《異世界に転生したので楽しく過ごすようです》第174話 六人の姿のようです

「タクマ。痛いだろうが我慢しろよ」

俺は初めから全開を出す。

ジュリが持っていた祝福のスキルを重ねた支援魔法。フェイが持っていたブーストを二段階まで。剛爪や化をして的に能力を底上げする。

霊化をして、タクマ達の知にも引っかからない明化をする事も忘れない。

今の俺は魔力貯蔵をしていた分を、魔力解放によって能力をあげることに使っている。皆だったら、魔法とかに使うんだろうが、今の俺には能力を上げることに使った方がいい。

あとは思考加速によって知覚速度を上げれるだけ上げたり、寶召喚で、當てを裝備したりする。

今回は思考破棄はしない。あれをすると、無駄に魔力を消費するからな。

タクマ達は強化を続ける俺を見失い、辺りを見回している。明化ならば見つかっていたかもしれないが、霊化をした俺は知にはかからない。

後はこのままタクマを殺すだけだ。

「お前を助ける為だ。済まない」

俺は小さくそう呟いて、タクマに突っ込む。

手を手刀の形にして、前に突き出す。

しずつタクマに近づく。近付いて近付いて、そして、タクマの防を突き抜け、俺の手がタクマのに突き刺さる。

「かはっ!」

タクマの口から塊が零れる。

俺の刺さった手はタクマの心臓を摑んでいる。は生暖かく、ねっとりとしており、ただただ赤いが零れ落ちる。

「本當に済まない……」

俺はタクマの心臓を容赦なく握り潰した。

「がっ……!がぁっ!」

び聲にもならない聲を上げるタクマ。虛ろだった目がだんだんと、死にゆく生気の無い目へと変貌していく。

俺はそれを見ながら、突き刺していた手を抜いた。の空いたからとめどなくが流れる。

力がっていたタクマのは、死に近付くにつれて力無く、ただ重力に引かれるように地面へと吸い込まれていく。

「…………」

今はもうタクマの目にはない。呼吸もせず、ただ溢れ出すが地を染めていくだけだ。

俺はこの世界に來て初めて、殺人をする事が気持ち悪くも思えた。

今まで殺してきたのは、盜賊や野盜などの殺しても構わない奴らばかりだった。そんな奴ら殺したところで心は何も痛まなかった。

だけど、タクマは違う。彼とは一度心を通わせ、認め合い、友として好敵手としての存在になった。

そんな彼をられていたとはいえ、殺したのだ。気分は最悪だ。胃の中にあるが逆流してきそうな程には。

俺の目の前には完全に絶命したタクマが寢そべっている。苦悶に満ちた表で盡き果てたことが見て取れる。

「今、蘇生してやるからな」

そして俺はタクマに蘇生魔法をかける。

潰れた心臓が再生し、が再生していく。それはまるで死ぬまでを逆再生しているかのようだった。

俺はそれを見ていたが、落ち著けるものでは無かった。

蘇生魔法を使ったとはいえ、実際に蘇生させるのは初めてだ。々な懸念が俺にはあった。

それに他の勇者にも、気を配っていないといけなかった。他の勇者はタクマが死んだ事など一欠片も気に掛けなかった。

それを見た俺は、られていて仲間を思う心がないのだとそう結論付けた。

次第に顔に生気が戻っていくタクマ。

俺はタクマにれて、神の所に転移をした。それと同時に霊化を解く。

「タクマは助けた。神後は任せる」

「それは分かってるけど!あなたは大丈夫なの!?」

「大丈夫な訳ないだろ?」

実際、俺の額からは汗が流れ、全は震えている。

親しい者を殺す事は神的なストレスになる事は知っている。だけど、それをやらなければ本當に助けたい者達を守る事が出來ない。

「じゃあ!誰かに協力を――」

神。さっき言ったはずだ。これは絶対に俺がやる」

「っ……」

「お前の想いだって分かってる。実際にお前の方が正しい事も。でも、これは俺の意地であり、自尊心であり、我儘だ。だから、そこで見守っていてくれ。お前が見ていれば、俺はまだ殺れる」

の震えは止まらない。頭が痛い。が苦しい。カチカチとなる歯が五月蝿い。

に塗れた手に、返りを浴びたこのに、堪らなく嫌悪する。それをやった自分に、決斷した心に、失じる。

だけど、それでも、俺は殺ると決めた。だからその決意だけは誰がなんと言おうと曲げない。

「いってくる」

「ま――」

神の聲は転移した俺の耳にはってこなかった。何かを言っていたはずだが、聞き取れなかった。

「また、後で聞けばいいよな。生きて帰るんだから」

本當はこれが俺の強がりだって分かってる。タクマへの全力の一撃で、殆どの魔力を使い果たしている。それくらいしなければ、心臓を潰すなんて出來ない。

本當は刀で攻撃するつもりだったが、俺が化した方がい。そういう事もあっての攻撃だった。

また同じ事をしろと言われても難しい。出來てブーストくらいだ。

額から流れる汗が、今の俺のの調子を語っている。その事に神も気付いていたんだと思う。

「……じゃあ次はアイカ、お前だ。絶対に助けてやるからそこをかないでくれよ……」

俺は殘っている力を振り絞り、アイカと対峙する。霊化は出來ない。だから、姿を認識された狀態で殺しにいかなければならない。

殺す事なんて夢のまた夢だろう。だけど、我儘を通すことを決めたのだから、命を懸ける。

俺はブーストと支援魔法がかかったをアイカに向けて突っ込ませる。タクマの時よりもが重い。アイカの目は完全に俺を捕捉している。

手刀を首に向けて突き出した。アイカも槍を俺の心臓めがけて刺そうとする。

あとしと思った。あとして首に屆くと。だが、アイカの槍の方が僅かに早く俺を突き刺す事が、予知予測、先読み、未來予知によってみえる。

ダメだったか……。俺はここで死ぬのか。

所詮俺はこれくらいの力しか無かったのだ。最初から無謀だって事は分かってた。だから、最初に全全霊を賭けてタクマを助けた。

そうすれば、あとはタクマが皆を助けてくれるから。本當の勇者になれるから。

俺なんてただの転生者だ。神からチートを貰ってただその力でり上がった、弱い人間だ。

だから……だから後は――

「ゼロ!あの人を転移で逃がして!!」

「うん!」

聞き慣れた聲が聞こえたと思ったら、視界が変わる。

「魔力が足りてないわね。レンかリンどっちかが、復活魔法で魔力を復活させて」

「では、私が」

「任せたわ」

枯渇気味だった魔力が徐々に増えていくことが分かる。そして、はっきりとしなかった意識が覚醒していく。

「皆、やるわよ。あの人は文字通り、全全霊を賭けて戦ったわ。今度は私達の番よ」

「「「了解!」」」

そこには六人のの姿があった。

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