｢さ、トリス君。早く行こう！｣

｢了解です…。｣

マルティナに腕を組まれて、ズルズルと部屋の外に引きずられるようにして、連れていかれるトリス。

そんな彼らを見送ったホルスは、真面目な顔で獨り言を言う。

｢…これでしはマシになるかな？昨日僕達を見ていた視線の中に、明らかにトリスからの強い羨のようなものをじたんだけど、トリスは隠すの上手いかならな…。｣

実はホルスは、昨日のトリスの視線に完全に気が付いており、親友として放っておく事は出來ないと判斷したのだ。

普段なら飄々とした態度をしているトリスが、あからさまに強いを顕にするなど、通常では考えられない事であった。

普段から、に溜め込んでいるものは多いだろうから、それが若し発したら…。

トリスが壊れるか、若しくは周りに酷い影響が出るような戦闘、いや殺･･という表現すら生溫い、慘事が起こりそうである。

｢その點、マルティナ先生ならどうにか抑えられそうな気がするのは、僕の希的観測なのかな？｣

見る者全てを魅了するような、優しい笑顔で2人が消えていったドアを見つめるホルスだった。

｢…。｣

｢トリス君！あれ味しそうですね！｣

大人しくされるがままになっているトリスを引っ張りつつ、マルティナは気ままにあちこちを見ているようだ。

輝かんばかりの、眩しい笑顔でトリスに話しかけるが、どうにもトリスは心あらずという様子であった。

｢え？あ、そうですね。｣

と、このような生返事しかしないのだ。

何故ならば、

-何だ？この覚は？憤りのような、おしさのような？しかも対象が分からん。に関しては、大分抑えている･････筈なのに。-

トリスは自のが、分からなくなっていた。

そして眉を顰めつつ、自の右腕に嵌めているミサンガをチラッと見る。するとミサンガが切れかけているのが目にった。

｢な!?そんな馬鹿な…。｣

それを見たトリスは、普通の人とは全く違う反応をする。普通ならば、『そろそろ願いが葉うのかな？』と楽しみになる筈なのに、トリスの表は驚愕したものであった。

｢ど、どうしたの？あれ？ミサンガ？切れそうだけど、どんなお願いをしたの？｣

驚いて聲を出したトリスに、當然ながらマルティナは気付き、その視線の先を追って、切れかけのミサンガを目にする。

この世界でも、毎度の如くどこぞの誰かさんが広めた噂で、細い紐が切れると願いが葉うという、お手軽且つロマンチックなものとして、ミサンガは世間に浸しつつあった。

｢あ、いえ、大した事は願って無いですよ。そ、それよりも、何か腹にいれません？ほら、あそこの屋臺なんか、味しそうですよ？｣

本人はニッコリと笑顔をり付けて言えたつもりであったが、マルティナからはその顔は、無理して苦しそうなものに見えた。

｢…ねぇ、トリス君。｣

｢え？な、何ですか？｣

何時になく真剣なトーンで呼ばれたトリスは、完全に焦っている様子が丸分かりであった。

｢あっちに良いお店があるの。し行ってみない？｣

余りに普通な発言に、トリスは首を傾げるが、今は話を変えるのが先決なので、空元気を振り絞って賛する。

｢？そうですか。じゃあ先生オススメのお店、行ってみましょうか！いや〜、楽しみですね。｣

｢…うん。｣

｢…。｣

だが、急に暗い雰囲気が漂い始めた現狀に、トリスは何も言えなくなってしまう。

マルティナも腕を組んで、先程よりもキツく力をれているが、それでも何も言わない。

そのまま暫く歩いていると、マルティナが先導して1軒の店にっていく。

そこは個室型のカフェで、本が時間制限があるものの読み放題という、またまたどこかで聞いた事がある形式であった。

｢はい、これ會員証です。2時間お願いします。｣

店にると、慣れたじでマルティナは付に居た店員に會員証を渡して、利用手続きをする。

店員はチラッとトリスの事を見るが、その暗い表から、特に問題は無いだろうと判斷し、放置する事にした。

｢…はい、畏まりました。…では、こちらが鍵です。延長する場合は、特に聲をかけずにそのままお使い下さい。｣

｢はい。さ、行こう。｣

｢…ま、まさかね。｣

トリスは嫌な予をビシビシとじるが、今更逃げても事を荒立てるような気がし、どうしようも無くなってしまう。

手渡された鍵でる個室は、３畳くらいであり、ソファに機、飲みがっている魔道マジックアイテムの冷蔵庫もどきがある、完全防音仕様の部屋であった。どんなに言い合いをしても、全く外には聞こえないであろう。

『完全なるプライベート空間』をコンセプトにした自分自を恨みつつ、トリスは大人しく個室に引き込まれていく。

｢…トリス君。｣

｢は、はい。｣

ソファに2人して座ってから數秒後、いきなり名前を呼ばれ、ピクっと反応してしまうトリス。その様子から、彼が如何に警戒しているかが分かるだろう。

｢ここなら、2人きりで、どんなに話しにくい事でも話し合えるよ？｣

｢そう、ですね。しかし、こんな個室に2人きりというのは、王都で昔助けてくれた、俺とは別のトリスっていう人に悪いんじゃないんですかね？｣

｢トリス君。今更そんな噓が通用すると思ってるの？それに、ローブの端から見えた、この辺では見た事がない黒い髪。そして未だに変わらない優しい口調と勇ましい口調。昔助けてくれたトリス君と、トリス君は同一人だよ。｣

｢…はぁ。まさか、ローブに付與していた認識阻害を無効化するとはね。恐れったよ。｣

言いながら、トリスは腰元のアイテムボックスから、あの時貰ったブレスレットを取り出す。

｢そ、それは。やっぱり、やっぱりそうだったんだ！トリス君！｣

驚愕、、嬉しさで表がコロコロと変わるマルティナ。

そしてトリスの名前をびつつ、ソファに押し倒す形で勢い良く抱きつく。

普段なら、トリスがんで止めさせようとするのだろうが、流石に今回は空気を読んで、大人しくけれるのだった。