《銀狼転生記~助けたと異世界放浪~》M037① ~僕らは、銀狼に出會います~
突如として僕等の前に表れた、白銀の狼。
……狼?
「ちょっと、この世界に狼なんていた?」
「おっきなオオカミさんだね~」
そう、ギルドに登録されている魔・魔獣の中に、狼系の魔獣はいなかった。
「どうやら、新種かな? おおかた今回のスタンピードもこいつが原因だろうね」
そこにいるだけで、を刺すような殺気と威圧に苛さいなまれる。
これほどの怪が森からやって來たなら、他の魔達が逃げ出すのも仕方ないね。
取りあえず、僕等の取るべき行は…。
「全員、戦闘準備!!」
「了解!」
「あいさーー!!」
『準備完了です』
僕等、Aランク冒険者パーティー〈草花の誇り〉に與えられた任務は王國の防衛。
それは、どれだけ相手が強大でも逃げるための口実にはならない。
ここは通すわけにはいかないんだ。
その時、銀狼がいた。
「ウァォオオオオオオオオオオオンン!!!」
「っ!」
「くっ」
「わっ!」
鼓を突き抜けるような、どの魔獣とも違う咆哮。
思わず後退ってしまう。
『!! 敵の魔力が増大しました! 來ます!』
「回避に専念して!」
銀狼が口を大きく開く。
まさか!
──ドウッッ!
直後、僕等の真上を通り過ぎるように、圧された空気のような波が放たれた。
砦・へ向けて…。
「霞ヶ浦さん!!」
『わかってます!』
今現在、砦にいる霞ヶ浦さんが、極太の熱線を放ち、空気の波を迎撃しようとする。
…が出來なかった。
──ゴガァアアアン!!
空気の波は、驚異度Bの魔なら一撃で倒せる熱線を巻き込んで、砦に直撃。
「霞ヶ浦さん!?」
『っ! こちらは大丈夫です』
どうやら、波によって崩れた防壁の近くには誰もいなかったようだ。
ふう、良かった。
「遠距離攻撃が可能なんて、聞いてないわよ」
凜が呟く。
「でも、やるしかないよ。白詰さん!」
「任せんさい! サラリー、よろしく!」
幾つもの巨大な火の玉が発生し、銀狼へと放たれる。
その火の玉の影に隠れるように、僕と凜が突撃する。
──ドガァアアン!!
全弾命中したが…効いている様子はない。
「うっそお!」
後方で聞こえる悲痛なび。
気持ちは分かるよ。
「柊流剣 【両斷】」
凜が仕掛ける。
「っ! 淺い!? ぐっ…かはっ!」
凜の攻撃は、銀狼のい皮に阻まれて淺い切り傷をつけるだけに終わり、逆に尾のカウンターをけて遠くへ吹っ飛んでしまう。
「凜!? この!!」
気合い一発、【限界突破】によって強化された能力で剣を振るう。
「グァウ!?」
右腕を切り飛ばす事に功する。
「よし!」
『! 天哉君、そこから離れて下さい!』
攻撃が通った事を確認して、もう一撃れようとしたところで、霞ヶ浦さんから退避命令が下る。
即座にバックステップを踏んで距離を空ける。
同時に、凜の無事も確認する。
「凜、大丈夫?」
「くっ、肋骨が二本折れてるみたい。これ以上はけそうにないわ。それにしても…」
僕等は呆然と目の前の景を目にする。
「氷の…鎧?」
「參ったな」
いつの間にか、傍へやって來ていた白詰さんが呟く。
そう、ただでさえ、質で攻撃が通りにくかったに白銀の鎧を纏っていた。
しかも、僕が切り飛ばした筈の右腕まで再生している。
かなり不味いね。
凜達に広がる絶の表。
それも當然だ。
凜は戦闘を続けられる狀態じゃないし、白詰さんでは火力不足。
霞ヶ浦さんも、今現在、牽制の攻撃を砦から放ってくれているけど、銀狼にはまるで効いてない。
つまり、まともに攻撃が通ったのは僕だけだ。
折角通った攻撃も、再生されたせいでおじゃんなんだけどね。
『…すみません。私の魔力も盡きてしまいました』
銀狼を牽制してくれていた霞ヶ浦さんの攻撃が止んだ。
途端に、銀狼はこちらへと、ゆっくりと歩み寄ってくる。
その姿はまるで、僕達に”向かってくるなら容赦はしない”とでも言っているようだ。
…覚悟を決めよう。
「凜と白詰さんは、砦の被害を抑えに行って貰えるかな」
「なっ!」
「ミッチーはどうするの?」
二人は、僕が何をするつもりか察したようだ。
「大丈夫。死ぬつもりはないよ」
「無茶よ! ”測定不能アンノウン”なのよ! 驚異度の上限を超えてるの!! 貴方のスキルでも対応しきれるかどうか!」
「そうだよ。ミッチー! ここは一旦皆で退いて、Sランクの人達の応援を呼ぼ?」
