《「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。》第一章 第十一話 雙子
「え……あ、ちょっと! 待って!」
ヴォルムが出て行くと同時にそうんだのは、著の代わりにフィオの服を著た――イチョウだった。
しかしその聲は、彼が急な展開に呆けている間に玄関のドアを閉めていたヴォルムには屆かない。
「あいつらは全員夜の戦闘に特化していて……!」
現在外は真っ暗。年長組が帰ってきた頃はまだ夕日が輝いていたが、夕飯を食べている間に日が沈んでいたようだ。
イチョウはこれでは勝ち目がないというような絶的な顔をしていたが、この場にそんなことを思っている人は他にいなかった。
その証拠に、フィオは立ち上がり、
「ほら、なにボサッとしているの。食、片付けるわよ」
と座ったままの俺たちに指示を出した。
當然、それに逆らう理由もないのでみんなが各々食を運び始めたのだが、やはりいつもと違う食卓はいつもと同じようにはさせてくれなかった。
「ちょっと! 皆さんなんでそんなに落ち著いているんですか!」
いきなりの大聲に一瞬みんなのきが止まる。
「逆になんでそんなに慌てているのよ」
が、フィオの一言ですぐに何事もなかったかのようにき出した。
「だって……ヴォルムさん、武も持たずに出て行ったんですよ? こんなところに住んでいるのだからそれなりに強いのかもしれませんけど、たかが孤児院の管理者じゃないですか。相手は集団、それも國に雇われた腕の立つ人たちですよ!」
「だから何だって言うのよ。ヴォルムならそれくらいの敵、敵だとも思わずに一瞬で塵に――いや、塵も殘さないくらいに刻んでくれるわ」
だからそんなに騒ぐな。そんな言葉を視線に込めて、フィオはイチョウに目を向ける。
イチョウはまだ何か言い返そうとしていたが、ここでやっと自分以外は誰も騒いでいないことの意味に気付いたようで、不満を殘しつつもおとなしく黙った。
それから數分後、フィオを中心とした子組が食を洗い、片付け、殘った男子組が談笑している橫で、俺は機を拭いていた。
イチョウは一応客人という扱いをけるようで、ソファーで獨り思いに耽っている。
さすがに年組でさえ不用意に騒いだりしなくなるほどの重たい空気が流れていた。
そろそろイチョウが心配を通り越して泣き出してしまうのではと思われたその時、玄関のドアが開く音が靜かとは言えない部屋に響いた。
その場にいた全員がきを止め、音のした方を見ると、そこには小さなの子二人を両手に抱えたヴォルムが立っていた。
「ただいまー。ちゃんと片付けはできてるかー?」
何と言うか、気の抜けるような帰還だった。
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「モミジ! ユキ!」
イチョウがそうんでヴォルムに駆け寄り、二人が生きていることを確認し、思った通りに泣き崩れてしまってから十分弱、だいぶ落ち著きを取り戻してきたイチョウが話をするということで、一同はもう一度食堂に集まることとなった。
「まず、此度は助けていただきありがとうございます。そしてごめんなさい。ヴォルムさんが出て行ったときに、絶対に勝てないと思って取りしてしまいました。迷だったでしょうし、ヴォルムさんに失禮だったなと、思います……」
イチョウはお禮を言った後に弱々しく謝り、俯いてしまった。
「いいんだよ、そんなことは。初見で俺が強いって分かる奴の方が珍しいんだ。それより――」
ヴォルムはイチョウの謝罪を軽く流すと、目つきを鋭くする。
「――人質なら現地にいくらでもいただろうに、お前らが追われてた理由を話してもらおうか」
そして、聲のトーンを落としてそう訊いた。
言われてみると確かに、半年もかけてここにまで來たのにまだ追ってくるというのはおかしな話に思えた。
イチョウが死んでいなかったのはある程度抵抗できることと、フィオに助けられたからだと思っていたが、もしかしたら何か他の理由があるのかもしれない。
「……分かりました。でもその前にこの子たちの紹介をしておきます」
そう言ってイチョウは寢てしまっている二人の子供を抱き上げた。
「この子たちは雙子で、この赤い髪の方が姉のモミジ。水が混じった白い髪の方が妹のユキ。まだ一歳にもなっていません」
イチョウの時點で思っていたが、東方列島の人の名前には日本の言葉が使われているのか今のところ三つとも聞き覚えのある単語だった。
それも見當違いな名稱ではなくて、きちんとそれぞれの特徴にあった名前が付けられている。
なくとも著はあるようだし、もしかしたら東方列島には日本の文化があるのかもしれない。
だとしたら行ってみたいものだ。
「それでは、本題にります」
依然固い雰囲気のイチョウの言葉に、年長組や俺は居住まいを正した。
「半年逃げても追手が諦めなかった理由、それは、モミジとユキがし特殊な質だからなんです」
「ほう、特殊質か。何かの呪い持ちか何かか?」
初めて聞いたが、呪とは別に「呪い」というものもあるようだ。
それについては全く分からないので、明日の授業の時にでもヴォルムに教えてもらおう。
「いえ、呪いではありません。この二人は、生まれながらの特異技能ユニークスキル持ちでして、詳しいことは分からないのですが、鑑定板によるとそれぞれ技能スキル名が《モミジ》と《ユキ》だったので間違いないかと」
「なるほど、特異技能ユニークスキル持ちか。それが西の大國とやらにバレたわけか……」
これまた気になる単語が出てきた。
ユニークスキル。魔や魔法とも違うのだろうし、スキルというと剣とか槍とかそんなものを思い浮かべてしまうが、名前からして違うのだろうな。
どんなものなのか楽しみである。
「……はい、そしたら急に二人を狙ってくるようになって……私はたまたま世話をする手伝いをしていただけなんですけど、急に押しかけてきて大人が殺されて、護程度でも戦えて良かったと心の底から思いましたよ」
「へぇ、怖くなかったのか? 護じゃ無理があっただろうに」
「怖かったに決まってるじゃないですか! どこまでも追って來るんですよ? 何度死を覚悟したか……」
イチョウがし涙目になりながら語気を強めるが、対するヴォルムは冷たい目をしていた。
「……あんた、何者だ? 俺が戦ってみた想としてはあの集団、國が雇ってるだけあって相當強かったぞ。それからお荷抱えて半年逃げるって護じゃ厳しいと思うんだが」
あまりにも冷え切った聲に聞いていただけの俺でさえ震いしてしまったが、その言葉が抜けられた本人は押されることなく、張り付けたような笑みを浮かべた。
「……相當強いって言いながら武も持たずにすぐ帰ってきたヴォルムさんが何者なのかも気になるところですけど、今は私たちの話ですね。噓は通じなさそうですから、包み隠さず話しますよ」
両者が睨み合い、重苦しかった空気が異様な迫を含むものとなった。
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