《発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。》33話
「……………」
「イツキさん?どうかしましたか?」
「……?……ん?」
……脳の処理が追い付かない。
……なんで、シャルが?
だって……さっきシャルは風呂にったはずだろ?え?なんでまた風呂に?
「……何してんの?」
「せっかくですから、背中でも流そうかと思いまして!」
……ああ、そうだった。
シャルってこういうやつだったわ。
「タオル……タオル取ってくれ」
「え?別にそのままでも良いんじゃないですか?」
「バカ言うな」
怪しい笑みを浮かべるシャルの橫を通り過ぎ、タオルを巻く。
……もうこのまま、風呂から出てしまおうか―――
「させませんよ?」
「うひっ?!おま、離れろ!」
シャルが背後から飛び付き、おんぶのような勢になる。
いやいや待て待て待て!この勢はマズイ!
とがれ合う……あれ?・と・が……?
「なあシャル?」
「はい、なんですか?」
「俺の覚がおかしいのかな?背中になんか地の覚があるんだけど?」
「そうですよ?」
そうですよ……って事は。
「……タオルは?」
「外しました!」
「……おい待て!それは冗談シャレにならねえ!」
顔が……いや、全が一気に熱くなる。
だって、タオル取ってるってことはって事で。って事は、今俺の背中に當たってるらかいのって―――ダメだ考えるな。考えたら理が飛んでしまう。
「マジで離れろ!これ以上は本當に―――」
「本當に……なんですか?」
「本當に……本當に、々ヤバイから!」
「何がヤバイんですか?的な名稱と、どういう風にヤバイのかを教えてください!」
「お前本當に自重しねえな!年頃のの子がそういう事言うなよ!」
力を込めて振りほどこうとするが……シャルの力に負けてしまう。
……おかしい。力が、上手くらない。
「……シャル、お前何かしたか?」
「えへへ。わかりましたか?」
耳元で囁くシャルの聲に、ゾワリと寒気をじる。
「先ほどイツキさんが座られた風呂椅子……あれにちょっとした仕掛けがありまして」
「仕掛け……?」
「なんでも、『襲われるより襲いたい』人用に作られた『魔道』だそうです」
……力を奪い、上手く力がらない狀態にして襲う……ということだろうか。
相変わらず祿ろくながねえな異世界!
「……力、抜いてて良いですよ?後は私がするので」
「ふざけんなバカ!いい加減に離れろ!」
……やっぱり、力がらない。
だからと言って、大人しく襲われるつもりはないけど。
「―――『フィスト』」
「え、あ、え……?」
しだけ腕力を上げ、シャルの腕を振り払う。
「ま、魔法を使うのはズルいです!」
「『魔道』使ったお前には言われたくない」
風呂に戻り、中から鍵を掛ける。
……本當に、シャルはムチャクチャだ。
―――――――――――――――――――――――――
「明かり消すぞ?」
「はい!」
部屋の明かりを消し、ベッドに寢転がる。
―――どっと、疲れが押し寄せる。
ああ……やっぱり、思ってる以上に疲れてるみたいだ。
「おい……寢込みを襲うなよ?」
「はい!寢る前に襲います!」
「ふざけんな」
隣のベッドから聞こえるシャルの言葉に、本気での危険をじる。
さすがに襲わない……よな?
「んじゃ……おやすみ」
「おやすみなさい、イツキさん」
シャルの返事を聞くと同時、目を閉じる。
……あ、もう寢れそうだ―――
―――――――――――――――――――――――――
「―――ル……?な、あ……シャル……?」
深い、深い森の中。俺はを抱き抱えていた。
「見てわからんのか子こわっぱ……そいつはもう死んでいる。返事をする事は絶対に無い」
腕の中のは、ぐったりとしたままかない。
に空いた大きな……これが致命傷になったのだろう。
「なん、で……シャルが死んでる……?」
「簡単な話だ子……お前が腰の剣を抜かなかった、躊躇ためらった、だから隙すきが……そいつが死ぬ隙ができた」
背後から冷たく言い放つ男……全て的を得ている。
俺の腰に下げてある剣―――いや、剣ではない。厳には刀だ。
俺が、この刀を抜くのを躊躇った……その隙に男が接近して、男の攻撃を俺が避けた―――と思ったら、男は俺の背後にいたの心臓に拳を捩ねじ込んだ。
「……お」
「あ?」
「俺が……悪かったのか……?中途半端な覚悟で刀を手に取った俺が……過去も乗り越えてない、テルの気持ちも理解していないのに、『冥刀みょうとう』を抜こうとした俺が……」
ブツブツと呟く俺……それを見た男が、無表のまま近づいて來る。
―――このままじゃ、殺される。
バッと顔を上げ、刀を抜こうと―――
「はあっ……!はあっ……!」
―――突然、悸が始まる。
刀を抜こうとする手が震える……それだけじゃない。視界もボヤけて、フラフラする。
なんで、俺は、こんなに、弱い?刀を、抜くことも、できない?なんで、なんで、どうして?
