《Lv.1なのにLv.MAXよりステ値が高いのはなんでですか? 〜転移特典のスキルがどれも神引き過ぎた件〜》《番外》バレンタインってなんですか?(あらすじ必読)
「おーい、みんな! 食料のカバンにこれ紛れ込ませてたんだけど、食べるかい?」
馬の坊やがカバンから取り出したもの見せびらかすようにしてみんなにアピールし始めた。なんなのかしら、あれ。
「んあ? なんだ、ただのチョコレートじゃねぇか」
「三谷チン、ただのチョコレートって……これは王様が作ったチョコレートだよ!」
「は、お前何持ってきてんだよ?」
「出発前に部屋に呼ばれて行ったら、『地球にはバレンタインというが男にチョコを渡す行為があるそうですね』っていいながら半ば無理やり押し付けてきたんだ」
嬉しそうに語る馬の坊やをジト目で見つめるゴートの坊や。その近くに座っていたご主人はバレンタインと聞いた一瞬だけ揺したものの、今は何事も無かったかのように剣の手れをしている。
うーん、どうしたんだろう? 一瞬揺したのが気になるなぁ……
「ご主人、なんでさっきバレンタインって聞いてビクッて震えたの?」
できる限り上目遣いで可いふうに裝って、自分の主の挙不審の原因を聞こうとしてみる。
「……ん? 何のことだ?」
額に汗を浮かべて笑顔で返答するご主人。ちょっと怪しすぎるわ……
「お、エイジのやつチョコレートに反応したか」
「バレンタインという言葉に反応していたわよ、ゴートの坊や」
「……ほう、そうかそうか。つまりお前はそういうやつだったんだな」
私の言葉を聞いて、にやけ顔でご主人を見る羊ゴートの坊や。
「やっぱりお前、地球でバレンタインの日に何ももらえなかったクチだろ?」
「何を言ってんの。俺はたくさんの嫁たちからをもらったよ、イベントグッズっていう名前のなっ!」
半ばキレ掛けのご主人をなだめるために、私はゆっくりとご主人の背後に近づいていく。
ご主人との契約の影響で、何故か歩き方がトテトテという効果音がつきそうな拙い歩き方になったが、人間からしたらそれがらしいらしい。本當に不思議な生き。
「……はぁ、チョコレートで人間の価値が決まる悪魔の日……俺は悪魔には屈しない!」
なんか私には屈しないらしいよ? まぁ、そんなことはどうでもいいんだけど、バレンタイン、ねぇ。
◇◇◇
「で、これはどういう狀況ですか? 暴帝様」
私はご主人たちが晝食の準備をしている間に、マキナを呼んで命令をすることにした。
「マキナ、私にチョコレートの作り方を教えなさい」
「チョコレートですか? またどうして突然」
「ちょっとご主人の顔を立ててあげようと思ってね。剣作ってもらったし」
「よく分かりませんが、今の私は暴帝様の奴隷ですから、私の知り得るチョコレートの作り方をお教えしましょう。と言っても、勇者の記憶から盜みとったものしかございませんが。なにせ、私はチョコレートを渡すような殿方に今まで出會いませんでしたからね……」
本當ならマキナに作らせてもよかったのだけど、話をよく聞いているとバレンタインというものは手作りのチョコレートをプレゼントするという行為らしいから、私も自分で作ってみることにした。
手作りと言っても多の限度はあるようで既存のものを型に溶かして流し込むくらいのものらしいけれど。
それを考えると、王様の作ったというチョコレートの手の凝りようはし怖いわ……あれ全部最初から作ってるって言ってたし。
マキナに人間に化けさせて至急買いに行かせたチョコレートを溶かし、マキナの買ってきた木型に當てて冷卻魔法を軽くかけてしばらく放置しておく。
人間と馬の足ではここまでかなりの時間がかかったようだけれど、魔族が本気を出せば15分程度で往復できるのだから、人間が魔族にだいぶ遊ばれていることがわかる。
魔神と鬼神はいつも人間の國への侵攻を直前で辭めさせてきたからなぁ……理由はわからないけれど、人間に対して何かを怖がっていたのか、別の理由があったのか、當時は々考えたものだ。
「暴帝様、チョコレートが固まりました!」
「あ、できた? マキナ、手伝ってくれてありがとね」
「はうっ! ぼ、暴帝様のお役に立てて栄です!」
「ん?」
この子は時々よくわからない反応をするなぁ、急にキレたり照れたり。なんなんだろうね、このテンションの差は。
一人赤面で顔をおおっているマキナを置いておいて、ご主人にチョコレートを渡すために晝食を終えたご主人のところに近づいていく。
「ん、どうしたシルティス」
私の気配を察したのか、いち早く後ろを振り向いて話をかけてくるご主人。
「ご主人、これあげるわ!」
できる限り、剣を作ってもらったことの謝が伝わるように明るく元気の良い雰囲気でチョコを手渡す。
「お? おう、ありがとな」
私が渡したチョコレートをちらっと見て一瞬不思議そうにしたけれど、貰ったこと自は何も嫌じゃなかったのかちゃんとチョコレートをけ取ってくれた。
「おいしくいただくわ」
「うん、味しく食べてね!」
チョコレートを渡して高揚したを抑え、ご主人の言葉に大きく応える。
なんなんだろう、この気分の高揚は。
とにかく、今の自分は嬉しいんだろうな、とそう思いながら、私も晝食の席につく。
ご主人の隣に設けられた小さな席にちょこんと座り、手渡されたスープを一気に飲み干す。
「おい、シルティス。顔赤いぞ? 大丈夫か?」
「え?」
ご主人がずっとばしてきた手が私の額にれる。
その瞬間、何故か今までよりも激しく一気に溫が上がった気がして、次の瞬間、私のは大きく地面に向かって倒れていった。
「おい!? シルティス、どうした!?」
「あちゃー、たらしだったかぁー」
「なんだよ、お前立派に男してるじゃねぇか」
薄れていく意識の中、最後に私のことを心配するご主人とそれを見て楽しげな二人の聲が聞こえたところで私の意識は途切れた。
◇◇◇
「ううう……」
「暴帝様、案外うぶなところあるんですね!」
「ん? なにが?」
「いえ、何でもないです」
目が覚めるとマキナが目の前にいて、私が急に倒れたことやご主人が急ぎ足で私のことを馬車の中に運びれたことを聞いた。
何故かただそれだけで嬉しいと思っている自分がいることにし驚いた。
今までは人間との戦爭や権力爭いに明け暮れていたけど、案外こういう風な、人間で言う日常ってものも悪くはないわね、と思った1日だった。
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