時は遡り、トリスがマルティナに連れ去られて行った頃、ホルスはリアと待ち合わせをしていた。

時刻にして午前10時。この國の人間は皆朝が早いので、人混みがし引いてきていたのだが、そんな中ホルスは非常に困った様子で、言葉を詰まらせていた。

｢…えぇっと。｣

｢良いじゃない〜。お姉さん達と、イイことしようよ〜。｣

｢そうよ〜。お姉さん達、今日は何でも奢ってあげちゃう！いっぱいのつくもの食べて、夜も楽しみましょうよ！｣

｢うふふふ。可い坊や。…あぁ、想像しただけで、堪らないわ！｣

トリスがこの場に居たら、腹を抱えて大笑いしていた事間違い無しの、何ともホルスらしいトラブルに巻き込まれていたのだ。

｢そ、その、ごめんなさい。今日はもう先約がってまして、今はその方と待ち合わせをしてるんですが…。｣

ホルスは遠慮がちに言う。

因みに今日も黒ずくめで、トリスの意見を聞きれて、庶民が著ていても全くおかしくない服裝になっている。そのため3人の達は、まさかホルスが侯爵家の子息であるとは、夢にも思っていないだろう。

目立って、折角のデートが臺無しになるのはあれだろうという、トリスの気遣いが仇となったのだ。

｢えぇ〜？その人は男？｣

の1人から質問がくる。それは恐らく、ホルスとつるむような男なら、レベルは高いのだろうという魂膽であったのだろう。

｢えっと、なんですが…。｣

そんなの質問に、馬鹿正直に答えるホルス。まぁ、男と言ってもダブルやらトリプルデートなどと言い出したのは目に見えているので、どうしようも無いのだが。

｢あら。その娘とデートなのかしら？｣

｢坊やと一緒ぐらいの年齢の娘より、私達の方がよっぽどイイ験が出來るよ？｣

確かに彼達は十人並み以上の量と、それなりのプロポーションをしているだろう。

しかし下心丸出しのアプローチに慣れているホルスには、一切の効果もなさずににべも無く斷られてしまう。

｢お姉さん方。し強引ですよ？…いい加減に、してもらえませんか？｣

流石にイラッとしたホルスは、若干の威圧を加えた笑顔で、靜かに諭すように言う。

｢な、何よ!?折角ってあげてるんだから、アンタは素直に頷いてれば良いのよ!!｣

だが逆効果であったようで、1人が逆上して喚き散らす。

だが他の2人はそれにより、若干冷靜になったようで、逆上しているを宥めようとしている。

｢ご、ごめんなさいね。君みたいな子、滅多に見ないから躍起になっちゃったみたい。｣

｢この、子は責任もって回収するから、デート楽しんできてね？…さて。大人しく、してちょうだい！｣

『ゴスッ』と勢いよく頭突きを繰り出し、騒いでいるを靜かにさせる様子に、ホルスの表は引き攣る。

｢は、はい。ありがとうございます。えっと、お大事に…。｣

ホルスは、気を失い襟元摑まれて引き摺られていくを見送りつつ、小さく手を振る。

｢ほ、ホルス君？さっきのは何事？｣

ちょうどそこに、リアが現れる。シンプルな淡い水の半袖シャツ、ジーンズ風の短パンに、機能を重視したのかきやすそうな運靴を履いている。

｢あ、リア。…。｣

ホルスはトリスに相談して、昨日に引き続き、まずは服裝を褒める事にしていたのだが、私服登校である學園の時と、あまり変わらない服裝だったので、どうしようかと悩んでいるようだ。

｢え？どうしたの？私、普段と変わらないよね？おかしなところ無いよね？｣

じっと見てくるホルスに、何かおかしなところがあるのかと、あちこち確認するリア。

｢え？あ、うん。いつも通り、リアらしくて、可いよ････。｣

そんなリアを安心させるべく、『いつも通り！』と伝えようとするが、褒めようとする頭があったのか、つい要らんことまで言ってしまう。

｢にゃ!?か、可い!?私が!?お姉ちゃんならまだしも…。｣

顔を真っ赤にして、リアはショートカットの茶髪をクルクルと指に巻き付けて呟いている。

｢ご、ごめん！いきなり変な事言って。でも、そう思ってるのは、本心だから。｣

どんどんドツボに嵌っている気もしなくはないが、ホルスは平然と恥ずかしい事を言ってしまう。

｢…。｣

そんなホルスの言葉に、リアは恥ずかしさからか、完全に言葉を失っている。

｢…こ、コホン！…行こうか？｣

この微妙な空気を払拭すべく、ホルスは咳払いをし、リアに左手を差し出す。

｢…うん！行こう！｣

ホルスの手を數秒見つめるリアだったが、折角のデートを臺無しにする訳にはいかないと、恥ずかしさを無理矢理払い、その手を取るのだった。