「なんっで……!俺は、なんで……!」
「ふん……何故こんな子に、他の『ゾディアック』の奴等が殺られたのか……『フィスト』」
無造作に放たれる拳が、俺の腹部を貫通する。
「がふっ……」
「……退屈しのぎにもならなかったな」
吐き捨てるように言い殘し、男は立ち去って行った―――
―――――――――――――――――――――――――
「―――はあっ!はあっ……はあ、ああ……?夢、か……?」
跳ね起き、腹部を確認する。
もちろん、風などない……でも、確認したくなるほどにリアルな夢だったのだ。
「シャル……」
隣のベッドで眠るの姿を見て、安心からか、長い息を吐いた。
……あれは、夢だ。
そう……現実には関係ない。ただの夢だ。
……それでも―――
「……ごめんシャル。寢込みを襲うなって言ったのは俺なのに……」
―――隣のベッドに潛り込み、シャルを抱き寄せる。
「……暖かい……呼吸もしてる……に風も空いてない」
夢だとわかってるのに、何故だろうか。確認しないと安心できない。
……ただの夢に、ここまで怯えてしまうなんて。
「……死、か」
自分の死が、近な人の死が、こんなにも怖いとは。
……俺は、この世界に來てモンスターや『ゾディアック』を殺した。
……パイシーズとか、リーブラとか……どういう気持ちで死んだのだろうか。
―――――――――――――――――――――――――
『森王子』とシルフが気になることを言っていた。
『オイラと同じ、『霊使いスピリッター』だって?!』
『待てエスカノール!相手が悪い!あいつが本當に『神の霊 エレメンタル』と契約してるとしたら勝てねえ!』と。
『霊使いスピリッター』とは、霊と話すことができる、特殊な力の事。
能力ではなく、力……言うなれば才能だ。
だから『霊使いスピリッター』だとしても、私の『魔眼』に反応しない。だって能力ではなく才能なのだから。
「……イツキ、さん?」
何故か私の隣で眠る青年……本當に彼が、『霊使いスピリッター』だとして、本當に『神』と契約してるとしたら―――
「……でも、イツキさんはイツキさんですもんね」
―――『原初の六霊』の一角、『神の霊 エレメンタル』。
『原初の六霊』の中でも異質な強さを持っていたとされる霊。
彼が『神の霊 エレメンタル』と契約してるとしても、契約していないとしても……多分、彼の格は変わらない。
自分中心で、周りの事なんて知らん顔。でも、見知った人の事は見逃せない……優しくて、チョロくて、文句を言いながら助けてくれる。そんな彼が―――
「大好きですよ……イツキさん」
―――眠る青年の頬に、軽く口付けする。
本當はにしたいけれど……へのキスは、彼からしてもらいたい。
彼から好きだと言われて、苦しいくらいに抱き締めてもらって、とろけてしまうほどを囁かれて……そうして、キスをしてもらいたい。
「……ランゼさんも、イツキさんの事が好きですもんね」
それは別に構わない。彼が2人と結婚しようと、10人と結婚しようと、私の事をしてくれれば。
王族にもなれば、一夫多妻なんてザラじゃないのだから。
でも……一番は私でありたい。
をける一番は、彼に頼られる一番は、何かあった時に相談に乗れる一番は、全て私でありたい。
「……私の事、どう思われてるのですか?……教えてください、イツキさん」
眠る青年に問い掛ける……もちろん、返事はない。
彼が私の事をどう思っているのか知りたい。
私は彼の事が大好きだ……たまに自分が抑えられなくなるけど。
「……絶対に、イツキさんの口から『シャルが好きだ』って言わせてみせます」
もう一度頬に口付けし、私は決意を新たにした。
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