《「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。》第二章 第三十九話 ゴブリン狩り

アイルの合図によって、ゴブリンとの戦闘が始まる。

「――ファイアウェーブ!」

まずは前もって詠唱しておいてもらったシーナの得意技――殲滅系の火屬で見えていた六のゴブリンを焼き払う。

脳筋かと疑うほどに高火力魔を得意だと豪語していただけあって、その能は文句なしの威力と範囲だ。

ファイアウェーブは炎をまるで高波のように発生させて相手を覆う魔なのだが、実は威力がそれほど高くないという欠點がある。

炎を広げてしまっているのでそれは仕方のないことだ。

だが、シーナの放ったそれは圧倒的な勢いと火力を併せ持ち、一撃で口だけではなかったことを証明して見せた。

その景に俺が嘆していると、収束し始めた炎の奧からギャーギャーと汚いゴブリンの聲が聞こえてきた。

再び知し直してみると、ゴブリンの數が大幅に減っていて、どうにも狙った六だけでなく巖に隠れていた何かも炎の波に飲み込まれたであろうことが分かった。

「――詰めるぞ!」

リーダーであるアイルの指示が飛び、近接擔當であるアイル、モミジ、ユキ、そしてフォールがゴブリンたちとの距離を詰めるべく走り出す。

しかし突っ込んで行くその先は収まってきたとはいえまだ燃えている高溫の空間。

このままでは誰もが無事では済まないだろう。

そこで俺の出番だ。

「耐熱付與!」

ほぼ無詠唱で発したこの魔は、防の一種で単純に熱に対する抵抗力を高めるというものだ。

正確に言うと「熱に強い」という質を付與しているのだが、まぁ、そんなことはどうでも良いだろう。

こうして熱に強くなった近接部隊は、ゴブリンたちが近づけない空間を突っ切り、その攻撃が屆く間合いまで距離を詰める。

俺とシーナがいる地點からは炎が邪魔をしている上に炎が発生してしまっていて彼らのことははっきりとは見えないが、連続で上がるゴブリンの斷末魔のびから近接部隊が順調に敵の數を減らしていることはなんとなく分かった。

その証拠に知できる生反応が急速に減っている。

初めは二十以上いたはずだが、今ではもう五だ。

俺は近接部隊の方はもう大丈夫だと思い、鎮火作業に移る。

戦場が巖場だったおであまり炎による被害はないが、それでもここは森の中。周囲の木々に若干ながら燃え広がってしまっているのを消さなければこの辺一帯が焼け野原になってしまう。

焼けた範囲が狹ければ戦う上で必要な被害だったと判斷してもらえるだろうが、それが広範囲になるとまずいことになる。

不必要に自然や見を壊すことやそれに準ずる迷行為が発覚すると、ギルドからお咎めがあるのだ。

罰則の容は罰金がほとんどであるらしいが、罰則をけた人の中にはギルドカードの沒収――つまりギルドの一員としての資格を剝奪された人もいたと聞いた。

今の俺たちはしの罰金もされたくないである。

不祥事を起こさないように慎重に立ち回ろう。

シーナにも協力してもらいながら、スプラッシュなどの水屬を使って燃えている木々に水をかけていく。

こちらも順調に作業が進み、大の火が消えたところで近接部隊が返ってきた。

「お、戻ってきたか。どうだ? 取り逃がしたのはいなかったか?」

「ああ、多分これで全部だ。死を集めておいたから、あとで焼いてくれ」

ゴブリンが全滅していることは生反応がないことから既に知っていたのだが、一応訊いておくと、アイルは小袋の中にったゴブリンの耳を見せながら、巖場の方を指さした。

討伐系の依頼は、討伐の証拠としてその魔の一部を持ち帰ることで依頼達を証明し、報酬をもらうシステムになっていて、アイルが持っているのはそれ用の耳である。

の素材には様々な用途があり、それを売るだけでも金を稼げるのだが、ゴブリンは取れる素材がないことで知られている魔でもあり、どの冒険者も簡単に取れる耳を持って帰るのが定石みたいになっているのだ。

