《異世界に転生したので楽しく過ごすようです》第189話 過去その三、のようです
彼の記憶は達だけでなく、その記憶を見ていた者達にも深い悲しみを與えた。
涙を流すもの。俯いて顔を上げないもの。悔しそうにするもの。
それぞれがそれぞれの悲しみを表現していた。
「あぁああぁああああああああ」
思い出したくもない記憶を掘り起こされている彼は、神崩壊の手前であった。
心へのストレスと、自分自への恨みが混在しており、今はもうぶ事しか許されていない。
「あいつの過去は見てられるもんじゃない。あいつ報われねぇよ。あんなの辛すぎる」
「彼には僕達がじる辛さの何倍もの辛い思いをしてるはずなんだ」
「彼が大切な人の命について過剰になる理由が分かった気がするよ。彼の様な験をしていたら私だって、大切な人ほど遠避けてしまうかもしれない」
彼と関わりがあった、タクマ、サトシ、ミクトリアの三人は彼の過酷な験の辛さや悲しみに共していた。
例えそれが彼のやるせない気持ちのほんの一部でしかないとしても。
「"櫻井さくらい まなみ"、ね……。やっぱりあれは私だったみたい。お父さんとお母さん元気そうで良かったわ」
転生前の彼と出會っていたジュリはポツリと誰にも聞こえないようにそう呟いた。
そして、彼の記憶に転機が訪れる。
◇◆◇◆◇
詩織が死んだ。
その事実が俺の心を壊す。
詩織が居ないとダメなんだと自覚したその時に。詩織と一緒に居たいと思ったその時に。
俺の夢を潰すかのように、詩織が目の前から居なくなる。
繋いだ手が離れていく様な、掬った水がこぼれる様な、そんな喪失が心を埋め盡くす。
學校に行く事を止め、部屋に引きこもり、自らの命を捨てようとした事もあった。
詩織を殺した車の運転手を恨んで、殺したくて仕方が無い時もあった。
皆が俺の心配をする。
辛かっただろうと。苦しかっただろうと。寂しくなっただろうと。
だが、そんなの口先だけの軽いものにしかじなかった。
俺がじた、辛さ、苦しさ、寂しさ、喪失、恐怖、絶。そんなものが他人に分かるはずがない。
ある時、詩織の両親が俺を訪ねて來た事があった。
俺を見るなり、お前のせいで詩織は死んだのだと鬼の形相で言われた。
お前が居るから八年前も子高生が死に、今回も詩織が死んだのだと。
娘を殺した殺人鬼、娘を返せと。
俺はそれを聞いてその場から崩れ落ちた。
俺が居たから詩織は死んだ。
死んだ原因は俺にある。
詩織を死なせたのは俺。
俺の存在が詩織を殺した。
そう考えた後から記憶がない。
俺はその場でび聲を上げたのだという。自分を見失っており、け答えも何もまともに出來なくなっていたらしい。
一頻りんだ後は虛空を見つめて、ごめんなさいと繰り返し言うだけの人間になったらしい。
母さんは詩織の両親の頬を叩いたと後から聞いた。殺したのはうちの息子ではなく、危険運転をしたあの車の運転手だと。
あんた達はうちの息子を殺すのかと。
その時の俺は既に心を壊した、ただの人形と化していたようだった。
詩織の両親も分かっていた。悪いのはあの運転手だ。だが、行き場のない怒りが俺を追い詰める結果になっただけなのだ。ここにいる誰も悪いやつはいなかった。
後日、俺は病院で目を覚ました。神科の病院だ。
あまりのショックに気を失い、一部記憶の喪失が見られたらしいが生活に支障はないと診斷された。
失った記憶は、気を失う前の數時間。
詩織が死んだ事を忘れる事が出來たらどれだけいいだろうと思った。
だが、神は忘れる事を許さなかった。
八年前のあの事と加えて、詩織が死んだその時の事が夢として出てくるようになった。
決まって詩織が死ぬ前のあの幸せな時間から始まるのだ。
深い絶に心が壊され、悲しみに頬を濡らす日々が続いた。
そして詩織が死んで十年。
たまにあるフラッシュバックのせいで會社で働く事が出來ず、フリーターとしてアルバイトをする日々。
高校も中退しており學歴なんて中卒だ。
俺の人生は悪夢だと言っても良かった。
自分の生活費すらまともに稼げず、親と一緒に暮らす日々。
フラッシュバックで偶に発狂する時があり、バイトも何回か辭めた。
そして、ある日の朝から晝過ぎのアルバイトを終え、歩いて帰宅をしていた時だった。
あの公園の前を通っていると、ボールが転がってきた。
俺も詩織とこの公園でよく遊んだなと思い出し、が苦しくなった。
だからなのか向かいから、車が來ていることなんて全く気にもとめていなかった。
