《「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。》第一章 第十二話 イチョウの正
すみません!
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ヴォルムとイチョウ、二人が睨み合い、場に張した空気が流れる。
子供たちは年長組だとか年組だとかそういうことは関係なくこの空気に呑まれてしまっていた。
だがそこに、プレッシャーだと思っていないのか空気が読めないだけなのかは分からないが、欠をした二人の男がいた。
一人はヴォルム。睨み合いの當事者でありながら圧倒的な余裕を見せつけている彼は、実際に余裕があるのだろうし、もっと言うならイチョウの話を聞く前からその容のほとんどを予測できているのだろう。
もう一人は俺。正直に言うが、この話、聞いていて面白くない。イチョウが噓をついてもヴォルムには筒抜けだし、意味不明な単語が出て來るし、俺には一切関係ないし。
退屈すぎて段々眠くなってきてしまった。
眠っても良いかとヴォルムに聞こうと目を向けると、むこうもこちらに目を向けていたた。
「おい、スマル、お前欠なんかして、自分には関係ないとか思ってるんじゃないだろうな」
いきなり何を言うのかと思えば欠をしたことに対する注意だった。
さすがヴォルム、ご名答。
関係ないから寢ようと……って、その言い草だと俺にも関係あるように聞こえるのだが?
「ここで引き取ることになったらお前とほぼ同い年の子もいるんだ、教育係とまではいかないが、先輩としてしっかり仲良くしてやってくれよ」
どうやらヴォルムは著たちをここで引き取るつもりらしく、同年代の子――モミジとユキの世話役のようなものにしようとしているらしい。
俺は斷固反対すべく、この話し合いが始まってから固く閉ざしていた口を開く――
――が、俺が抗議の聲を上げるより早く、何者かが先に抗議した。
「何言ってるんですか! 私たちは國に帰ります! 話、戻しますよ!」
イチョウの聲だった。
「悪い悪い、本當はお前が何者なのかの話だったな」
かくして線した話は元の軌道に戻ることとなった。
……戻って、しまった。
まだ、俺が反対の意を表していないのに。
ヴォルムがこんなことを言い出すということは、著たちがここに引き取られるのは確定事項なのだろう。
それはイチョウがこれから何をしようと揺るがないことであり、むしろ、何かをすればするほど揺るがないということを思い知らされるだけになるだろう。
それほどまでに、ヴォルムという男は、どこか飛び抜けているのだ。
その実力は、ここに住む子供が信じるものであり、新參者の俺でさえ、ここに來てまだ半年ほどだがなんとなく分かるほどの圧倒的なものなのだ。
つまり、著たちが引き取られることが確定した時に、俺が世話役をするという案に異議を申し立てることができなかったことで、俺が世話役をすることまでが確定してしまったのだ。
なんてことだ、異世界生活これからだというところで、こんな展開になるなんて……。
「ほんじゃ、そこで絶してるチビは置いといて、話進めますか」
いかにも絶してます、というような顔を作ったつもりだったが、というかそう見えていたはずだが、ヴォルムは非なことに俺のことは無視して話を進めるようだった。
「私の正でしたね。私は平たく言うと近衛兵です。正式には、東方列島第四位島――通稱ジープン――統領、ドン=サイゴウが影、特殊暗殺部隊所屬、イチョウ。ということになっています」
イチョウもそれに乗って話意を始めてしまい、俺が口を挾める雰囲気ではなくなってしまった。
「暗殺部隊、ねぇ」
「はい、私はドン様の隠し子でして、公にされることなく小さいころから暗殺部隊員として訓練をしてきました。今回も非戦闘員を裝って人質――モミジとユキを奪還する手筈だったのですが、予想以上に相手が強く、なんとか逃げられはしたものの多くの人を犠牲にしてしましました。その上ここまで來て捕まってしまって……」
それにしても、ドン=サイゴウという名前、完全に聞き覚えがある。
もしかしたらドン様とやらは日本人か、あるいは日本のことを知っている人かもしれない。
ジープンには一度行ってみる必要がありそうだ。
「なるほど、だから東方列島出とか言いながらこっちの言葉が話せたわけか」
「はい、暗殺部隊ではこの世界の主要言語を話せるようにしています。どこに行っても現地の人の協力を得るためには言語の壁を超える必要があると、ドン様は言っていました」
ヴォルムには翻訳の魔があるから問題ないが、基本的には言語は學ぶしかない。
さすがに統領というだけあってなかなか頭は使えるようだ。
「そっちの事は分かった。安全のためにもここで暮らせよ。俺が連絡とってやるからさ」
やはりヴォルムはここに住まわせるつもりらしく、正はどうでも良かったのかいきなりそんなことを言い出した。
「私たちは國に帰ります。貴重な戦力になるかもしれない子供たちをここで手放すわけにはいきません」
イチョウの主張はごもっともで、俺からすると反論の余地がないように見える。
だが、
「じゃあなおさら、ここで帰ろうとして死ぬより、俺がきっちり教育してやった方が良いじゃねぇか。俺は別に見返りなんて求めてないし、ついでにあんたも強くなって帰れる。良い話じゃねぇか?」
ヴォルムはどうにかして引き止めたいようだった。
「あなたの教育者としての実力が分からない以上はそんなことはできません。帰ります」
しかし、これまた正論で返されてしまう。
それでも折れることのないヴォルムは、
「じゃあ、俺が育ててきた子供とお前が戦ってみれば良い。それで分かるだろうさ。明日の晝にイチョウ対フィオ。異論は認めない」
フィオと戦わせることで自分の実力を認めさせようという魂膽らしい。
対するイチョウは年下が相手に出されたことを挑発とけ取ったようで、簡単に乗ってきた。
「良いでしょう、年下だからって手加減はしませんからね」
キッとフィオを睨むイチョウ。
悪い笑みのヴォルム。
「じゃあこれで一旦解散すっか。明日に備えて早く寢ようぜ」
そんなヴォルムの一言が、俺が世話役になることへのカウントダウンに聞こえた。
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