに聲をかけるなら許す」
お、おおう。
圧がスゲエ。
渋々、抗議の聲を引っ込める。
全く、何がしてえんだ。
あの邪神は……。
てか、なんでここに?
「なあ、サハラ?」
「何!?」
「・・・」
途端に、邪神が凄い勢いで顔を向けてくる。
何で、嬉しそうなんだよ。
……なんか、フィリの顔がメッチャ怖い。
まあ、いいや。
「なんで、お前がここにいるんだ?」
「……え?」
「…プフッ」
あ、フィリが笑いを堪えてる。
なんか面白いこと言ったか? 俺。
単純に、サハラがどうしてこの場にいるのか見當がつかねえだけなんだが。
というか、いつからいなかったのか、いつまで一緒に居たのか思い出せん。
確か、ダンジョン出た辺りまではいたっけ?
サハラは、時が止まったかのようにフリーズしている。
そして、意識が覚醒したと同時に、早口にまくし立てる。
「ちょっと!? おにーさん!? それは酷いよ!! 私、今までず~~っと変な空間に閉じ込められてたんだよ! もう何なのさ? あの空間は。
邪神の私を完全に封印するなんて! 末恐ろしいよ! 私、益々おにーさんに惚れちゃったよ!! コホンッ…それで、さっきおにーさんが呼んだからやっと出てこれたんだよ」
ああ~。
すっかり忘れてたわ。
確か、やっとダンジョン抜けたら〈サハラの森〉じゃん!
みたいなオチに切れて、サハラに八つ當たりの意味を込めて、【空間魔法】で収納したんだっけか。
「八つ當たりだったの!?」
おっと、ある程度の心は読まれちまうんだった。
これからは思考にも注意しねえと。
「え、ちょっと? あれ、無視? ねえってば!?」
サハラの言を適當に流しながら、俺はフィリと寢床につく。
こうして、夜は更けていく。
◆◆◆◆
「おい! そっちへ行ったぞ!」
「回り込め!!」
「ワイド、準備頼む!!」
「了!!」
夜の森に男達の喧騒が響く。
その數は五人程。
皆、上質なを目の前にした犬のように爛々らんらんと目をらせて、森を走っている。
「わ~ン!! こッチ、コナいデ~」
その中で、一際響く、辿々たどたどしさが殘る可らしい聲。
しかし、男達はその聲に聞く耳を持たない。
「ははっ、まさか、にらねえ調査任務の帰りにこんな奇跡が起こるなんてな~!」
「ホントだぜ、人語を喋るハーピーなんて見たことも聞いたこともねえ! こいつを捕まえりゃあ、好家の貴族共にはさぞ高く売れるだろうよ!!」
「そうなったら、俺達全員、一生遊んで暮らせるっすね!!」
「おらぁ、大人しくお縄につきやがれー!」
「ヒャッハーー!!」
「わーーーん!!」
そう、男達は〖アルデンス王國〗が冒険者ギルドから派遣した調査隊。
こう見えて、なかなかの凄腕である。
そして、男達の視線の先には、木々の間を飛行・・する一人のが。
もちろん、宙を飛ぶが普通のな筈はない。
には、本來腕のあるべき場所には緋の翼が、は紛れもない人間のだが、や部の辺りは、僅かな羽に隠されている。
膝から下は人間のそれではなく、鳥の特徴を反映した質そうな皮に覆われ、鋭利な鉤爪がある。
男達の言うとおり、彼はハーピーだった。
しかし、通常のハーピーは人語を話すことは出來ない。
その事から、ただのハーピーではないことが伺うかがえる。
「ア~~ん! タスけテー! ママーー! パパーー!」
「くそっ、やっぱ速え…!!」
「諦めるんじゃねえ! もうすぐでポイントだ。ワイドの腕を信じるしかねえ! ブッチ、 そのまま追いつづけろ!!」
「ハイっす!!」
「ヒャッハーー!!」
男達は、木々の間を素早いきで翻弄するハーピーのを、何度も見失いそうになりながらも、そのトリッキーなきに必死で食らいつく。
彼らは、大金を前に一歩も退くことは出來ないのだ。
永遠に続くかと思われた、大金を賭けたリアル鬼ごっこは、唐突に終わりを迎える。
「ワッ!! な、ナにこれ!!」
が空中で突然、何かにり付けにされたように、きを止める。
きが取れないようだ。
そして、が止まったと同時に、木から一人の男が歩みでる。
「我、糸使いのワイドの領域に足を踏みれたら最期、決して逃れる事は出來ぬ」
暗闇に目を凝らせば、うっすらと糸の用なが視認できる。
その糸が、まるで獲を待ちける蜘蛛の巣のように、木々の間に張り巡らされている。
はその罠の一つに捕まったようだ。
「ナイスだ、ワイド! やれ、ケビン!」
「おう、お縄につきやがれー!」
そして、に追いついた男達の一人──鉄鎖テッサのケビンがく。
「ふぁぁア!?」
途端に、ケビンから飛び出した鎖がを雁字搦めにし、地面に引きずり落とす。
「今だぜ、リーダー!!」
「おうよ! 電魔のロータの力、とくと思い知りやがれ!」
そして、リーダーと呼ばれた男──ロータが、を捕獲した鎖に電撃を流す。
「ピギャア!!」
そして、鎖を伝った電撃はに直撃、は甲高い聲を上げた後、ピクリともかなくなる。
どうやら、気絶してしまったようだ。
「お疲れっす! リーダー!!」
「おう、ブッチ! ナイス追跡だったぜ!! ワイドもな!」
「に余る栄」
「ヒャッハーー」
男達はお互いを稱えあう。
そこに、ケビンが鎖で簀巻すまき狀態になったを小脇に抱えてやってくる。
「リーダー。これからどうすんだ?」
ロータは辺りを見回す。
そして、巨大樹に開いた大きなうろを見つける。
「そうだな。今日は遅えし、あそこで野宿としゃれ込むか」
「お、良いねえ」
「賛っす」
「異議なし」
「ヒャッハー!」
男達は、夜の森は危険と判斷して、夜を明かす事になる。
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