《「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。》第五章 第百九十五話 手掛かり
「どうですか? 何か見つかりましたか?」
結局、リフィルが買い出しを終えて図書館に來るまで、有用な報を新たに仕れることはできなかった。以前はもっと武の指南書やトレーニング方法が載った書を見つける度に喜んでいた気がするのだが、流石に何冊も読んでいると容も被ってくるし、それ以上に書ごとに真逆のことが書いてあったときの対応が面倒になってきてしまったのだ。
研究に基づいている書ならどちらがより新しいものなのかで信じるべき報を判別することができるのだが、指南書なんかは個人の功験を基に書かれているためそれができない。剣のリーチで槍に勝つ方法が書かれている本があったかと思うと槍のリーチで剣を圧倒する方法が書かれている本もあるし、そこに割り込むように戦斧が最強だと言い出す本もある。最終的には使い手の練度の差で勝敗が決まるのだろうが、ヴォルムが知りたいのは極限まで使いこなすことができたら強いのはどちらなのか、ということだった。本當に何を信じて良いのかが分からない。
「……うーん、いや、特にはないかな。知らない流派の指南書があったけど、それだけ」
剣も槍も、それぞれいくつかの流派があるらしい。いまいち観測しきれていないが、大きく分けると三つずつ、それから派生した流派も含めると莫大な量になる。ここまでくるとほぼ宗教みたいなもので、どんな理念で剣を振るうか、あるいは槍を振るうかの違いになってくる。ただ、そのどれもあまり価値のあるものだとは思えなかった。というのも、そこで教えてもらえる型というものは特定の狀況で使えるきというだけであって、今目の前に狀況に対応できるものではないからだ。すべてを覚えて狀況に応じて使いこなせればそれなりに有用なのかもしれないが、実踐の中で既存の型から選んでいては間に合わない。結局、自分の頭で考えて、いて、に著けるのが一番効率的なのだ。
あるいは、それでは剣が完するまでに時間がかかるから、先人からの積み重ねを型として教えているのかもしれない。しかし、ヴォルムにそれは必要なかった。生命エネルギーのおで時間はいくらでもあるし、強化をすればセンスを無視してフィジカルで最適解を導き出せる。正解が一発で分かってしまうなら型は必要ないのだ。
「一旦、休憩にしましょうか」
「ああ、そうしよう」
寮から移ってきた拠點にはキッチンがある。これは元々食費を節約するために自炊をしていたため必要だった施設だが、金銭的な余裕ができた今でも習慣として自炊を継続しているため、毎日のように使っている。
ヴォルムもリフィルも料理ができるため、基本的には互に準備を行っている。今日はリフィルが當番の日で、帰ってきたら既に準備が整っていた。
「お晝は簡単にサンドイッチと、スープです。お魚が安かったので、フィッシュサンドです」
「ん、味い」
二人とも自炊を始めた頃は食に興味がなかったこともあり、レシピに必要な食材を買って作るというのが主流だった。しかし、それだとそこまで節約にならないことに気付き、安く変えた食材でどう料理を作るかという方向に考えをシフトしていった。その結果、その場にあるもので料理を組み立てられるようになり、しかも、レシピに縛られなくても味しい料理が作れるようになった。
このスキルが今後の人生でどう活きるかは分からないが、なくとも今、生活の幸福度を下の方で支えてくれていることには間違いない。最悪、食べられればどんなものでも良いという幹は変わっていないが、それはそれとして、普段食べるものはできる限り味しい方が良い。同時にそう考えるようにもなっていた。
「良かった。それで、午後はどうするんですか? 何もなければ私も図書館に行こうと思ってるんですけど」
なかなかしい報に辿り著けない。それは図書館に目當てのものがないというわけではない。図書館にはとても二人では読み切れないほどの蔵書があり、今は関連の強そうな書から順番に読んでいるが、探している報が全く関係のない場所から出てくる可能だってある。あの場に存在しないことの証明は、蔵書の全てを読むことでしかできない。ならば、存在を信じてひたすら読むことしかできないのだ。
「店が閉まる前に裝備のけ取りに行かなきゃならんが、それまでは図書館だな。正直、二人でも手が足りないくらいだから、暇なときはリフィルにも探してもらえるとありがたい」
「分かりました。お手伝いします」
晝食を終えた二人は、再び図書館へと戻った。いつも使っている機にいくつかの本を持って行くと、そのタイミングを見計らったかのようにユルドがやって來た。
「どうですか? 調子は」
「さっきと変わってないよ。今から午後の部を始めるんだ」
茶化すだけなら邪魔だからどこかへ行っていてくれ。そう言おうと思ったヴォルムだったが、ユルドが一冊の本を差し出したのを見て止めた。
「それは?」
「ざっくり言うと、強くなる方法が書いてあるかもしれない本です」
表紙を見ると、魔図鑑と書かれていた。確かに、魔を狩る上で相手のことを知っておくのは大切だ。知識があるだけで、強くなったと言うこともできるかもしれない。しかし、その程度で飛躍的に強くなれるかと言われたらそうではないし、最終的にヴォルムが相手取ろうとしているものは魔ではない。
「……かもしれない?」
その上、ユルドはかもしれないと言った。その意図が知りたくてヴォルムは聞き返す。
「ええ。この図鑑はし特殊でして、魔を食べたときのことが書いてあるんです。味しいとか、とても食べられたものではないとか。その中に、いくつか面白い項目がありますので是非読んでみてほしいな、と」
再びユルドの方を見る。微笑みからは何も読み取れない。噓は言っていないようだが、まったくもって何がしたいのかが分からない。
「そんな怪訝そうな顔をしないでください。私はただ熱心に調べものをしているあなたの手助けになれば、と思っただけですから」
相変わらずユルドの意図は読めないが、この本を読んだからと言ってヴォルムたちに不都合があるわけでもない。むしろ、何か報が得られるかもしれないのだから、読んでみるしか選択肢はないのだ。
「そうか、ありがとう。今後も、ただ茶化しに來るんじゃなくて協力してくれると俺としてはもっと嬉しいんだけどな」
「それは、私も仕事が忙しいなのでね、あまり期待はしないでいただきたいところです」
「調べものの手助けも仕事のうちじゃないのか」
問答の間に勧められた本をけ取る。
「では、私はこれで。良き出會いになることを祈っていますよ」
ユルドの言う良き出會いになるかは、報をどう読むか、全面的に読み手にかかっている。そんなことを言われた気がして、ヴォルムは早速その本を開くのであった。
來週の更新はお休みです。
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