《「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。》第二章 第三十話 宿

運ぶ、と言ってもおんぶや抱っこではなく、肩を貸すという形で門の前までやってきた俺たちは、兵士から門番へけ渡され、國審査をけた。

國目的を聞かれたり分の証明をしたり、危険の検査などをする簡単なものである。

ギルドカードや國からの認定証、招待狀など分を証明できるものを持っていなかったが、國目的が冒険者ギルドへの登録だったからかスムーズに事が進んだ。

この國では分証明ができない人は、金を払うことで仮國許可証を発行してもらうルールになっているそうで、一人につき銀貨一枚で発行してもらえる。

その効力は五日間で、それを超えて國の中にいた場合、不法國扱いされるというので注意が必要だ。

分の証明ができればいくらいても問題ないとのことなので、冒険者ギルドでギルドカードを作り次第もう一度ここに來よう。

使役した魔――フォールの分も合わせて、俺たちはヴォルムから貰った路銀の中から計四枚の銀貨を支払って國にることとなった。

ちなみにこの世界での貨は一般に屑貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨となっており、十枚で次に価値のある貨一枚と同じ価値になるようだ。

屑貨は分かり辛いが、主に使い道のない金屬を適當に混ぜて作っているらしい。

日本円でどのくらいの価値なのか計算を試みたが、価が違うせいでできなかった。

外壁の中にってすぐの辺りは、出國者が多いせいか人が多く、それを狙って商売をする商人たちも併せてとても賑わっていた。

主に食べの屋臺が多く、次いで小売り、數はないが寶石を打っている店もあった。

普通ならここで何かを買ったりするのだろうが、俺たちは朝から歩き続けたせいで既に力の限界が來ている。

空腹はあるにはあるのだが、とりあえずは宿屋を探すことになった。

疲れたを引きずって人ごみの間をうように歩いていると、徐々に人の度が減ってきたところである看板を見つけた。

向日葵ヒマワリを模し、『宿屋 だまり亭』と書かれたその看板は、どこからどう見ても俺たちが探している、宿屋の看板だ。

どのくらいの質や値段なのかは全く分からないし、一応門番さんに訊いておいたオススメの宿とは違う場所ではあるが、なんとなくネーミングや看板の溫かみから、一旦中にってみるとこにした。

「こんにちはー」

オレンジに塗られたドアを開け中にる。

すると、し強めの花の匂いが鼻腔を抜けて行った。

「いらっしゃい。お客さん、一人かい?」

って左側、聲の聞こえた方を見ると、黃やオレンジ、淡い赤など暖の服を著こなしたふくよかなおばさんがカウンターの向こうに立って、どこかふてぶてしい雰囲気でタバコをふかしながらこちらをまっすぐ見つめていた。

宿というよりはバーにいそうなおばさんだ。

目が痛くなりそうなから目を逸らした俺は、外を指さしながら答える。

「いや、外にあと二人。それと魔を一使役しているんだが、ここは魔っても大丈夫か?」

フォールを見た門番が驚かなかったことから、テイマーがある程度の數はいるものだと考えられる。

つまり宿屋も魔を連れた客を想定してるはずなので、そう簡単に斷られたりはしないはずだが、もしもの時のためにフォールは外で待っていてもらっている。

モミジとユキもそこについて待っている。

「種類による。けど、馬小屋の無いうちに來るような魔なら大型ではないんだろう。跳んだり騒いだり暴れたりしないのなら自由にってくれ」

おばさんは、そう言うと俺の返事も聞かずにカウンターの奧へ消えて行ってしまった。

若干置いてけぼりになりつつ、外で待っている二人と一匹を中に呼ぶ。

さすがに手続きがあるだろうと思ってもう一度カウンターの方を見ると、驚くことに若返ったおばさんが奧から出て來た。

驚きを隠せず目を見開くと、そこにいたのはさっきのおばさんではなく、違う人間――おばさんと同じオレンジの髪をポニーテールにした快活そうな――であることに気付いた。

れ替わりで出て來たのだろう。

とにかく話を聞くためにカウンターの方へ向かう。

カウンターの付近はまだおばさんの吐いた煙が殘っていて、タバコ獨特のヤニ臭さを覚悟したが、そこに漂っていた煙は建った時にじたのと同じ、花の匂いがした。

タバコのせいでこの宿はこんな匂いなのかと納得していると、カウンターの向こうでおばさんの代わりに立っていたが口を開いた。

「いらっしゃい。すみません、母は父が死んでからずっとあんなじで……。お客さんは三人と魔が一ですね。何泊にしますか?」

この娘の母だというおばさんの態度には不満があったが、訳アリのようなので深くは訊かないことにする。

そんなことより、宿に來たは良いものの、何泊するのかを決めていなかった。

今更話し合うのも格好悪いので、さっさと言ってしまおう。

「じゃあ、三泊で」

他の二人には確認を取らなかったが、最低でもそれくらいはこの街にいるつもりだし、長くなりそうなら追加で払えば良いので、まずは短めにしておく。

「三泊ですね。三人と一で銅貨が……えと、二十一枚だから……銀貨二枚と銅貨一枚です!」

拙いながらも指を折りながら計算してくれたは、そう言って木製のトレーをカウンターに置いた。

そこに貨を置けということだろう。

俺は路銀をれた袋から言われた通りに銀貨二枚と銅貨一枚を出すと、そのトレーの上に並べた。

はそれを確認し、トレーを下げる代わりに部屋のカギを取り出した。

鍵のない宿もあるとの話だったので、ここはそれなりに良い宿なのかもしれない。

俺がそのカギをけ取ると、は宿の説明を始めた。

「部屋は二階にあるので、そこの階段から上がってください。一階は一応食堂となっていて言ってもらえれば別料金で食事を提供するのですが、タバコの匂いと煙があるのであまりここで食べようという人はいませんね……」

初めはハキハキと喋っていたが、食堂の話になった途端に元気がなくなってしまった。

どうにか笑顔のまま保っているが、どこか悲しげな雰囲気だ。

俺としては宿が機能していればそれでいいのだが、外にあれだけ人がいてここには一人もいないことを考えるとと、匂いのせいで客足が途絶えてしまっているのではないだろうか。

自分には関係のないこととは言え、目の前で落ち込まれるのはあまり気分の良いものではない。

そんなことを思っていると、モミジが口を開いた。

「確かに煙いけど、私はこの匂い、嫌いじゃないわよ」

続けてユキもコメントする。

「……換気すれば、問題ない」

ユキに関してはフォローになっていないような気もするが、気遣っているのは伝わったのか、は目に涙を浮かべながらも笑顔で「ありがとうございます」とだけ言った。

相変わらず悲しげな影はあるが、いくらかはましになっただろう。

特に関わるつもりはなかったが、二人がそんな態度なので、俺もそれに乗っかる。

冷たい人だとは思われたくないからな。

「実は晝飯がまだなんだ。部屋に荷を置いたら一階に戻ってくるから、用意をしておいてくれないか」

「――! はい! ありがとうございます!」

今度のは驚き半分嬉しさ半分といったような反応をして、深々と頭を下げた。

後ろでまとめた髪がバサッと勢いよく跳ね上がる。

俺はその様子に、安心したような微笑ましいようなを覚えて、二階へと上がった。

遂に三十話目です! ありがとうございます!

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