《「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。》第五章 第百七十六話 不審な男
「リフィル!」
「――っ、はい!」
見知らぬ男を前にして一瞬どうするべきか迷ったが、こんなところで妙な笑顔を浮かべている男がまともな人間であるはずがない。即座にリフィルに魔を放つように指示を出した。
當のリフィルはいきなり攻撃を仕掛けるとは思っていなかったのか、一拍置いての反応だった。それでもここまで來て指示に背いたりすることはなく、用意していた電撃の魔を男めがけて放った。
それを確認したヴォルムが男のきを注視しながら戦闘経験のないリフィルを守れるように前に出る。後ろでは次の魔を用意するために詠唱が始まった。村にった瞬間に戦闘になった時のために、まずは電撃、それから當たる當たらないにかかわらず火球を用意するように事前に言っておいたからだ。初めて実戦で放つ魔が當たるかどうかという報は使い手からしたら気になるものだろうに、詠唱が始まった早さからして確認はしていないだろう。相方の優秀さをじつつ、懐から短刀を取り出して構えた。これは森のを狩る際に借りた武の一つで、解にも使う丈夫なものだ。決して切れ味が良いとか、使っている金屬が上質だとかプラスの要素があるわけではないが、ある程度まともな武があるというのはそれだけで心に余裕を持たせてくれる。
だから、狼狽えなかった。男が電撃を真正面から食らったのに全くの無傷であったとしても。
「いやぁ、探してたっていうか、待ってた? っていうかさ、なんつーの、いや、期待はしてなかったんだけど、まさか本當にいるとはね。會えてうれしいよ」
その上で一方的に話を続けられたとしても平常心だ。自分は焦ってなんかいない。ヴォルムは自分にそう言い聞かせた。しかし、例えヴォルムの心持ちが平常だったとしても、余りに異常な男の態度から次の行を決めるのは難しい。魔を避けようともしなかったことも、直撃しても無傷であることも、それらの出來事を全く意に介していないかのように振る舞っていることも、圧倒的な上位者である証明のように思える。
この場合、戦せずに逃げるのが安全な選択肢ではあるのだが、相手の力量が図れないまま逃げを選択すると背中を向けた瞬間にやられる可能もある。だからと言ってこのまま睨みつけていても事態が好転することはない。火球を放っても電撃と同じように効かないだろうし、それならば無駄に攻撃を仕掛けて刺激する必要はないのだろうか。
こうして迷っている間にも男は近づいてくる。結論が出ないままに接近を許すのが一番まずい。とりあえず距離を取るために一歩下がろうとしたその時、男が何かに気付いたような表で立ち止まった。
「あ、そういえばまだ自己紹介をしてなかった。俺はロン。この村の奴らからは『鬼』とか呼ばれてるが、生學上は人間だ。めちゃくちゃ警戒してるとこ悪いんだけどさ、とりあえずは敵じゃない、つもり」
とりあえずは敵じゃない、つもり。その言葉を頭の中で反芻する。敵ではないと明言されるよりはよっぽど信用できる言い方だが、信用できるからと言って安心できるわけではないのがこの言葉の嫌なところだった。
今のところは敵対する意思はないと言うのならいきなり武力にものを言わせるなんてことはしてこないのだろうが、となると求められるのは対話。それの結果によってはいきなり首が飛ぶことだってあるかもしれない。
あるいは、ここまでのヘラヘラした態度や敵じゃないという言葉も含めて全てがこちらを油斷させるための罠で、対話に応じようと武を下ろした瞬間に攻撃してくるかもしれない。いずれにしても、ここで選択を誤ることは許されない。一番安全に、誰も傷つかずにこの場を切り抜けられるのは何か。ヴォルムの脳が最高速度で回転した。
「あぁー……、そりゃ警戒、解けないよなぁ……。うーん、良いよ。武は構えたままで。そうだな、攻撃してきても良いや。それで怒ったりはしない。俺もこれ以上近づかない。話をしよう。君にとっても有益な話だと思うよ」
余計に胡散臭くなったが、武を構えていられるのはありがたい。急に攻撃されてもを守ることができる。そんなちっぽけな安心を手に、ヴォルムは対話に臨んだ。別に返事をしたわけではない。ロンと名乗った男が勝手に話すのを聞く姿勢を取っただけだ。
「……まぁ、今はそれで良いよ。じゃ、早速本題にるけど、まずは々と知ってもらうところからにしようか。君は最近、ちょっと強くなったんじゃないかな。それも、よく分からない力で」
生命エネルギーと勝手に呼んでいるあれのことだろうか。に覚えがあるのはそれくらいだが、あれは一時的なものだった。しかし、一時的とはいえ強くなっていたのは事実なので、ヴォルムは首を縦に振った。
「そうだよね。最近はなかなか見なくなってたんだけど、それはきっと命を、あるいは魂を消費して得られる力だ。めちゃくちゃ強いけど、使いすぎると死ぬ。分かりやすくて良いね」
いくら強くたって、大事な命を削って得られる力なのだったら普段使いはできないし、ここぞという時に使ったとしても共倒れ必至では頼りがいがない。それに、出し渋って痛い目を見るのが容易に想像できる。分かりやすくても、決して良いとは思えなかった。
「なんでそんなことを知っているんだという顔だね?」
そんな顔はしていないが、ここで首を橫に振っても話が進まないため、ただ黙って睨みつけるだけにとどめた。
「そりゃあ、俺もその力を使えるからさ。んでもって、この力を使える人は世界中にちらほらいる。だいぶ減っちゃったけどまだそれなりにいるはずだ。つまり何が言いたいかと言うと、君の力は君だけの特別なものじゃないってことだ」
ロンにはそう言われたが、ヴォルムはそもそもこの力を自分のものだとは考えていなかった。任意で発できるものではなく、その上、使ったら使った分だけ死に近づく。そんなものを自分の能力として換算して戦略は立てられない。戦略が立てられないのならそれは戦力ではない。自分の武ではない。あの場でだけのイレギュラー。普段はないものとして扱っていた。
「まぁ、ここ百年は力に目覚める人もいなかったんだけどさ。つまり君が百年ぶりの同士ってわけ。これで俺が君に會いたがっていた理由が分かっただろう? そろそろ警戒を解いてさ、お名前くらい教えてくれても良いんじゃない?」
々と報開示してくれるのはありがたい。だが、肝心な男の目的についてはぼかされたままだ。ただヴォルムに會いに來て終わり、ということはないだろうし、だとしたら何をしに來たのか。他にも今の話を全て信用するとして、不可解な點がある。しかし、それを聞いても良いものか、気分を害さないか、恐らく力を使いこなしているだろうロンを目の前にその力がどれほど強力なものかを知っているヴォルムはけないままだった。
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