《発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。》35話

「イ、ツ、キー!」

「ふぐっ?!ぐ、ぉお……!」

「ランゼから聞いたよー!『騎士國』に行くんだよね?それじゃ、早く行こー!」

「うっ、ぐ……ストレア、跳ねんな。俺のの上で跳ねんな……」

朝か……朝は頭が回らねえってのに……の上で跳ねられたら、思考が停止してしまう。

「はぁ……あ?なんでウィズが隣に……?」

「う、ぅうん……」

ぼんやりとした頭で、昨日の出來事を思い出す。

……そうだ……ウィズが部屋に來て……眠れないとか言ってて……一緒に寢たんだった。

……いや待て。この狀況はヤバくないか?

だってこんなの、シャルに見られたら―――

「イツキさん!おはようございま―――」

「あっ」

―――最悪の狀況、最悪のタイミング……笑顔で固まるシャルが、ゆっくりと眼帯を外す。

「……イツキさんは寢転がった狀態……その上にはストレアさんが乗っていて……隣には甘えるようにを寄せるウィズさん……イツキさぁん、し待っててくださいねぇ?今、臺所から包丁を持ってくるのでぇ」

「待て待て待て待て待ってくれ!」

「ストレアさぁん……そのまま押さえておいてくださいねぇ?」

「え?あ、うん。わかった」

いやわかったじゃねえよ?!

「ストレアどけ!これはマジでヤバイ!死ぬ死ぬ死ぬ!殺される!」

「え、えと……シャルは本気でイツキを殺すつもりなのかな?」

「あいつの眼、見なかったのか?!本気だったろ?!ああもう、いいからどけ!」

ストレアを押し退け、部屋を飛び出そうと―――

「っ……おいウィズ!手を放せ!」

「……ん、ふぅ……」

「ああああああああもうっ!」

―――眠るウィズを抱え、屋敷を飛び出した。

―――――――――――――――――――――――――

「はあっ……!ヤバイ死ぬ……!」

の子を抱え、町中を疾走する。

『クイック』を使えば良いのに、必死すぎてそこまで頭が回らない……と言うか、寢起きすぎて頭がまったく回らねえ。

「はっ、ウィズ、起き、ろっ……!」

「う、ん……ぅん?……ここ、どこだ?」

「起きたかウィズ……!起きて早々悪いが、歩けるか?」

「うむ、歩けるが……どうしたのだ?そんなに慌てて?」

「シャルが、シャルが……!」

「……いないようだが?」

ウィズの言葉に、背後を振り向く。

追って來ていない……そりゃそうか、包丁取りに行ってすぐ逃げ出して來たんだし。

「……ビビりすぎだろ俺」

「……何かあったのか?」

「んや……何て言うか……」

「ああ……大わかった。言わなくて良い」

額に手を當て、ウィズが困ったような仕草を見せる。

「參ったなあ……『騎士國』に行くつもりだったのに……」

「そうだったのか?」

「あー……まあいいや。死んだ『英雄』はどこにも行かねえだろうし」

……とりあえず、夕方くらいまでは屋敷に帰れないだろうな。

だって……シャルがまだ怒ってそうだし。

「……今日はもう予定はないのか?」

「んー……行くつもりだった『騎士國』にゃ、今日は行けないだろうし」

「そうか……そう、なのか……」

何か考えるように呟き、意を決したように俺を見る。

「イツキ。今日はもう予定がないなら……『ベニアルマ』の孤児院に行かないか?」

「……いやなんで?」

「なんだか無に孤児院のみんなに會いたくなってな……」

……昨日こいつが見たって言ってた怖い夢って……もしかして……?

「……おし。んじゃ行くか」

「い、いいのか?いつものイツキなら『めんどくせえからお前1人で行け。俺は知らん』とか言うのに……」

「お前は俺を何だと思ってんの?」

……まあ確かに、いつもの俺ならそう言ってただろうな。

でも……夢ってのは本當に怖い。俺が思わずシャルのに風が空いていないか確認したくなるほどに。

多分、ウィズが見た夢ってのは、孤児院に何かしらの出來事が起こるって夢だろう。

「……昨日今日と、迷を掛けてしまいすまない」

「いいって事よ。それに、お前らから迷を掛けられるなんて今さらだしな」

申し訳なさそうに俺を見るウィズに、できるだけの笑みで応えた。

―――――――――――――――――――――――――

「案外、近いんだな」

「……速いな」

「まあ馬車とか使うより、俺の『クイック』の方が速いだろうしな」

ゆっくりウィズを下ろし、『ベニアルマ』の門を通る。

……大きさは『アンバーラ』と同じくらいだろうか……だが、建の量は『ベニアルマ』の方が多い。

「……ウィズ、孤児院ってどこにあるんだ?」

「む、こっちだ」

ちょこちょこと町を先導するウィズ……その後を追いかける。

……心なしか、ウィズが嬉しそうだ。

久しぶりに帰って來たから、嬉しいのかな―――

「ここだ」

「いや近いな」

―――『ベニアルマ』にって2分。あっという間にウィズが暮らしていた孤児院に著いた。

「……おいどうしたんだ?開けないのか?」

「ち、ちょっと待て!心の準備というのがあってだな……!」

……なんかランゼと『シュリーカ』に言った時と同じ事言ってるような……気のせいか?

