《「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。》第五章 第百九十二話 贅沢
その後も二人はいくつか武屋を巡り、自分に合う武は何なのかいろいろと試した。剣を、槍を、斧を、杖を、その他にも鎌やら棒やら、メジャーなものからマイナーなものまで振り回してみた。そして、ヴォルムは刀を、リフィルは杖を購した。
「いやぁ、普及するのにはちゃんと理由があるんだな。これはあんまり普通の剣ってわけじゃないけど」
「教えてもらうにも使い手がたくさんいる方が良いですからね」
ヴォルムが選んだのは片刃の剣。それも、遙か東の國からやって來たというものだった。刃渡りが一メートルほどもある大型の太刀で、そこらの戦斧よりも振るのに力がいる。ヴォルムには生命エネルギーを用いた強化があるためこれを難なく振り回すことができるのだ。
「果たして、こんな珍しい武を教えてくれる人はいるのかね。いくらこの町がデカいからって、流石に遠い異國の武を専門にしてる奴がいるとはなかなか考えられないな」
まだしった程度だが、ヴォルムにはこの武を扱うことの難しさが分かっていた。それは単純に武のサイズが大きいというのもあるが、今までに使ったことのある剣と構造上は似ているという點が厄介だった。片手で振るうものにしろ、両手で振るうものにしろ、広く普及していた剣は軍で何度もった武だ。何を持たされても十分に使えてしまうヴォルムはその経験がある。そして、今日購した刀も一見、同じような武に見える。細い棒狀の、端を持って振る武。そう思うと同じ構造をしているようだが、実際は全く逆の質を持っていたのだ。
ヴォルムの経験では、重心が手元から離れたところにある武は叩きつけるような運用をするために頑丈な作りになっていた。大型の戦斧なんかがそうだ。一方で、手元に重心があって取り回しのきくものは力ではなく技で切るための武で、力任せに振ろうものなら壊れてしまうようなものだった。購した刀の重心は手元から離れている。先端にあるわけではないにしても、軽く取り回せる武ではない。しかし、その刀は細く、叩きつけるような運用をしたら砕けてしまうだろう。
このギャップが難しさの正。しかし、それを乗り越えることができれば、絶大な攻撃力を手にれられる。ヴォルムは面白い武を見つけられたことを喜んだ。
「そんなことを言ったら、杖の扱いも教えてくれる人なんていなさそうじゃありませんか?」
「そんなの、それで敵を毆るわけでもあるまいし、持って移できるなら良いんじゃないか?」
リフィルが買ったのは魔の発を補助するための杖だ。全長三十センチほどの短い棒で、先端に小さい魔石がつけられている。これがとなって魔の威力を上げてくれたり、発に必要な魔力量を減らしてくれたりと、補助をしてくれるのだ。武とは言ったものの、これで敵を毆ることはできない。形狀的には刺すくらいのことはできそうだが、そんなことを続けていたらすぐに折れてしまうだろう。
つまりは、補助なのだ。魔そのものが本來の武であって、杖は補助。武ではない。そう考えると、その扱いを教えてくれる人なんていないし、そもそも、必要がないのだということが分かる。
「うーん、それはそうななんですが……何か、コツみたいなものがあるような気がしてならないんですよね……」
ヴォルムには魔のことは分からない。使う本人がそう言っているのだから、もしかしたら本當に上手い使い方というものがあるのかもしれない。しかし、軍にいたときから今までにそんな話を聞いたことはない。存在を証明したいなら、自分で辿り著くしかないのだ。
「まぁ、いろいろ試してみれば分かるだろ。そういうのも含めて、俺たちは強くなるんだ」
「はい。ひとまずは私、もっとけるようになります。人數のいるパーティだったら後ろに隠れていれば良いのかもしれませんけど、二人だとどうしても狙われてしまうでしょうからね。自分のくらいは自分で守ります」
やはり、リフィルはやる気に満ちている。ヴォルムと違って、復讐に燃えているわけでもないのにだ。一、何が彼をそこまでさせるのだろうか。仲間が強くなってくれるのは嬉しいし、ここまできて疑うようなことはしない。だが、仲間だからという理由だけでリフィルが頑張ってくれるのを、ヴォルムは理解することができなかった。
「ところで、お金はどのくらい余ってるんですか?」
一転、リフィルの興味が町の散策に移ったようだ。
「この後、リフィルの短剣を買うから正確には分からんが、半分くらいは殘ってるぞ」
本當はもっとお金をかけていわゆる「良い」武を買うつもりでいた。実際、最初は刀ではなくもっと扱いやすく能も良い両刃の剣を候補に挙げていたのだが、直前で考えを変えたのだ。
よく見る武というのは使い手も多く様々な運用方法が開発されている。しかし、対策も同様にされている。ヴォルムが倒そうとしている相手に置き換えてもそれは同じ。ならば、癖のある武を擔いでいった方が勝機はあるのではないか。
問題はその癖を使いこなせるかというところなのだが、幸いなことにヴォルムには武を扱う才能があった。どんな武だろうとすぐに使いこなせるようになるのだ。だから刀を買った。まずは一つ目の武ということであまり癖の強すぎない、それでいて、攻撃力のある武を選んだのだ。
そのおでお金が浮いたところに、リフィルだ。彼も最初は背丈ほどある大きな杖を買うつもりだったらしいのだが、パーティの編を考えて、機力が落ちるのはまずいと考えたのだろう。小さく軽いものに変えたことでまたお金が浮いた。しかも、選んだ杖がそこまで品質の良いものではなかった。なんでも、魔を使えるだけで魔師ではないとのこと。確かに、魔をずっと専門的に學んで、修行してきたわけではない。使える魔の種類も、度も一流の魔師と比べたらお末なものだろう。ヴォルムからしたら使えるというだけで凄いことなのだが、本人は外側だけを整えても寶の持ち腐れだと言って安いものを購した。戦闘スタイルも、魔は牽制用で、近接戦闘もやるつもりのようだ。個人的にはどちらもと張るのはお勧めできないが、やる前から否定することはできない。
「じゃあ、お晝ご飯の場所を探しましょうか。初めての外食です。ちょっとくらい、贅沢しても良いですよね?」
そんなことを考えていると、リフィルがキョロキョロと町を見渡してそう言った。寮での食事を不味いとは言わないが、あそこで出てくる料理は量が何よりも重視されていて、しかもたくさんの人が流れ込むために提供することを二番目に置いている。そのため味は料理によってまちまちで、味しいものもあれば、そうでもないものもあるし、溫かいものも冷めてしまっているものもある。無料で食べさせてもらっている以上、文句は言えないが、たまには味しさを追求した食事を食べたくなるものだ。
「ああ、どこか目星はついているのか?」
「はい、いくつか! 今日はどんなものを食べたい気分ですか?」
今はこれを「贅沢」と呼んでいる。だが、いずれこれが日常になる。そんな未來に思いを馳せて、ヴォルムは笑った。
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