《「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。》第二章 第三十三話 看板娘

ギルドの仕組みが分かったところで、まずは何をしようか。

いきなり観ができるほど金銭的な余裕がないため、依頼をけるしかないのだが、正直なところ今日は休みたい。

フォールは明らかに元気がないし、さっきまではしゃいでいたモミジとユキも俺に連行されてからは靜かにしている。

みんな疲れているのだ。

「あそこに依頼がってあるみたいだが、どうする?」

一応、意見確認のために、依頼の書かれた紙が張り出されたコルクボードのような板を指差しながら言うが、誰もけようとは言わなかった。

「もう疲れたわ、帰りましょう」

「……眠い……」

満場一致で宿に帰ることに決まり、俺たちは帰路に著いた。

宿に著くと、ふくよかなおばさん――この宿の將さんが出迎えてくれた。

と言っても、ふてぶてしい上にタバコをふかしつつ聞き取れないくらいの小聲でボソボソ喋るので、何と言っているのかは分からないし、歓迎されていないようにじてしまう。

実際にはこれでも客として扱ってくれているのだろうが、さすがに疲れているのにそんな態度を取られるとイラっとしてしまう。

だが、そこで突っかかると無駄に力を使うことになるので、俺たちは軽く會釈をするだけに留めて二階の部屋に向かった。

鍵を開けて部屋にるなり、俺は一番近くのベッドに倒れ込んだ。

疲労の溜まった足が解放され、ジワジワと何とも言えない倦怠がまとわりつく。

と、同時に、ベッドの両脇に衝撃が加わる。

その発生源はモミジとユキだ。

他にもベッドはあるのだが、誰一人として部屋のり口から遠い方のベッドに辿り著けた者はいなかったようだ。

そのまま倒れていたかったのだが、一日歩き回ったままので寢てしまうのは汚いので、一旦起き上がって、を拭くことを提案した。

もう既に眠りかけていた二人も、汗や土に塗れたまま寢るのは嫌だったようで、ゆっくりではあるがを起こす。

俺はその間に部屋に元から置いてあった桶に魔で水を張り、旅用の鞄の中からタオル代わりの布を三枚取り出した。

その作業を終えてもまだ二人は眠そうに舟を漕いでいたので、濡らした布を軽く絞って首筋に當ててやる。

「うひゃい!?」

「うにゃあ!?」

狙い通り、二人は可い変な聲を上げて跳び起きた。

即座に顔を真っ赤にして恨めしそうな目を向けてくるが、何か文句を言おうとして言葉が出てこなくなるほどに揺している二人の姿は俺を喜ばせるだけであった。

いつまでも笑っていると何をされるか分かったものではないし、二人とは兄妹のようなものだが、を見るわけにはいかないので俺は部屋の外に出る。

「こ……ここ、この、バカァ!!」

「……許さ、ない……!!」

扉を閉める寸前、やっと形をした恨み言が聞こえたが、

「拭き終わったら教えてくれー」

俺はそれを完全に無視した返事をしておいた。

二人からの報復に気を付けなくてはな。

それから數分、廊下でボーっとしていると、不意に聲を掛けられた。

「あれ、スマルさん、こんなところで何をしているんですか?」

聲のした方を向くと、その聲の主はオレンジポニテの看板娘ちゃんであった。

「今、中で子組がを拭いてて、俺は外で待機中。そっちこそ、何かあった?」

「ああ、なるほどです。私は皆さんにお夕飯はどうするのか訊きに來たんですけど、もうどこかで済ませてたりします?」

言われるまで忘れていた、というか夕飯のことはほとんど考えていなかった。

最悪食べなくても死ぬことはないし、晝が遅かったせいで空腹をじていないので大した問題だとは思っていなかったが、どうしようか。

「うーん、まだ食べてないんだけど、中の二人がどうしたいかが分からないことには何とも……」

「分かりました。あとどれくらいかかりそうですか?」

変に遊んだりしなければ、を拭くのにはそこまで時間はかからないはずだ。

遅くても十分あれば充分だろう。

現在既に五分は経過しているから、もうすぐなはずだが、一応訊いてみることにする。

俺はノックをして部屋の中にいる二人に聲を掛けた。

「おーい、あとどれくらいかかりそうだ?」

「待って、もうすぐだからー! 二分もかからないからー!」

訊いている途中でこのまま夕飯の話も訊いてしまえば良かったことに気付いたが、もうすぐで終わるというし、聲を張るのが億劫なので気付かなかったことにした。

「二分もかからないなら、ここで待ってますね」

看板娘ちゃんは二人が出てくるのを待つそうだ。

つまりは看板娘ちゃんと二人きりなのである。

折角なので、々と話をしてみよう。

もしかしたらまだ知らないこの世界の報が聞けるかもしれない。

だが、その前に、

「あ、そうだ、名前教えてよ。呼ぶときとか不便だからさ」

なんだかんだで今まで知らなかったの名前を訊いておこう。

「そういえばまだ自己紹介してませんでしたね! すみません。私はサニと言います。見ての通りこの宿の従業員です。改めて、よろしくお願いします」

「スマルだ。さっき冒険者になった。よろしくな」

俺が開いた右手を突き出すと、サニはそれに応じて俺の手を握った。

こういう場面では定番の握手というやつだ。

まだ何とも気恥ずかしいような気もするが、これがこの世界での普通だ。

早く慣れてしまうに越したことはないだろう。

俺たちが手を離すと、丁度中での作業が終わったようで、二人が廊下に出てきた。

どこかさっぱりした雰囲気の二人は、新しい服に著替えていた。

これも和服で、浴のようなものだ。

「スマルー、終わったわよー……って、あなたたしかお晝ご飯の時にいた……」

そんなモミジは、サニのことを見てすぐに晝のことを思い出したが、さすがに名前は知らない様子。

呼び方が分からず混しているようだ。

「サニです。よろしくお願いします」

當のサニはそれを當たり前のように流し、二人に対しても自己紹介をした。

「モミジよ。よろしくね」

「……ユキ、よろしく……」

こちらも握手をわす。

それから俺たちはそこにフォールの紹介も付け足して、數分間そのまま駄弁っていた。

孤児院の人間以外とここまで親しくなったのはサニが初めてだ。

モミジやユキにとっては同の友達のようにじているのだろうか。

楽し気な雰囲気は疲れたをいくらか楽にしてくれたようにじたが、そんな時間がいつまでも続くなんてことはない。

「ところで、サニは何を言いに來たのかしら。そのために終わる時間を訊いたんでしょ?」

「あ……」

それからがを拭きフォールも綺麗にした後、結局俺たちは食堂で軽い食事を取り、早めに眠ることになった。

就寢間際、完全に忘れていたが、冷水タオルの報復としていきなりユキに氷魔をぶつけられた。

もちろんレジストしたので被害はゼロだが、魔を使ったことがサニにバレて俺たちは怒られた。

宿の中で攻撃魔を放つのは止されているのだとか。

仲良くなったが故の遠慮のないお怒りは中々の迫力であった。

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