《「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。》第五章 第百八十三話 まぬ出立
「……本當に、自分勝手な人ですね」
命を失ったロンを見つめながら、リフィルが小さく呟いた。自分勝手、その言葉が何を指してそう言っているのかまでは読み取れなかったが、ヴォルムも彼の評価に関してはおおむね同じ考えだった。
急に村に押しかけて來たのも、そこで破壊活をしたのも、戻って來たヴォルムたちの事も聞かずにベラベラと喋り始めたのも、そして、命を押し付けて死んでいったことも、ロンの行すべてが他者のことを考えない自分本位なものだった。それに、長生きしていると言っていたが、そもそも生命エネルギーを他所から持ってきて使っているという時點で勝手が過ぎるのだ。
そう考えると、穏やかに、満足げに死んでいったのが許せないような気がしてくる。しかし、今度はその勝手をヴォルムが背負っていかなければならないのだ。もうこれ以上は彼を非難することはできない。
代わりに、何としてでも目標を達し、生き抜かなければならなくなった。命をけ取って、もう後戻りできないところまでやってきてしまったのだから。
「一応、どこかに埋めておこうか」
弔ってやるつもりはない。だが、死をそのままにしておくなんてこともできない。二人の間に石のズレはなかった。
「衛生的にも、放置は良くないですからね。村の人たちにどう処理しているか聞いてきましょうか」
死の処理の際に、弔うだとか別れを惜しむだとかそういった意味を持たせた儀式を行う場合もあるが、そうでなくても衛生的な観點からちゃんとした処理はした方が良い。的には地中に埋めるか、燃やしてしまうかになるのだが、この村では普段、どうしているのだろうか。別にこの村のやり方にとことん忠実に従おうとは思っていないが、勝手なことをして後に掘り返してしまうようなことがあったらまずい。そんな事態を避けるためにも村人の協力は不可欠だった。
しかし、ここで一つ問題があることに気付いた。それは、ロンがこの村で「鬼」と呼ばれ、恐れられていたということだ。きっと、村人が死を見たらその正が鬼であることに気付いて騒ぎになるだろう。はっきり言ってもうここに用がないヴォルムたちにとって、騒がれるのはあまり嬉しいことではなかった。どうにか死を見せないように頑張るという手もあるが、きっと怪しまれるだけだろうし、そんなことをするくらいだったら最初から何も気にせず森の中にでも捨ててきてしまった方が良い。
どうしたものか、解決策について思考を巡らせていると、村の外から聲が聞こえてきた。それも一つではない。何人もの人間がこの村に向かってきている。そんな音が聞こえた。
「……もしかして、帰って來たのか?」
「え? ……あっ、鬼退治に向かっていた人たちでしょうか。どうしましょう。鬼はここにいますけど……」
帰って來た村人と鉢合わせた時に考えられる反応は二つ。一つは鬼が死んでいるのを見て喜ばれるというものだ。鬼の死を抱えるのを見てヴォルムたちが鬼を殺したのだと認識してもらえた場合がそれだ。長年、村を苦しめていた元兇を取り除いてくれたとして謝されるだろうし、なんなら村を救った英雄だなんて言われてしまうかもしれない。その辺りは鬼がどれくらいの脅威だと認識されていたのかがいまいち摑めないため予想できない部分ではあるが、ひとまず村から追い出されたり、いきなり攻撃されたりといったことはないだろう。
しかし、鬼を抱えているのを見て、鬼の仲間だと認識される可能もある。この場合、ヴォルムたちは村にとっての敵となり、十中八九、話を聞いてもらえないまま攻撃されるだろう。そもそも、こんな辺境の村に部外者がいるということ自が異質な事態なのだ。村から出ている間に知らない人がり込んでいる。そういう解釈をすると、鬼の仲間だとか、仲間じゃないとかは関係なく、不審者扱いをされてもおかしくはないのだ。
「一旦、村長のところに行こう。俺たちが鬼を討ち取ったことにして、それを帰って來た村人たちに説明してもらう。じゃないと、いきなり攻撃されかねないからな」
ヴォルムたちはロンの死を抱えて、村長たちが集まっている建に向かった。しかし、鍵のかかった扉をノックしても中からの返事はなかった。
「おーい、俺だ。ヴォルムだ。開けてくれ」
ノックをする前に話し聲が外までれていたから中にいるのは分かっている。それに、居留守をされている今だって、全く音が聞こえないというわけではない。その辺りの詰めが甘いと言うか杜撰というか、とにかく、本気で隠れる気があるのかも分からない、あったとしても隠れられるだけの技量がない人たちに、なぜ面會を拒絶されているのだろうか。
「いるのは分かってるんだぞー」
依然として扉を叩きながら考える。もしかして、鬼を連れてきたのがヴォルムたちだと思われているのだろうか。実際、ロンはヴォルムに會うためにこの村に來たわけだが、それで責められる謂れはないはずだ。
「頼まれてた仕事の報告くらいさせてくれー」
そこで、村に滯在させてもらう代わりに仕事を手伝っていたことを思い出したヴォルムは、その報告をするためにここに來たというで話を進めることにした。しかし、それでも中からの返事はない。報告自はいずれする必要があると思っていたので噓は言っていないのだが、それでもこんなタイミングでするものではないと警戒されているのだろうか。
「私の方も終わったので、報告したいのですが、いらっしゃいませんかー」
続いてリフィルにも聲をかけてもらう。それでも反応は返ってこなかった。
このままでは埒が明かない。ヴォルムは最終手段として殘していた扉を壊して中に押しることを本格的に考え始めた。それで自が好転するかは怪しいところだったが、それにしたって村長たちと対話できないことには話が進まないのも事実。やむを得ないということで許してもらおう。
そこで、いざ実行に移そうとした時、村にったであろう討伐隊が、その慘狀を見て何やら騒いでいるのが聞こえてきた。さっきから家の中の音に集中していたせいでそっちの音に気を配れていなかったのだ。案外近くにいることが分かり、ヴォルムはまたも決斷を迫られることとなった。
「……リフィル、ここから出るぞ」
「え、でも……」
「このままここに殘るのはリスクがありすぎる。無駄な戦闘を避けるためにも、聞いてくれ」
死を放置して行くのをリフィルは良しとしないだろう。今まで一緒にいて、それくらいのことはなんとなく分かるようになった。しかし、今は消耗をしでも減らしたい。それに、村人がどれくらいの兵力を持っているのかが分からない以上、ヴォルムはさておきリフィルのが危険にさらされる可能がある。それは何としてでも避けたかった。
「……ごめんなさい」
村から抜け出す際に、リフィルが小聲で謝るのが聞こえた。
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