靜止の聲をあげる二人の。
僕は今から一人で、目の前を闊歩かっぽする銀狼と戦うつもりだ。
誰が何と言おうと、この覚悟は揺るがない。
ここで退いたら、たくさんの被害がでるからね。
それに…。
「やる前から諦める奴は、何もし得ない」
「っ! それは!」
凜がはっと表を変える。
「そう、君のお婆さんの言葉だ。この言葉の意味を考えて、僕がどうするべきか考えてしい」
俯く凜。
暫く逡巡しゅんじゅんし、そして……。
「わかったわ」
「ヒイちゃん!?」
「ありがとう。凜──」
「ただし!」
そう言って彼は、肋骨が折れた痛みに顔をしかめながら、立ち上がる。
「絶対に、生きて帰ってきなさい。じゃないと、は私が切り刻んで魔の餌にしちゃうんだから」
冗談かな、だけど彼なら本當にやりかねないと思い、苦笑しながら頷く。
「わかってる。命達ともう一度會うまでは死ぬわけにはいかないしね」
「……わかってるならいいわ」
そうだ。
離れ離れになってしまった命や明里達に會うまでは、死ぬつもりは頭ない。
それに、王國の為にも、必ず生きて帰る!
「し、死んだら、許さないからね! ミッチー!!」
負傷している凜に肩を貸しながら、白詰さんが去り際に言い放つ。
手を上げてそれに応える。
『武運を』
ありがとう。霞ヶ浦さん。
僕は、もう一度剣を構え直して、歩みよってくる”絶”を目に捉える。
震える足に鞭を打つ。
カタカタと小刻みに揺れる剣を強く握る。
本當は、今すぐ逃げ出したいんだけどね。
大見得切っちゃったから、退くに退けないや。
でも、これでいいと思う。
どうせ、戦闘にれば何も考えなくてすむ。
勝ち目だってゼロなわけじゃない。
まだ、僕には奧の手がある。
の底から湧き上がってくる恐怖を打ち消すように、ぶ。
「行くぞぉおおお!! 銀狼ぉおおお!!」
力強く、地面を蹴った。
じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出身の魔導士、通訳兼相棒の新米回復術士と一緒ずてツートな無詠唱魔術で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】
【2022年6月1日 本作が角川スニーカー文庫様より冬頃発売決定です!!】 「オーリン・ジョナゴールド君。悪いんだけど、今日づけでギルドを辭めてほしいの」 「わ――わのどごばまねんだすか!?」 巨大冒険者ギルド『イーストウィンド』の新米お茶汲み冒険者レジーナ・マイルズは、先輩であった中堅魔導士オーリン・ジョナゴールドがクビを言い渡される現場に遭遇する。 原因はオーリンの酷い訛り――何年経っても取れない訛り言葉では他の冒険者と意思疎通が取れず、パーティを危険に曬しかねないとのギルドマスター判斷だった。追放されることとなったオーリンは絶望し、意気消沈してイーストウィンドを出ていく。だがこの突然の追放劇の裏には、美貌のギルドマスター・マティルダの、なにか深い目論見があるようだった。 その後、ギルマス直々にオーリンへの隨行を命じられたレジーナは、クズスキルと言われていた【通訳】のスキルで、王都で唯一オーリンと意思疎通のできる人間となる。追放されたことを恨みに思い、腐って捨て鉢になるオーリンを必死になだめて勵ましているうちに、レジーナたちは同じイーストウィンドに所屬する評判の悪いS級冒険者・ヴァロンに絡まれてしまう。 小競り合いから激昂したヴァロンがレジーナを毆りつけようとした、その瞬間。 「【拒絶(マネ)】――」 オーリンの魔法が発動し、S級冒険者であるヴァロンを圧倒し始める。それは凄まじい研鑽を積んだ大魔導士でなければ扱うことの出來ない絶技・無詠唱魔法だった。何が起こっているの? この人は一體――!? 驚いているレジーナの前で、オーリンの非常識的かつ超人的な魔法が次々と炸裂し始めて――。 「アオモリの星コさなる」と心に決めて仮想世界アオモリから都會に出てきた、ズーズー弁丸出しで何言ってるかわからない田舎者青年魔導士と、クズスキル【通訳】で彼のパートナー兼通訳を務める都會系新米回復術士の、ギルドを追い出されてから始まるノレソレ痛快なみちのく冒険ファンタジー。
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