高まる張の中、それを破ったのはホルスだった。

｢ふっ！｣

手刀でを薙いでくるホルス。

｢っ！｣

それを素早くしゃがみ込み、トリスは避ける。そしてそのままホルスの懐に潛り込み、軽くジャブを放つが案の定軽くいなされてしまう。

｢トリス、本気でやってる？｣

｢いや？というか本気出したら駄目でしょ。確実に皆さん目で追えなくなるし、下手したらここじゃあ狹すぎる。｣

お互いに果敢に攻めながらも呑気に會話する。常人ならばとっくにへばっているような運量をこなしていながらも、2人は汗を一切かいていない。

このテニスコートの約1.5倍ほどの広さの試合會場では、彼らは本気でけないらしい。

｢そんな事よりも、トリスし攻めあぐねてるよね？｣

｢ん〜、まぁね〜。俺どっちかと言えば、カウンターの方が得意だし。｣

｢あ〜、やっぱり？トリスはいつも相手のきを読んで、弓で抜いてるけど、自分からはあんまり攻めてないよね。｣

トリスにとって天敵となるのが、ある程度の実力がある持久戦を行う相手だ。因みにホルスはオールラウンダーなので、相手に合わせて戦いやすいようにくので、特に不得手とする相手は居ない。

そのためトリスにとってホルスは、々戦いづらい相手となっている。

｢う〜ん…。つまらないから、攻めてくんない？｣

トリスは面白くなさそうに提案する。

するとホルスは満面の笑みで言う。

｢りょーかい。僕は攻撃仕掛ける方が好きだから、全然問題は無いよ。｣

｢知ってるよ。ホルスはドSだもんな。｣

｢どえす？何それ？｣

｢ホルスみたいな奴のことを、とある業界ではそう呼ぶんだよ。｣

｢む。何か気にらない。それ、絶対悪意あるよ…ね！｣

ホルスは一層笑みを濃くすると、最初の時のように勢い良く飛び込んでくると同時に右ストレートを放つ。

-待ってました！-

トリスは心そう思いながら、ホルスの右手首に左手を添え、右手で腕を摑むとそのままの向きをホルスと正反対にする。

｢え？｣

｢どりゃぁ！｣

そう。所謂背負い投げである。こちらの世界には、関節をキメたり、普通に毆る武の流派はあるものの、日本の道のような流派は無い。

そのため何をするのか判斷のつかなかったホルスは、その一瞬の迷いのため綺麗にが宙を舞ってしまう。

-これか！トリスが狙っていた事は！確かにこのままいけば背中から落ちる！けど！-

｢な!?｣

決まったと思っていたトリスは、ホルスの対処に思わず驚きの聲をあげてしまう。それはそうだろう。何故ならばホルスは、地面についた左手1本で全ての衝撃を吸収してしまったのだから。

-おいおい！どこの漫畫だよ！…あ、この世界はファンタジーなんだったな。-

心の中で現実逃避していると、ホルスの驚異的な力によって逆にトリスのはホルスによって投げられてしまう。

｢ふん！｣

｢のわっ！｣

だが勢が悪かったためか、地面に叩きつけるとはいかずに、そのまま空中に投げ出す形となってしまう。そのためトリスは何とか空中で勢を整え、次のホルスの攻撃に向けて構える。

だがその瞬間、いつの間にか背後に回っていたホルスが、トリスの首筋に手刀を當てていた。

｢僕の勝ちで良い？｣

｢…降參だ。あ〜あ、決まったと思ったんだけどな。｣

構えを解いたトリスは、力しながら呟く。

｢僕も一瞬何が起こったのか分からなかったよ。トリスのさっきの技凄いね！どこかで習ったの？｣

ホルスは笑顔で聞いてくる。どうやら背負い投げが、彼はお気に召したようだ。

｢え〜っと、何かの本で書いてあったのを、実踐してみただけだよ。特に習っちゃいないけど。｣

｢え？さっき初めてやったの？そのわりには、結構流れるように綺麗にきまったよね？｣

トリスの言葉に驚くホルス。確かに練者とは言えないようなぎこちなさはあったが、それでも一度もやった事が無いというのは、到底信じられないきだったからだ。

｢あ〜、その、多分俺が相手のきを読むのが得意だからじゃないか？ホルスが右ストレートで來るのは、大予想してたから、結構脳できを試せたし。｣

道は育の授業で習ったきりではあるが、こちらの世界で敵を傷付けずに無力化する時に便利なため、ここ10年で何回かは使っているトリス。

しかし今更言葉を訂正するのもなんなので、若干吃りながらも、どうにかそれらしい事を言う。

｢あ〜、確かにそうだよね。僕はさっき結構楽しんでたから、攻撃が直線的になるのは當然トリスは読んでたよね。となれば後は向かってくる僕に合わせてけばいいだけだし。うん、納得した。｣

｢そう？なら良いけど。他に質問は？｣

｢あ、じゃあ他に技は無いの？｣

｢お〜、あるぞ〜。んじゃあ、こういうのは──｣

周囲が呆然としている中、トリスは軽く道のレクチャーをホルスにしていく。

こうして、新學期早々のイベントは幕を下ろしたのだった。