「いいかい？　そもそも魔力というのはね──」

薄暗い部屋に備えつけられた窓から、深く生い茂る木々の合間をって差し込む朝の日差しが照らす部屋の中、ホワイトボードのようなモノ(魔道と言うモノらしい)を傍らに、そう教師然とした口調で語りかけてくるのは、數奇な運命の元に巡り會った同郷の志であり、ピアの父親でもある男──セドリック。

その表はとても真剣で、そこに普段の穏やかな笑みはない。

今、この場にいるのは講義をするセドリックと講義それをける俺の二人だけだ。

と、思わず口から欠がれ出してしまった。

慌ててセドリックに目を向け直す。

丁度、ホワイトボードにペンのようなモノを走らせていたセドリックは、こちらに背を向けているのでバレなかったかと思ったが…何故かセドリックは目聡くそれに気付く。

「む。聞いてるのかい？　ロウ君？」

やべっ…！！

「あ…ああ、聞いてた──」

「いや、聞いてなかったよね？　はあ……仕方ないからもう一度言うよ？　そもそも魔力というのは──」

くそっ、ま・た・だ。

ま・た・と言うのも、実は今セドリックが話している容は既に四、五回聞いていて、今したようなやり取りを軽く五十回以上はしている。

もちろん、それだけ聞いていれば最早頭からこびりついて忘れる事など出來ないレベルで、セドリックの講義容を理解してるんだが……。

セドリックがそれをよしとしない。

元々、俺は授業や講義といった、座ったままただ大人の話を聞くだけの時間が得意じゃない。

そのため、話の途中で集中力が切れたり居眠りをこいてしまうわけだが、セドリックは目聡くそれを発見しては何度も同じ話を聞かせる。

あれは、絶対前の世界で”教職”についてたな。

絶対やってた。

”後頭部に第三の目が存在するのではないか？”と疑念が生じる程の超直を持ち…生徒の気配と、椅子や機が時折立てる音のみで教室と言う狹い空間の狀況を把握する事が可能な超人生”教師”を。

くそっ、異世界に來てまで授業をけなきゃいけねえのか…！

まあ、この講義をけれたのは俺自だしな。

講義容も難しいが、理解しやすいように図や文字を使って教えてくれている點も問題はない。

ただ、一つ難點を言うならば…。

話がとにかく長いということだな。

「ああ、魔力はスキルと大きな関係を持っててね──」

今も、俺がこうやって話を聞くを裝いながら思考している間、何十分か時間が経った。

なのに、講義容は未だ魔力についてだ。

この調子で昨・日・の・夜・からずっと喋りっぱなしなのだ。

俺が欠をらしてしまったのも仕方ない。

要するに、俺は講義を聴くために一睡もしてないんだ。

もう、朝の朝禮で生徒を夢の世界へとう校長先生の挨拶なんか比べものになんねえ。

夜中から翌朝まで喋り続けるってどんだけだよ。

しかも、喋ってる本人には全く疲れが見えない。

こっちは、慣れないで森を歩き続けた挙げ句に突然の戦闘で疲労が殘ってるんだ。

寢てないせいで、今猛烈な睡魔に侵されてる。

しでも気が抜けたら寢る。

そういう段階だ。

ヤバい、マジで眠い…。

もう何度目になるか判らない枕詞を耳に殘して…夢の世界へと旅立ちそうになる。

と、唐突にドアが開いた。

途端にすぎ去って行く睡魔。

「ん…。ロウ、おはよ」

『おはよーございます。貴方、ロウさん』

そこには、寢起きでまだ意識がはっきりしないのか、半分も開いていない目をぐしぐしとるフィリと、既に寢間著姿を著替えてなりを正したビビアさんの姿が。

朝に極端に弱いサハラはともかく、ピアの姿も見えない。

どうやらピアはサハラと同類らしい。

「おや、もう朝だったか…。ちょっと熱中し過ぎちゃったね。ビビア、朝ごはん作ってくれる？」

フィリとビビアさんが起きているのを見たセドリックが、ここでやっと朝を迎えていた事に気づいたようだ。

ちょっとってレベルじゃねえよ。

ま、何はともあれ…やっと解放される！

フィリ達に謝だ。

更に、しっかりとした朝ごはんにありつける！

昨日のビビアさんがれたお茶は死ぬほど味かった。

その為、どうしても期待値は上がってしまう。

「おう、おはよ。フィ…リ──」

はやる気持ちを抑えつつ、そう挨拶を仕返して立ち上がったのがいけなかった。

視界が眩む。

…迂闊だった。

突発の立ち眩みだ。

長い間睡魔と戦ったはとうの昔に限界を超えており、一瞬の意識の明滅が…俺を眠りへとってしまった。

「ロウ！？」

「ロウさん！　あなた、ロウさんに何を！？」

「ロウ君？…い、いや、誤解だって、ちょっ…まっ…ウゴァ！？」

その聲を最後に俺の意識は途切れた。

結局、俺が意識を取り戻したのはその日の夜中だった。

頭に巻く包帯が更に増えたセドリックやそんな彼に怒り心頭なビビアさんに再度謝罪をけ、俺が意識を取り戻したことに涙したフィリに泣き付かれ、その日は彼と一緒に就寢した。

朝飯を食べ損ねたのは殘念だったが、まあ久しぶり的になったフィリと彼のお姫様みたいな寢顔も拝めたし、悪くない一日ではあった。

──因みに、誰にも起こされることの無かったサハラとピアはその日、一日中ベッドの上で寢息を立てていたらしい。