《「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。》第五章 第百八十七話 保護
ヴォルムたちが列の最後尾に並んだとき、前には六組の場待ちがいた。一組の規模にもよるが、ヴォルムたちの番が回ってくるまでには十分ほどの時間があると見て良いだろう。そこで、早速一つ前に並んでいる人に聲をかけることにした。
「すみません、しお話を聞いてもらっても良いですか?」
「ん、なんだぁ?」
前にいたのは口元に立派なひげを蓄えた大柄の男だった。なにやら大きな馬車に壺をたくさん乗せているようで、その様子から商人であることが分かった。
「私たちに、お金を貸してくれませんか」
そんな男に対して、リフィルは何の前置きもなしに要求を伝えた。あまりに唐突な要求。男は一瞬、何を言っているのか理解できないというような顔をした後、顔をしかめた。
「おい、出會い頭にいきなり金を貸してくれたぁ、どういう了見だ?」
リフィルの態度が気に食わなかったのか、男は高圧的な態度でこちらに向かう。しかし、それくらいで怯むリフィルではない。堂々と向き合い、事を説明し始めた。
「私たちは戦爭から逃げてきました。その際に、急いでいたためお金は全て置いてきてしまいました。なんとか今までは野宿をして生きてきましたが、流石に限界で……。街にりたいのですが、るのにはお金がかかると聞きました。それをどうにかするためにお願いしているのです」
依然として睨みつける男に、まっすぐ視線を返すリフィル。その視線の差にどんな意味が込められていたのかは當人たちにしか分からない。數秒の後、睨み合いは男が諦めたように視線を逸らしたことで終わった。
「はぁ、まぁ良いや、そんで、返す當てはあんのか? 借りるってことは當然あるんだよな?」
正直に話すと、返済する當てなんてものはない。町に知り合いがいるとか、働く伝手があるとか、都合の良い話は何もないのだ。とはいえ、それを馬鹿正直に言うことはできない。商人という人種が、採算の取れない取引をしたがらない人種だからだ。
「もちろん、あります。私たちならすぐにお金を用意できますし、返すときには倍以上の金額でお返ししましょう」
當てはないが、自信はある。それがヴォルムたちの認識だった。町でどんな仕事があるのかは分からないが、二人が力を合わせればそうそうできないことはない。いつ必要になるのかも分からないような技能を數々習得してきたヴォルムは本気でそう思っていた。
しかし、男は心したような顔をしたものの、すぐに首を橫に振った。
「ダメだな。すまないが俺からは貸せない」
「……っ、それは、どうしてでしょうか」
上手くいっているような気がしていたのに、返ってきたのは否定の言葉。咄嗟に、リフィルはその真意を聞いていた。
「簡単な話だ。リスクが高すぎんだよ。俺が貸したとして、町にった後はどうするつもりだ? 宿は? 飯は? った後もいろいろと金がかかるだろう。俺はそこまで面倒みられねぇし、れるだけれてその後死んじまったとしても責任が取れねぇ。それに、そんなに稼げる自信があるなら、自分たちで稼いでから來れば良いだろう。そうは思わねぇか」
男の言い分はごもっともと言うか、決して間違ってはいないものだった。指摘された通り、町にるまでは良くても、その後のことは何も決まっていない。結局、中にって見ないことには決めようがないからだ。しかし、そんな狀態で返す當てがあると言われても、普通は信用できないだろう。ヴォルムだって、男の立場だったら理屈はどうであれ斷っていたはずだ。
おそらく、男はヴォルムたちの狀態を見て実際に返すつもりであることと、それができるだけの能力があることを理解している。それでも斷るのは彼の言う通り、リスクリターンの問題だ。何事も、不慮の事故というものはある。その確率が低かったとしても、そのリスクを冒してまで取りに行くリターン――つまりは利益があるのかと言われたら、この取引にそんな利益はない。
「お話、聞いてくださってありがとうございました」
「悪いな、力になれなくて」
これ以上の渉は無意味。そう判斷して、リフィルは頭を下げた。男もなんだか申し訳なさそうだ。
「……ダメ、でしたね」
「まぁ、予想通りと言えば予想通りだ。言ってることもその通りだしな。希を持って次に期待するしかない……んだが……」
男との渉を終えたリフィルと言葉をわす。その流れでヴォルムは後方に視線を移した。そこには人の気配がない道と、草原、それからし遠くに森が見えるだけだった。
「人、來ませんね」
「俺たちが最後尾のまま、もしかしたら順番が回ってくるかもな……」
門を観察していた間に列が途絶えたことはなかった。が、長い時間観察していたわけではないため、それが平常時なのかは分からない部分だった。本當なら渉をしている間に後ろに誰かが來て、その人と渉を始めるつもりだったのだが、そう思通りに現実はいてくれないというわけか。
その後も誰かが並びに來るような気配はなく、ヴォルムたちは誰からもお金を借りられないまま門番と話をすることになった。
「こんにちは。まずは簡単な質問をさせていただきますね――」
どこから來たのか、どうしてここに來たのか、中では何をするつもりなのか、など、簡単な質問の後に、通過の際にお金をもらっていると説明があった。
「その、お金なんですけど、今持ち合わせがなくて、どうにか通ることって出來ませんかね」
ヴォルムの言葉に、門番の顔が険しくなる。
「持ち合わせがない? そこまで高額ではないはずですが、それは全く金銭を持っていないということですか?」
「はい、全くもっていません。ゼロです」
門番はいぶかしげな表でヴォルムとリフィルを互に見る。
「そうですか、理由は説明できますか? 財布を落としたとか、賊に襲われたとか」
「ええと、実は戦爭から逃げて來たんですけど、その時に急いでいたもので、持ち出せたのがいつもに著けていた護用のナイフくらいなんですよ」
「……町にれたとして、行く當ては? 働く當ては?」
「ないです。どうにかなるとは思ってるんですけど」
すると、門番は大きなため息を吐いた。
「事は分かりました。マニュアルに照らし合わせて、あなたたちを保護対象と判斷します。こちらで手続きをしますので、ご同行お願いします」
避けたかった別室への連行。一瞬、その言葉が脳裏をよぎったが、どうやら様子が違う。保護とは一どういうことだろうか。その真相を探るべく、一旦ついて行ってみることにした。
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