《「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。》第五章 第百九十四話 図書館

拠點を移してからの生活は、あらゆる意味で寮での生活と違っていた。まず、何をしようにもお金がかかるのだ。借家の家賃に、毎日の食費、その他生活必需品など、とにかくすべてにおいてお金が必要になる。今までは寢床も家も用意してあって、食事も無料だったからただ生きているだけなら何も対価を必要としなかったのに、今は息をするだけでも金がかかるという狀態だ。

その上、武は定期的にメンテナンスして、必要ならば買い換えなければならない。これがなかなか厄介で、メンテナンスにお金がかかるのはもちろん、買い替えのタイミングが予測しきれないのが面倒なのだ。武が長持ちするかどうかは戦闘容に依存する。使い手が下手なことをしても、相手が強大でも、武の消耗は早まる。極論、新品の武がいきなり破壊されることだってあり得るくらいだ。いつ買い替えが必要になっても良いように、ある程度の金額は常に用意しておかなければならない。お金の運用の難しさと、計畫的に使うことの大切さを痛するのだった。

そんなわけがあって、ヴォルムたちは節約できるところではちゃんと節約をして生活しようと取り決めた。その施策の一つが自炊だ。さすがに毎日毎食を作るのは不可能なのでできる限りで、ということにはなってしまうが、それでもすべてを外食で済ませるよりは安くなる。幸いなことにヴォルムもリフィルも料理ができるため、妙な料理を作り出して腹を壊したり、無理矢理不味い飯を流しこんだりなんてことにはならなかった。

「では、行ってきますね」

今日は武をメンテナンスに出してしまっているので、魔の狩りはお休みだ。その代わり、町で報収集をする。狩りをするか、報収集をするか。それが今の暮らしの中心だった。

ヴォルムは今から部屋の掃除をした後、図書館に行って調べものをする。リフィルはその間に買い出しに行き、晝の準備ができ次第、図書館で合流することになっている。

「行ってらっしゃい」

新居での暮らしにも慣れたもので、こういった役割分擔も日常と化してきた。魔狩り関連の仕事の斡旋所――ハンターズギルドからの評価も上がり、より強力な魔の狩りへ挑戦できるようにもなった。それにつれてヴォルムはたくさんの技をコピーし、それ以外にも、単純な戦闘力をばしていた。もちろん、報酬も徐々に増えているわけで、既に節約が必要ないくらいにはお金が貯まっている。非常に順調。そう言いたいところだった。

しかし、全てが順調というわけでもなかった。その要因が、報のなさだ。きっと、このまま強くなっても、復讐を果たすことはできない。相手のバックに神とやらがついている以上、人ので簡単に勝たせてくれるはずがないのだ。つまり、その神とやらをどうにかする手段、あるいはそんなものを無視して相手を叩き潰すだけの力を得る必要があるわけだが、その方法が分からない。大きな町だから報もたくさんあるだろうと思っていたし、実際、その認識は間違っていなかった。図書館は大きく、とてもじゃないが読み切れないほどの蔵書がある。そんな図書館にも何度も足を運んでいるのに、神に関する記述も、強大な力を手にれるに関する記述も、全く見當たらなかった。

「これも違うか……」

それとなく関連がありそうな本――例えば、宗教関係の本なんかを選んで読んでみる。しかし、そのすべてが教えを説くような容であり、神の質や弱點が書いてあるなんてことはなかった。戒律だの何だのから神の質を推測できるかもしれないと思ってまとめてみたりもしたのだが、結局、ルールを定めているのは人間でそこに神の質は影響していないという結論に至った。

「お探しのものは見付かりましたか?」

落膽しながら一冊の本を閉じたヴォルムに、聲をかける者がいた。ヴォルムより頭一つ分背の高い大柄な男。図書館の職員であることを示す制服をに纏い、四角いメガネが知的な印象を放っている彼は、ユルド。この図書館の職員の一人で、詳しくは聞いていないが、それなりに偉い人なのだそうだ。

「……ユルドさんか。殘念ながら、今日もさっぱりだ」

ヴォルムが首を振ると、ユルドの殘念そうな顔をする。彼とは、當然だが、この図書館で知り合った。戦闘を生業とするハンターが知識の寶庫である図書館にいるのが珍しいとか言って、向こうから聲をかけてきたのだ。狩りをするのにも力だけでなく頭を使う場面があるので、それは間違った偏見だとその場でっておいたのだが、よく考えると狩りに使う知恵はハンターの間でけ継がれているもので、わざわざ図書館に調べに來る必要のないものだ。周りを見ても自分か、リフィルくらいしかハンターはいない。それにリフィルは一見しただけではハンターに見えないから、こうしてヴォルムに聲をかけてくるのは自然なことなのだろう。正直、ヴォルムが職員だったら、図書館に場違いなやつが來たら何が目的かと聲をかけると思う。そういった警戒のは見えなかったが、きっと妙なことをする者がいないか見張るように言われているのだろう。

「では、副産は?」

「んー、まぁ、ぼちぼちってじかな。プラスにはなった」

ユルドの言う副産とは、本命の報ではないながらも有用だった報のことだ。今までも、たくさんの戦闘技をここで學んでは実踐してきた。面白いことに、口伝だと思われていた狩りの作法や知恵が載っている本もあって、先輩ハンターに聞く前にそういった報が得られたりもした。

「その言い草ですと、また新しく戦闘技を仕れられたようですね。強さというものはそういった小さな積み重ねの上にり立つものですから、焦らずに、著実に強くなれば良いと思いますよ」

戦闘系の脳筋が本を読んでいる。その景がやはり面白いのか、ユルドはそう言って笑うと、どこかへと歩いて行ってしまった。

彼の言っていることにはおおむね賛だ。しずつでも良いから、昨日の自分より強くなっていれば良い。頭を使って、技を仕れて、著実に強くなれば良い。しかし、それに同意できるのは普段のヴォルムだったらの話だ。

しいのは瞬時に、発的に強くなる方法だ。生命エネルギーのようなものがしいのだ。一つあったのだから、もう一つくらいあっても良いではないか。その理屈が通らないことはもちろん分かっていた。それでも探すことはやめられない。

しかし、それだけ探しても存在を確認している生命エネルギーに関する記述すら見つけられていないのであった。

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