《「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。》第五章 第二百一話 始
待ち合わせ場所までの道中、ヴォルムは自己紹介をした。元々軍人であったこと、戦爭をしていたこと、それから、そこで験したこと。ここに來るまでの経緯を簡単に説明した。年――ネルは前報通り戦うのが好きみたいで、戦爭やら強敵の存在やら、騒な話題に興味がある様子。骨に目の輝きが増すものだから、思わず笑ってしまった。
待ち合わせの場所――昨日と同じ酒場にやってくると、當然、酒場はまだ営業を始めていなかった。考えてみたらそれもそうだ。酒場なんて夕方か、早くても晝にならないと開かないものだろう。ネルは大量のを食べていたが、普通はまだそんなものを食べるような時間でもなければ、酒を呑むような時間でもないのだ。しかし、男はそこにいた。店の前に一人で立って、待っていたのだ。
「やぁ、おはよう。早いね」
「……あ、ああ。時間の指定がなかったからな。遅れたらいけねぇと思って」
そうなのだ。ヴォルムは昨晩、「同じ場所で」と言っただけで時間に関する報を一切伝えていなかったのだ。だから自分もこうして朝に來ているわけだし、なんなら集合場所がまだ開いていない酒場だということも忘れていたくらいだ。せっかく仲間になってくれると言っているのに、男には悪いことをしたな。男の指摘に非難の意があるような気がして、ヴォルムはしだけ居心地が悪くなった。
「それは悪かった。もしかしてものすごい時間ここで待ってたとか、あるいは昨日からずっとここで待ってるとか、そんなじ?」
「いや、ちゃんと一旦家に帰ってるし、特別待たされたとも思ってねぇよ。俺はそこまで小さくねぇんでな。それに、こんなんで怒ってるようじゃやってられねぇようなことをこれからするんだろ? 覚悟はもうできてんだ」
いちいちトゲをじる言い方だ。ヴォルムはやはり責められているような気がしてならなかった。しかし、表面的には気にしないと言っている。それを掘り返したって良いことはないだろう。許してもらえているに次の話題に持って行くのが吉だ。
「まぁ、そうだね。覚悟ができてるって言うんなら、頼もしい限りだよ」
「で、そいつは何者なんだ? 昨日はいなかった気がするが」
そう言って男が視線をネルに向けた。視線を向けられた本人は何が起こっているのか理解できていないのだろう。キョトンとしていてかない。
「こいつはさっき仲間になったネルだ。こう見えて朝から特大ステーキを平らげるようなバケモンだから見た目で侮るなよ」
バケモンと言われて傷つくどころかむしろ喜んでいるのか、ネルはニカッと笑ってこちらを見上げてくる。一方で男は「ついさっき」という部分が引っかかるのか、困が丸見えの表をしていた。
「あんたが連れてきたって時點で侮ったりはしねぇけどよ、そんな即席メンバーで大丈夫なのか? 神を殺すんだろ?」
「そうそう! その話なんだけどさ! まだネルにも詳しい話はしてなくて、これから二人まとめて説明しようと思ってたんだ。こんな道端で話すもんじゃないし場所を移そうと思うんだけど、良い?」
二人に目配せをすると、二人とも頷いてくれた。
それから、無駄に人が多い場所で話したくはないとの要があったので、俺たちの拠點で話すことになった。朝のうちに拠點に帰るというのは初めてだったから、妙な経験をしたものだな、なんてことを考えていると、後ろから二人の話聲が聞こえてきた。拠點に著くまでにお互いに自己紹介でもしておけと言っておいたのだが、どんな會話をしているのだろうか。気になって聞き耳を立ててみることにした。
「ボクはネル! よろしく!」
「ああ、よろしく。俺はオーリだ」
以降、二人の聲が聞こえてくることはなかった。一応、スカウトしたとして二人の仲が悪いというなら何かしら対処をしなければならないと思うのだが、まさか初日から仲たがいをした、なんてことはないだろう。単純にまだお互いに距離がつかめていなくて話が続かないだけ。にしても、自己紹介で名前だけというのはどうなんだろうか。二人とも戦闘要員としてスカウトしているのだから、戦闘スタイルの話とか、何が得意なのかとか、いくらでも話すことはあるだろうに。
今後の人間関係に一抹の不安をじながら、ヴォルムたちは拠點へとたどり著いた。
「じゃあ、早速本題にるぞ」
無言の時間が長かったこともあり、靜寂を打ち破るのにはし抵抗があったが、話すためにここまで移してきたのに黙ったままではいられない。
「事前に言ってある通り、最終目標は神を殺すことだ。だが、今の俺たちでは到底、その目標は達できない。だから、もっと強くなって、かつ神を殺すための方法を考えなきゃいけない」
ここで、オーリの手が挙がった。
「強くなるのが必須ってことは、神も暴力で殺せるんじゃねぇのか? その言い方だと別の方法があるように聞こえるが」
「察しが良いね。強くなるのはもちろん、直接神を殺すときにも役立つかもしれない。だが、その前に神の使いを突破しなきゃならないんだ。戦ったことがあるけど、相當強いよ。今の二人じゃ、敵わないくらい」
こんな話を聞いたら普通、逃げ出したくなるものだろう。なのに、ネルの目は輝いている。自分より強い相手がいて、そんな存在と命のやり取りをすることに全くじていない。どころか、それを楽しみにしている節まである。頼もしい限りだ。
「まぁ、それはこれから強くなってもらうから良いとして、問題の神を殺す方法だが、肝心のそこが全然解明できてないのが現狀だ。もう一人の仲間が教會に潛して報を集めてくれているが、それでも有用な報がってくるかは分からない。長いこと図書館で文獻を漁っていても、何も出てこないくらいだからな。二人にも、その辺りで心當たりがあるなら教えてほしい。どんな容でも知っておきたいんだ」
それから、ほぼ未定とはいえ、今後の予定についても話す。
「明後日、さっき言ったもう一人の仲間が帰ってくる、予定だ。帰ってこなかったらそこで奪還任務が発生する。そこで得られた報をまとめて、今後どうするのかを決定する。それまでは、連攜を深めるためにも戦闘訓練だな」
ざっと説明はこんなもの。雑だけど、まだ決まっていないことが多い現狀を理解してもらった。早速、今日の午後から訓練と稱して二人に戦ってもらうことにして、ヴォルムの話は終わった。
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