ボールが転がって來た時に一緒にボールを追いかける男の子がいたのだ。
車との距離や車の速度からその男の子が跳ねられるのは、もはや分かりきった事だった。
瞬間的に、俺の脳に様々な記憶が蘇る。
ちょうど今撥ねられそうになっている男の子と同じ年齢位の時に助けて貰った事。
その人と同じ年齢になっても、詩織に命を救って貰った事。
そして俺は考えた。
今度は俺の番じゃないのかと。二人の人が守ってくれたこの命を今こそ擲つと來たのではないのかと。
俺は自然とをかしていた。
間に合うかはギリギリだった。
車の方は男の子に気付いたが、既に遅かった。今から減速しても殆ど意味がない。
俺は走った。ただ男の子を救う為だけに。
結果、俺は男の子を救う事は出來た。
突き飛ばすには時間が足りなかったから、男の子を庇う様な形で車に撥ねられたのだ。
強い衝撃に全が崩壊するのではないのかと思い、男の子を庇って倒れた為に、コンクリートで頭を強く打った。
「えっ……?」
男の子の惚けたような聲がうっすらと聞こえた。
「無事……か?」
「お、おじさん?」
「おじ……さん……か……。俺も……歳……とった……な……」
「おじさん、がっ!」
「子供が……気に……する……な……。俺は……大丈夫……だから……」
俺は既に男の子がどこにいるのか分からなかった。
瞬間的に助からないなと思った。
寒かった。痛かった。苦しかった。
でもそれ以上に、男の子を救えた事が嬉しかった。
今まで二人の人に救ってもらえた命の意味がようやく分かった気がした。
櫻井さんが俺を庇って、助けてくれたこの命。
詩織が命を張って守ってくれたこの命。
こんな使い方しか出來なかったけれど、二人は許してくれるだろうか。
「しお……り……。ようや……く……ふっき……れた……き……が……」
「おじさん……? どうしたの? おじさんっ!!」
男の子には辛い思いをさせてしまうだろう。それこそ俺がこの子と同じ年齢だった時よりも遙かに辛い思いを。
一言謝ってやりたかったがもう聲も出せない。
気も遠くなった。
詩織に會えたらいいなと想ったその瞬間、俺は死んだ。
そして俺は自分を神と自稱する奴に出會い、異世界を旅する事になったのだ。
◇◆◇◆◇
「おのれおのれおのれええぇぇええ!!!」
彼の記憶を見せられた墮神は、彼に向かって怒りを顕にする。
その彼自、強制的に掘り出された記憶に自分を見失っている。
「ニンゲン風が! いつまでもこの不愉快なものを見せるな!」
そして彼にかけた、記憶の迷宮メモリーラビリンスを解いた。
「「「…………」」」
彼の記憶を見た全てのものは黙るしかなかった。
普段見てた、気な彼の姿からは想像も出來ない過去だった。
最後には晴れやかな気持ちを抱いていたがそれでも彼の過去は教皇が語ったそれと遜がないと、皆がじていた。
尚も自分の見失ったままの彼。
それもそのはずだ。彼の記憶を見た者全てが同じ気持ちを抱く。
今、宙に浮いている墮神の正を知ったから。
彼こそ、彼が大切に想っていた詩織というなのだ。
どういう経緯で神になったのかは知らない。
だが、墮神になる前のあの口癖は確かに彼のものだった。
皆がそれぞれ、彼に想いを募らせる。
「あの子は誰かが護ってあげないといつも危険と隣り合わせのようね」
「主様を護る役目は私達が引き継ぎます」
「あの神に頼まれた」
「マスターにはもう苦しい想いをしてしくないのー!」
「わたしの好きな人はこんなのじゃ終わらないって信じてますっ!」
「そうよ。いつものあのじじゃないと調子が狂っちゃうし、元に戻って貰わないと」
「お父さんの想いを間近で見てきたから……。あの人を助けてあげたい」
達は立ち上がる。
「そこの墮神! よく聞きなさい!」
ジュリが未だに頭を抱えている神に宣言する。
「あんたを元に戻して、意地でも彼の――マモルの笑顔を取り戻してやるわ!」
そう言ったジュリの橫に達が並ぶ。
「あんただけがマモルを獨占する事はこの私達が許さない! 覚悟する事ね!」
達は恐怖も後悔も何も無く、圧倒的な力を持つ墮神と対峙する。
余計事を考えるのをやめた達にあったのは、一點の曇もない、嫉妬だけ。
純粋な嫉妬は時に絶大な力となる。
今の達に恐るものなど何もなかったのだ。
達は彼への想いを力に変え、彼にされたに恨み辛みを言う為に戦いをする。
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