《「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。》閑話二 武
時は數か月前――まだ俺たちが修行を積んでいた頃に遡る。
「スマル、お前は何か武を使ったりしないのか?」
そうヴォルムが訊いてきたのは、モミジとユキの二人からの攻撃を防魔で防ぐ、という実踐的な修行をしていた時だった。
「武?」
普通に戦えているのに、なぜ必要なのかと思って訊き返すと、
「ああ、モミジもユキも鉄扇を使っているだろ? それが主力になっているかはともかく。お前も魔が主なら魔力切れした時のためにも何か持っておいた方が良いんじゃないかと思ってな」
とのことだった。
言われてみると確かに、魔や呪、妖を主力として戦っている俺たち三人は、エネルギー切れに陥った時に一気に弱化する。
三人ともヴォルムの厳しい訓練を耐え抜いただけあってエネルギー量は多い方なのだが、それでも旅に出れば何が起こるか分からない。
エネルギー切れを起こした狀態で命の危険にさらされることだってあるかもしれないのだ。
だが、一応そんな時のために、俺は得を必要とせずだけでできる武をヴォルムから教わっている。
それだけではダメなのだろうか。
「前に教わった武じゃダメなのか? あれでも十分戦えると思うんだが」
「絶対にダメってわけじゃないが、なんだかんだ言って武ってのはエネルギーを使うことを前提にしてる節があるからな。オススメはできない」
要は、エネルギーを纏っていないでは攻撃を防ぐことができないし、攻撃する時には自分に衝撃が返ってきてしまうということだろう。
他に何も手段がなければ武を使うしかないが、それ以外の場面で武を持っていた方が良い理由がやっと分かった。
「そうだな……剣とかが無難か……?」
この世界でも、テンプレ通りと言うべきか、剣が発展していた。
剣協會なるものまであり、數えきれないほどある流派の統計や、運営の援助、見習い剣士への紹介など剣に関する様々なことを取り扱っているそうだ。
その中に剣士の階級管理というものがある。
名前から分かる通り剣士を階級分けするのだが、詳しい容はさておきこれには五つの階級が存在する。
下から見習い、下級、中級、上級、達人だ。
ちなみにこれは槍や弓、魔など、他の武やを扱う人にも同じ分け方をするため、使う武が違う人と比べた時でも実力差が分かりやすくなっている。
一般的に、剣を習いたければ各流派の上級以上の人を師として教わる必要があるのだが、ここにはヴォルムがいるため特に探したり頼み込んだりすることにはならなさそうだ。
ちなみに、ヴォルムが扱える剣の流派は細かく分かれているのも合わせると百を超えるらしい。
実際には同じきがいくつかあるから言うほど多くはないとは言っていたが、そもそも一つの剣を長い時間の中で極めていくのが普通なのに、それを百もやってしまうというのは凄いどころの話ではない。
異常も異常。
それは最早人類には理解不能な域に達しているのではないだろうか。
俺としてはちゃんと教われるならそれで良いのだが、流派の選択肢が多すぎてどれを選べば良いのかが分からない。
魔が使えない時のためのものだし、防特化が良いだろうか。
「防特化の流派とかってあるか? あったらそれにしようと思うんだけど」
「もちろん、あるぞ。數が多いから俺が勝手に選ぶが、良いか?」
「ああ、頼む。俺は何も分からないからな」
それから俺は、ヴォルムから鏡水流というけ流しやカウンターを得意とする流派の剣を教わった。
短期間で基礎からし発展した容までできるようにはなったが、そこで剣は違うと思い、今度は槍を教えてもらうことになった。
こっちは突式槍という突きを主とした槍だったが、これもダメだった。
それなら、と々と試していった――というかその全てを軽く習得していったのだが、剣から始まり槍、斧、槌、棒、トンファー、鞭、弓、魔力銃と試した全てがしっくりこなかった。
どれも戦闘中に落ちているのを見つけたら拾って使うかもしれない、くらいの覚で、全く魅力をじないのだ。
「どんな武でも上級程度にならすぐなれるが、どう頑張ってもそこから先には行けないタイプ」
というのはヴォルムの俺に対する評価だ。
どうしたものかと悩んでいると、
「なんなら全部使っちゃえば良いじゃない」
「……種類が多いのも、強み」
とモミジとユキが言ってきた。
種類が多ければ相手の武と相の良い武で戦えるので、その點では全部使うという選択は悪いものではないのかもしれない。
しかし、これだけ多くの武を常に持ち歩くなんてことは不可能だ。
再び悩んでいた俺に、今度はヴォルムが提案をしてきた。
「なら、便利な魔を教えてやろう。生魔と空間魔だ」
生魔とは「風」「水」「土」屬の本質を扱った魔なのだそうだ。
それぞれ空気、水、土を生してるこれらの屬は、生するものが違うため一般的には別のものとして考えられているが、実際にやっていることは全く同じで、分ける必要がないらしい。
応用すれば金屬を好きな形に造形しながら生することすらできるので、自分の好きなように武が作れるようになるのだとか。
空間魔とは、「無」と「闇」屬の複合屬魔で、収納空間アイテムボックスのように出しれ可能な空間を作ることができる他、空間移テレポートなどもここに分類される。
「これで持ち運びについては解決できるが、魔力を使うからなぁ……」
このようにして問題が一つ解決されれば新たな問題が生まれ、それが解決すればまた問題が、と巡っている間に、俺はヴォルムから々な技を教えてもらった。
そして、エネルギーを直接武にする方法を教えてもらったところで、エネルギーの短剣を周囲に浮かべる戦い方を思い付き、結局それが主力で、サブとして収納空間アイテムボックスに各種武をれておくというスタイルに落ち著いた。
これでは収納空間アイテムボックスに魔力を使ってしまうと思ったが、そう言うとヴォルムが俺のローブの側に魔法陣を描いてくれた。
なんでも魔法陣の中に周囲の魔力を貯めておく機構を取りれたとかで、れて念じれば消費魔力のない魔に限り発できるそうだ。
そんな便利なものがあるなら先に教えてしかったが、
「貯蓄できる魔力量がなすぎて使い所がなかったからな、それに世間的には未発見の技だし。そもそもお前が何かの武に絞ってくれれば終わった話だろうが」
と怒られてしまった。
ごもっともであるし、俺もその點に関しては申し訳なく思っている。
々考えたのに、最終的に最初と変わらない得を持たないスタイルになってしまったが、それまでに多くのことを學べた。
生魔なんかは戦闘で使わなくても、日常でお世話になることがありそうでありがたい。
こうして俺は攻撃力――當分使いそうにない技能ばかりだが――を手にれ、試験に挑むことを決心するのであった。
お読みいただきありがとうございます。
今回は防力ガン積みのスマルが素手で戦うに至った経緯の話でした。
さて、次話から第二章にるわけですが、暇がないこととプロット整理のために來週の更新はお休みさせていただきます。
再來週からは通常通りの更新です。
途中矛盾する點があったため、修正しました。
し苦しいかと思いますが、ご容赦ください。
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