《「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。》第五章 第百八十四話 改善

村から逃げるようにして出ることとなったヴォルムたちは、次の目的地も決められないまま、とにかく村から距離を取ろうと走っていた。

「こっちだ」

ひとまず森の中にり、追手が來ていないことを確認する。元々は教會所屬の追手から逃れるために走っていたはずなのに、どうしてその先の村人も敵に回さなければならないのか。なんだか上手くいかないことばかりだ。ヴォルムの心の中に、そんなモヤモヤとしたネガティブなが芽生えていた。

しかし、ここで焦っても良いことは何もない。生命エネルギーを手にれることができたのだし、一歩進んだと考えるべきだろう。今やるべきは愚癡をこぼすことではなく、能力の確認と、次に向かう場所の決定だ。

「一旦休憩だ。まだ日が落ちるまでには時間がありそうだが、ここで野宿の準備をしよう」

その前に、野宿の準備だ。本當なら屋のある家で夜を明かせたはずなのに、食糧も用意されていたはずなのに、村から出てしまったせいで全部なくなってしまった。これがすべてロンのせいだと思うと無に腹が立ってくる。しかし、ロンの目的はヴォルムとの接だ。言ってしまえばヴォルムにも原因の一端があるのだ。そう考えると、一番の被害者はリフィルなのかもしれない。教會でただシスターをやっていただけなのに、こうして連れ出されて、巻き込まれて、屋もないところで不自由な暮らしをしなければならないのだから。

なんだか申し訳なく思えてきて、リフィルの方を見やる。せっせと薪を拾っているようだが、実際のところは現狀をどう思っているのだろうか。ロンのことを勝手と言うなら、ヴォルムだって相當勝手なことをしている自覚がある。助けてもらった恩はまだ返せていないし、むしろ仇で返しているようなものだ。嫌だとか、帰りたいだとか、思っていないだろうか。思っていたとしたら、帰してやるのが良いのだろうか。

そんなことを考えていると、視線に気づいたのかリフィルがこちらを見ながら首を傾げた。

「どうしたんですか? 私、何か変なところでもあったでしょうか……」

「いや、そういうわけじゃない。ただ、このままじゃだめだなって、々考えてただけだ」

誤魔化すようにそう言うと、リフィルが薪を拾う手を止めてまっすぐにヴォルムの方を向いた。

「そう思うなら、私にもその考えていたことを話してください。一人で抱え込まないで、もっと相談してください。行を共にする仲間なんですから」

真剣なまなざしがヴォルムを抜く。その衝撃で、ヴォルムは數秒間けなかった。

「こう見えて私、シスターをやっていたので話を聞くのは得意なんですよ」

そう続けてすぐリフィルは薪拾いを再開してしまったが、彼の目と言葉には無視できない力が込められていた。

の言う通り、今まで、リフィルに意見を求めることはあっても、大抵はヴォルムの中で答えが出た後に聞いていた。意見を反映しているように見えて、既に用意されていたいくつかの選択肢の中から一つに絞るために利用していたにすぎない。

不満を持っていないかと不安に思っていたのもそうだ。勝手に心の中を推し量って々と無駄なことを考えたが、さっさと本人に聞けばよかったのだ。

慎重にならなければと一人で考して、結論が出てからじゃないとかない。そんなことをしていては遅い。必要なのは対話。考える頭は一つより二つ、考えすぎるよりも行。上手くいかない原因はここまできた自分のやり方にあったのだ。

「……話をしよう。これからどこに行くのか、何をするのか、不安や不満はないか、話し合いをしよう」

今までのような、話したつもりになっているだけのものではない、本當の話し合いをするのだ。なんだか大きな決斷をしたような気分でリフィルを見つめる。一瞬の間があって、らかな笑みが返ってきた。

「はい。でも、その前に、ゆっくり話をするためにも準備を終わらせてしまいましょうか」

その言葉に従い、二人は野宿の準備を進めた。やる気に満ちていたヴォルムは倒木を引きずってきて椅子にしたり、石を並べて焚火の基礎を作ったり、いつにもまして勢力的に働いたのであった。

「それで、話とはなんでしょうか」

一段落ついたところで、リフィルがそう切り出した。焚火を挾んで向かいに座っていたヴォルムは深呼吸を一つして、その問いに答えた。

「まずはこれまでのことを謝ろうと思う。さっき指摘された通り、俺はリフィルに意見を求めているようで、その実、聞いていないようなものだった。基本的には自分一人で考えて、そこで出た結論をもとにいていた。一緒に行していて、不満に思うこともあっただろう。すまん」

未來の話は大事だ。だが、それより先に過去の過ちは正しておかなくてはならない。でないと、また一人で突っ走ってしまうと思われてしまうからだ。せっかく意識を変えようと話し合いの場を設けているのに、変わっていないと失されては堪らない。

「そんな、謝らないでください。ヴォルムさんだっていろいろと大変だったみたいですし、もっと私が聲をかけたり、口を挿んだりできたら良かったんですけど……その、分からないことが多かったもので……」

「それこそ気に止む必要はない。分からないことが多いのも、俺が伝えることを怠ったからだ。今後はもっと報共有をする。それと、考えるのも一人じゃなく二人でだ」

分からない、というのはロンの話に対しても言っていた。一般人からしたら未知の存在である生命エネルギー。正直、ヴォルムも自分の験がなければそんなものは信じなかったと思う。そんなものを前提に長々と話をしていたのもそうだし、死ぬだ何だと言い出すし、あの空間はリフィルにとっては不可解に満ちた空間だっただろう。

しかし、それは分かりやすく不可解だったというだけで、同じことが今までのヴォルムにも言えるのだ。出會った時から出自についてぼかしたり、話せないことが多かったりしたのが今の今まで続いていた。

リフィルは思考能力がないわけじゃない。考える元となる報を渡せばちゃんと考えてくれる。それに、ヴォルムとは違う視點を持っているというのも魅力的だ。一人では気づけなかったことや、思いつけなかったことを提示してくれる。だから、話し合うのだ。

そうして今後について話し合ううちに、夜は更けていった。

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