《「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。》第二章 第三十八話 森へ
アイルとシーナが一時的に仲間に加わり、五人と一匹になった俺たちは街の外に出るために門を目指して歩いた。
その道中で、アイルから立ち回りについての話をされた。
「ゴブリンと戦う時に注意するのは、ゴブリンの數だ。規模が大きいほど脅威度が増すのはもちろんのことだが、それ以外にあいつらのきを決める要因にもなっていることを覚えておいてくれ」
「き?」
「ああ、數の時は気にすることでもないんだが、數が多くなるに連れて連攜や包囲が上手くなって厄介なんだ。ま、細かいことはその場で指示を出すさ」
どうやらゴブリンの集団戦法は聞いていたよりも強力らしい。
それに、群れの規模が大きくなればそれだけリーダーの実力も上がってくる。
大量のゴブリンを統率するだけの知能とカリスマがあるのなら、確かに強くなりそうだ。
ここは大人しく指示を聞いて、俺も経験を積もう。
とは言えアイルもまだベテランというわけではない様子。
ギルドカードが緑だから、言ってしまえば俺らと同等の括りにるのだ。
の危険をじたら指示より防に徹した方が良い場合もあるかもしれない。
それから、俺たちはアイルとシーナが語るゴブリン狩りの話を聞き、門に到著した。
ここでは當初の予定通り、門番にギルドカードを見せ分の証明をしに行く。
アイルとシーナは門を通過する時に門番に見せればそれで良いので、外に出たところで待っていてもらい、俺たちは門に併設された小部屋に通された。
時間がかかりそうで二人には申し訳ないような気もしたが、いざ確認作業をしてみると思っていた以上に簡易的な確認で、俺たちが仮國許可証を持っていたこともありその作業にはわずか三分ほどの時間しか要さなかった。
こんなものなのかと思ったが、普段はもっと時間がかかっているらしく、門番もこれだけ早く終わったのは久しぶりだと嬉しそうである。
ではいつもはどれくらいの時間がかかるのかと聞いてみたところ、門番は大きな溜息を吐きながらも教えてくれた。
なんでも仮國許可証を持って來ないでどうにかしようとする人が増えているのだとか。
仮國許可証がないと今いる小部屋とは別の場所に保管されている書類から探して參照しなければならなくなり、それには多大な時間と労力がかかる。
他にも許可証の有効期限が切れていたりする問題のある人が増えているようで、溜息からも分かる通り相當うんざりしているようだ。
それでもさすがに俺が久々なんてことはないだろうという気はしたが、これ以上訊くのも悪いし、外で待っていてもらっている二人のことを考えると無駄話をしている場合ではない。
門番には労いの言葉をかけておき、俺たちはアイルたちのもとへ急いだ。
門をくぐり、すぐそこにいたアイルたちに聲をかける。
「おーい、アイル。終わったぞー」
「お、もう終わったのか。早かったな」
「私たちの時は三倍くらい長かったのに」
早いも何もこれが普通なのだが、この會話だけでこの二人が外から來て仮國許可証を持って行かなかった人のの二人だということが分かる。
シーナなんかは待たされた時を思い出しているのか頬を膨らませているが、そうしたいのは門番の方だろう。
というかそれより酷いことになっていた。
こんな思いやりに欠けた冒険者が増えているというのは、なんだか門番が不憫だと思ったが、俺はそれを口に出すことなく早速狩場である森に向かって歩いた。
それから森のり口――看板があり、『シンシールの森』と書かれている――に著くまでにはそう時間はかからなかった。
距離が近いから當然だ。
「ここから先は魔の奇襲に気を付けてくれ。俺たちが狙うのはゴブリンだが、向こうはそんなことは知らずに遠慮なく襲い掛かって來る。遭遇してみないことには分からないが、とにかく森の魔は何種類もいるってことは忘れないでくれよ」
そう言ったのはアイル。
さすがに何回か森にってるだけあってその危険を知っているのだろう。
俺の中でどこか軽い印象だった彼だが、今はパーティのリーダーとして頼れる男に見える。
俺たちは気を引き締め直して、シンシールの森へと足を踏みれた。
ちなみに、俺、モミジ、ユキ、フォールが孤児院から出る時に通ったのもこの森だ。
あの時は一度も魔に遭わなかったが、アイルが言うには危険な魔があふれているらしい。
いつまでも運に恵まれていられるわけがないので、今日はいつ襲われても防できるように準備しておこう。
俺がそんなことを考えながら歩きにくい草木の茂った獣道を、他のパーティメンバーの後ろを付いて行く形で歩いていると、まだってすぐだというのに先頭のアイルが急に止まった。
それもそのはず。俺の知はずっとそれを捉えていたが、現在俺たちの前を熊型の魔が通過しているのだ。
幸い熊型魔は俺たちの存在に気が付いていないので、隠れてやり過ごすつもりなのだろう。
戦闘は力や魔力を消耗するだけでなく、怪我をするリスクや他の魔に場所を教えてしまうという可能もある。
こういう避けられる戦闘や無駄な戦闘はしないというのには、俺も賛だ。
熊が通り過ぎたのを確認し、念のため數十秒様子を見た後、アイルの合図と共に俺たちの行軍は再開された。
相変わらずの獣道のせいで鈍行ではあるが、基本的には誰も文句を言わないので道の変更はなさそうだ。
実はすぐそこにこんな獣道ではなくある程度幅のある道があることを俺は知っているのだが、そんなことを言ったら絶対にユキが何か言いだすので、やめておこう。
アイルがなぜこんな道を選んで歩いているのかは分からないが、何かの意図があってのことだと信じて進むしかないのだ。
それからもひたすら草を掻き分けながら歩き、どれくらいの時間が経ったか、し木の度が減った巖場を見つけた。
と同時にそこに目當ての魔――ゴブリンがいることも確認される。
視認できる範囲にいるのはたったの六だが、大きな巖のに隠れているのか知に引っ掛かる反応はざっと二十を超えている。
ゴブリン狩りをしたことがない俺にはこれが多いのかどうかは分からないが、俺たちパーティは一瞬で張に包まれた。
「おい、アイル。どうするんだ? 見えないが二十はいるぞ」
「なぜそれが分かるんだ……? いや、今はいい、まだ俺らに気付いていないうちに、奇襲をかけて一気に數を減らす。合図で一斉に飛び出してくれ」
「「「「了解」」」」
作戦を聞いて、俺たちの張はさらに高まったが、そんなもので潰れるような奴はここにはいない。
各々が準備を整え、臨戦態勢にる。
アイルが全員の準備が完了したことを確認し、指で三、二、一とカウントダウンをする。
そして――
「――行くぞっ!」
ゴブリンとの戦闘が始まった。
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