《「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。》第二章 第三十五話 掃除

ギルドを出た俺たちは初めての依頼――倉庫の掃除をするべく、目的の倉庫に向かった。

その途中で道に迷ってしまうというアクシデントに見舞われたが、フォールが持ち前の嗅覚で案してくれたおで何とか辿り著くことができた。

依頼用紙に殘ったわずかな匂いから場所を特定できるのだから凄いものだ。

それにしても、こんな短期間で二回も道に迷うなんて、俺は方向音癡なのだろうか……?

今まで自覚していなかったが、俺は道を覚えるのが苦手だということが分かったところで、倉庫の隣の家にいた依頼主のおじさんとその容について話をした。

と言っても、俺は不意に発覚した方向音癡に落ち込んでいたため、対応はモミジがした。

「こんにちは。ギルドで依頼をけて來た者です」

「おぉ! 君たちが掃除をしてくれるのか!」

「はい。早速ですが、どのように掃除すれば良いのでしょうか」

「そうだな……、中の埃が凄いから、それを取っ払ってもらって、倒れたり崩れたりした木箱を積み直してくれ。基本的に雑に扱っても大丈夫だが、一つだけある鉄箱は気を付けてくれな」

禿げ上がった頭が特徴的な壯年期のおじさんは、いかにも片付けが苦手そうな豪快な雰囲気を纏っていて、実際にその聲は腹に響く大きさであった。

だがその豪快さとは裏腹に、指示は分かりやすくまとまっていて、注意點も明示されている。

これだけでこの依頼が良件であることが分かるし、作業もスムーズにできるだろう。

「分かりました。それでは、作業に移らせてもらいます」

「おう。終わったら聲かけてくれ」

そう言うと、おじさんは再び家の中に戻って行った。

俺たちはそれを見屆けてから、倉庫の扉を開けた。

中はおじさんの言っていた通りに埃が積もっていたのだが、その度合いが予想以上で、木箱に埃が積もっているというよりは、木箱が埃に埋もれていると言った方が當てはまるくらいに埃に塗れていた。

扉を開けた時の風で盛大に撒き上がった埃を見て咄嗟に結界を張ったから被害はなかったが、もしあの量の埃を被ってしまっていたら、今頃咳とくしゃみと涙と鼻水が止まらなくなっていただろう。

れば埃球になることが必至のフォールには外で待っていてもらうことにし、俺たちは掃除に取り掛かった。

だが、すぐに々と準備が足りていなかったことに気付く。

まず、そもそも俺たちは掃除用というものを持っていなかった。

ゴミを掃く箒はもちろん、集めたゴミをれる袋すら用意していない。

なぜそんな裝備で掃除の依頼をけようと思ったのか不思議なくらいだ。

次に服裝。掃除をする時はマスクなどを著用するべきだと思うのだが、それに準ずるものも用意していない。

これに関しては布切れがあれば代用できるのでないとも言い切れないのだが、意識して用意していなかったのだからないのと同じだ。

さて、どうしたものか。

「スマル、これ、どうやって片付けるのよ」

「……埃、嫌い……」

「そうだな……」

俺は今持っている道だけでどうにかできないか、ひたすら考える。

そして、導き出した答えは……

「……魔を使おう。俺が結界で埃が舞う範囲を限定するから、二人は風を起こしてくれ。それで集まった埃は燃やして、殘った木箱を積み直すんだ」

こうすれば埃を吸い込むこともないし、掃除用も必要ない。

上手くいくかは不安だが、やれるところまでやってみよう。

「分かったわ」

「……了解」

それから俺は保険として自分たちの周りに埃だけを通さないように設定した結界を張り、同じ結界を倉庫の壁にピッタリ合わせて張った。

モミジとユキが鉄扇も使って風をり、倉庫の至るところの埃を取り除いていく。

それに応じて結界の範囲を狹めると、舞っていた埃が段々と一か所に集まっていく。

結界の設定のせいで木箱に引っ掛かったりしている埃があると範囲が狹まらなくなってしまい予想以上に難しい作業になったのだが、最終的にこの倉庫の中にある埃は一つ殘らず消し去ることができた。

すぐに燃やしても良いのだが、おじさんに話さずにいきなり燃やすと後々面倒なことになりそうなので、集まった埃は一旦置いておくことにした。

ちなみに、埃は球狀にまとめてあるのだが、十畳もないくらいの広さの倉庫の中だけで圧してもバスケットボールほどの大きさになるくらいには大量であった。

埃が片付いたので、今度は倒れたり崩れたりしている木箱を積み直す作業だ。

まず気を付けるように言われた鉄の箱を見つけ出し、作業の邪魔にならないように外に置く。

これはフォールに見張っておいてもらおう。

次に積み直すのだが、掃除する前にも後にも、崩れているようなところは見當たらなかった。

一応向きや大きさを揃えるために並べ替えをしたが、この作業には十分も掛からなかった。

そして最後に、フォールが大事に抱えていた鉄箱を安定のある大きめの木箱の上に置き、俺たちの倉庫掃除は終わった。

コンコン。

木製のドアを叩くと、気持ちの良い高めのノック音が響いた。

すぐに開いたそのドアの向こうから現れたのは、依頼主のおじさん。

俺たちはこのおじさんに作業が終わったことを伝えに來たのだ。

対応は始めと同じ、モミジが行う。

「清掃作業が終わりました。ご確認ください」

「おぉ、もう終わったのか。仕事が早くて良いねぇ」

そう言っておじさんは倉庫へ行き、その扉を開いた。

掃除をする前は扉を開くだけで埃が舞っていたのだが、今はそれがなくなり、ただ積まれていただけの木箱も大きさごとに分けられている。

「……これは、綺麗になったなぁ」

もちろん、人が通るためのスペースも確保してあり、おじさんはそのスペースを通って奧まで見ていく。

その途中で木箱の上部を指でなぞるが、當然そんなことをしても指には何も付かない。

「あれだけ汚れていたのに、塵一つ殘っていないとは……」

そしておじさんは最奧の鉄箱に辿り著き、

「うむ、鉄箱もちゃんとあるな」

そう言って倉庫から出てきた。

「どうですか?」

モミジが訊く。

「いやぁ、驚いたよ。短時間でここまで綺麗にしてくれたんだから。予想以上の働きだ」

おじさんは本當に驚いた様子で、俺たちの仕事に心しているようだった。

それを見たモミジが、俺の方に視線を送って來る。

何かと思ったら、依頼用紙は俺が持っているんだった。

依頼用紙をモミジに渡し、それをモミジがおじさんに渡すと、おじさんは快くサインをしてくれた。

「本當にありがとう。助かったよ」

「いえ。それでは失禮します」

サインをけ取り、俺たちは達と共にギルドへ向かった。

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