《銀狼転生記~助けたと異世界放浪~》039 ~【夢霧】~
心地良い朝日が差し込む森の中、そこに一匹のコボルトがいた。
獲を仕留めたばかりなのか、足元に転がる鹿の骸を嬉しそうに貪っている。
その無防備な背中を狙う敵が居ることを、食事に夢中な彼は気づくことはない。
途端、先程までの快晴が噓のように、周囲に怪しげな霧が立ちこめる。
心なし、その霧はコボルトを中心として渦巻いているようにも見える。
「ワゥ?」
異変に気付いたコボルトが顔を上げる。
が、彼は何も視ることが出來なかった。
「ゥオ!? アウッ!?」
突如として視力を失い、慌てふためくコボルト。
既に味覚も失っているのだが、彼がそれに気付く様子は無い。
そして──
「ンッ!」
「ギャフ!? ア…」
背中に鈍い痛みをじたと同時に、コボルトの意識は暗転した。
◆◆◆◆
「お疲れ、フィリ」
「フィリ君、お疲れさまー」
フィリがコボルトを倒したのを確認し、サハラと供に茂みから出る。
うつ伏せに倒れ込んだコボルトの背中と脳天には、短剣が深々と突き刺さっている。
「ロウ」
狼耳フードを下ろして、小走りで駆けよってくるフィリ。
上目遣いで俺を見上げるその表は、骨に”譽めてしい”と語っていた。
全く、可い奴め。
多、苦笑気味に彼の頭をでてやる。
未だに原理の分からないアホが、ピョコピョコと左右に揺れる。
獣の手では味わえない、指の間を通るような髪のが心地良い。
フィリも、気持ち良さそうに目を閉じている。
「…む~~~~~」
ずっとこうしていたかったが、隣の邪神の視線が痛いので渋々頭をでていた手をどける。
フィリの顔が、”もっと”と言っている気がしたが我慢だ。
我慢ったら我慢。
たまにはお預けも必要なんだ。
俺は軽く息を吐いて、話題を転換する。
「それで、新しいスキルには慣れたか?」
「……ん。だいぶ覚は摑めるようになった」
俺達はフィリのレベル上げとついでに新スキルのお披目をしている。
結果、フィリの新スキル【夢霧】はこれまたぶっ壊れたチートスキルだった。
【夢霧】:消費MP5×発時間 霧を発生させ、範囲の敵と認識した個全てを幻狀態にする。練度上昇により、効果範囲と発時間が上昇。
先程のコボルトは、このスキルによって視覚と味覚を失ったという幻覚を見させられていた訳だ。
コボルトの前に倒した、ゴブリンズには仲間同士が敵に見えるようにして同士討ちをさせたり、擬似的な分を再現したりなど、とにかく応用が効くスキルだ。
発時間によるMP上昇も、MPオバケのフィリには関係ない。
また、進化に際してフィリのは、前衛職も可能なステ構になっている。
…完全に俺の影響だよな。
しなやかでいて、バネのあるきは文字通り、狼を彷彿とさせるようなきだった。
幻を見せて攻撃の隙を作り、や刃に風を纏わせてドーピングを施し、獣のような能力から繰り出す短剣は、目を見張るほど完されたきだった。
クマサンとの、観てるコッチがヒヤヒヤするようなあの戦いが噓みたいだ。
ま、本人も異常はじてねえみたいだし、いらん心配だったか。
「そうか、そりゃ良かった」
「ん♪」
「……そういうおにーさんは、の調子はどうなの?」
ご機嫌なフィリとは対極的に、しご機嫌斜めなサハラが言葉を発する。
ああ、その事か。
「おう。すこぶる好調だぞ? この姿でくのもだいぶ違和が無くなってきたからな。まだ若干きにラグがあるじだが、心配するほどでもない」
サハラが言っているのは、俺が人化したときのの変化についてだ。
スキルによって、俺の人化時は元のステータスの半分程に制限されている。
つまり、この姿の俺はかなり弱化しているのだ。
丁度、昨夜のように進化直後で気分が高揚していたフィリに押し倒されるくらいまでにはな。
練度を上げることで、制限が外れてましになっていくとは思うが、一向に上がる気配は無い。
後々、三橋クラスメイト達に接する時の為にも、ある程度【人化】の練度をあげときたいんだが……。
「そ、じゃあ、早く次行こう! フィリ君が人間相手に無雙出來る位には鍛えてあげなきゃね♪」
「む。サハラに鍛えて貰ってるわけじゃない」
「な、なにぉおう!?」
フィリの正論に、出鼻を挫かれたサハラはフィリへとくってかかる。
たちまち、目の前で発生する口論──ここに來るまで何度も見たお馴染みの展開に苦笑しながら、仲裁にろうと手をばした時だった。
複數の魔力反応が近くまで來ている事に気付く。
「──フィリ! サハラ!」
「ふぇ?──ワプッ!!」
「…!?」
咄嗟に、二人のを抱き寄せて近くの茂みへと飛び込む。
「ちょっと!? どうしたのさ! おにー「靜かにしてろ!」──むぐっ!」
二人が聲を出さないように、頭を抱きかかえてに押しつける。
サハラはもがいて何か言っているが、頼むから靜かにしろ!
フィリは……なんか直してるが大丈夫か?
サハラに念を聞かせて大人しくさしてから、耳を澄ませていると微かに聲が聞こえてきた。
「おい。今あっちで聲がしなかったか?」
「あ? 気のせいだろ」
「リーダーの勘違いじゃないっすか?」
「我もそう思う」
「ヒャッハーー!!」
そして、生い茂った草に隠れて息を潛める俺達の視界に現れたのは、人が一人る位の袋を抱えた、人間・・の五人組だった。
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