今回、俺たちもその例にれず耳だけを切り取って持って帰るのだが、そうすると耳以外の部分は殘ってしまう。

そのまま放置しておくと、魔の餌になったり病気の元になったり、更にはゴブリンゾンビとして再びき出したりと良いことが一切ないので、その死骸は灰にしてから帰るのだ。

これに関してはギルド側もよっぽどのことがない限りは死骸は焼いてほしいと言っている。

「死骸を焼くの、私がやろうか?」

もうほとんど鎮火は終わっているとは言え、火種となり得るような火のなどが殘っていないかを確認する作業が殘っている俺を見て、モミジはそう言った。

近接部隊にいたから忘れていたが、モミジも火を出せるのだ。

死骸焼きはモミジにやってもらおう。

「じゃあ、モミジは死骸を焼いて來てくれ。他はみんなで火種になりかねないがないか探すぞ」

指示をけたモミジは、死骸を焼くべく巖場の方へ戻って行く。

殘った俺たちは鎮火の続きだ。

それから數分、とりあえず自分の周りには火種になりそうなものはなさそうだと分かったところで、シーナの方にも火種はないという報告があった。

暇そうだったアイルやユキ、フォールも導して探しただけあって考えていたよりも早く終わりそうだ。

ふと巖場の方を見れば死骸を焼き終えたモミジがこちらに向かって歩いて來ているところだった。

丁度良くみんなの作業が同時に終わったみたいだ。

日が暮れるまでにはまだ時間がある。

「よし、まだ時間はありそうだし、もうちょっと狩ってくか」

アイルの提案は満場一致で採択され、俺たちはそれから暗くなるまで狩りを続けることにした。

それから一時間ほどで、俺たちは三つの群れを殲滅した。

どれも大きな規模とは言えず、誰かが怪我をするようなことはおろか、ピンチと呼べるような場面にさえならなかった。

しかし、順調だと油斷している時ほど危険なのはどこに行っても同じようで、段々と日が傾いてきたのにも関わらず、俺たちの前に突如、強大な敵が姿を現した。

雑魚からり上がり、醜悪を束ねる緑の巨漢――ゴブリンロード。

もういなくなったとされていたはずだが、どうやらこの森で新たな個が発生していたらしい。

取り巻きのゴブリンも今までの比にならないくらいの量がいる。

「……まさか、こんなところで遭うとはな……」

「……さすがに、これは運がなさすぎるわ」

アイルとシーナを見ると、取りしてはいないが、若干諦めたような表をしていた。

確かに、新人だけで伝説級の魔と遭遇したら、生きて帰れるとは思わないだろう。

しかし、俺の心はそれとは別の理由で落ち著いていた。

そう、ゴブリンロードより自分の方が強いという確信があったのだ。

ヴォルムの教えの一つに「相手と自分の力量差が分かれば、とりあえず死ぬことはない」というものがある。

要は相手がどれくらい強いかが分かれば、油斷してやられることや無闇に戦って死ぬことがなくなるということだ。

俺たちはこれを実現するために、あらゆる狀況で相手がどれほどの実力を持っているのかを分かるようにする訓練をさせられた。

そのおかげで俺にははっきりと見える。

――ゴブリンロードは俺より弱い。

このことは一緒に訓練をしていたモミジとユキもじ取っているようで、その立ち姿は余裕と自信に満ちていた。

「モミジ、ユキ、やるぞ。アイルとシーナ、フォールは結界の中にいてくれ」

「分かったわ」

「……了解」

アイルたちは突然の指示に困していたが、フォールの一吠えで正気の戻ると、俺の後方に展開した魔方陣の中に避難した。

これは簡単な障壁だが、その強度はフォレストウルフ戦で使ったものとは段違いのもので、例えゴブリンロードがどれだけ強かろうと、壊されることのない結界だ。

俺は二人と一匹が結界の中にるのを確認してから、一歩踏み出し、ゴブリンロードと対峙した。

グルルル……と臭い息を吐きながら唸るゴブリンロードの目は、完全に俺たちのことを敵だと見なし、暗くなりかけの森の中でぼんやりとった。

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