「ふぅ……よし、開けるぞ……!」

「はよ開けろ」

こちらを睨むウィズが、震える手で扉をノックした。

……あれ?

「……いないのか?」

「おかしいな……いつもなら勉學をしている時間なのだが……?」

首を傾げるウィズが、再び扉をノックする……が、反応がない。

「院長、みんな!ウィズだ!開けてくれ!」

「……お前、そんなに嫌われてたのか」

「ち、違うわ!」

必死に呼び掛けるウィズから視線を逸らし、何気なく上を見上げ―――2階の窓が開いている事に気づく。

いや……それだけでない。開いた窓に赤い何かが付著して―――

「みんなー!開けてくれー!」

「下がれウィズ―――『フィスト』」

―――腕力を上げ、強制的に扉を開ける。

ぶっ壊してしまったが……まあいいだろう。

「……うっ?!」

「……何の臭いだ、これ……?!」

の中に、異様な臭いが充満している。

どこかで嗅いだような臭い……『魚座』のパイシーズと戦った時や、モンスターを討伐した時にじる臭い……これはまさか―――

「い、院長?!」

「噓だろ……」

―――の、臭いだ。

部屋の奧に、長の高い男溜まりの中で寢転がっていた。

「院長、院長!」

涙を流すウィズの橫を通り過ぎ、2階への階段を上がる。

「……誰かがここから逃げたって事か……?」

開いた窓……付著した……誰かがここから飛び降りたみたいだ。

この建の中には、あの男以外はいなさそう……ということは……

「孤児院の子どもたちは……?」

ウィズの言葉が正しいのなら、ここには孤児院のお世話になっている子どもがいるはず……だが、誰もいない。

「……ウィズ、そいつは……」

1階に戻り……溜まりの中に膝を突くウィズに近づく。

ウィズの腕の中で眠る男……もう、死んでしまっているようだ。

「……なんで」

「ウィズ……」

「なんで……院長が……みんなは、どこに……?」

虛ろな眼のウィズ……ショックが大き過ぎるみたいだ。

それもそうだろう……誰だって見知った人が死んだら、ショックをける。

「……イツキ」

「ん?」

「院長は死んでしまっている……でも、孤児院のみんながいない」

どこからかタオルを持ってきて、そのタオルを男の顔に乗せるウィズが、ゆっくりとこちらを振り向く。

「……みんなを探そう」

「おう」

怒りと哀しみに染まるウィズと共に、孤児院のみんなの捜索を開始した。

―――――――――――――――――――――――――

「……?」

「イツキ!何をしているのだ?!」

「ちょっと待ってくれ……なんだ、あれ」

住宅街の中……1つ、変な建がある。

は普通なのだが……干し竿に、子ども用の服がたくさん掛けてある。

「あれ、は……『ジン』の服だ!」

「ジンって……孤児院の人か?」

「うむ!それに、『マカ』の服もある!」

「つー事は……あそこか」

し大きな建……警戒しながら、扉の前に立つ。

「『フィスト』!」

腕を振りかぶり、眼前の扉を砕。

壊れた扉の先―――真っ暗闇から、再び異臭が漂ってくる。

「……『フレアライト』」

「お……これ何魔法だ?」

「『炎魔法』だ……あんまり得意ではないがな」

ああ、そういやウィズの『獄炎魔法』って『炎魔法』と『闇魔法』を合わせた魔法って言ってたな。

だから『炎魔法』も使えるのか。

「さて……どうしたもんか―――?!」

『ゴッ!』と、何かが風を切る音。

ウィズを巻き込みながら、大きく後ろへ飛び退く。

「づッ……!」

「あれぇ?おっかしいなぁ、確実にヤったとと思ったんだけど」

完璧に避けたつもりだったが、避けきれてなかった……切れた頬からが流れ出す。

「痛いってえな……!いきなり何しやがる……!」

「えへへ……味しそうな獲が、わざわざやって來たんだよ?そりゃ仕留めたくなるでしょ?」

「……何言ってんだかサッパリだっての」

ウィズの燈すが、狂者の姿を照らし出す。

……両手に……なんだあれは?ククリ刀か?

変な方向に曲がった刃を持つ、俺より歳上くらいの男だ。

「……なんで」

「うん?」

「なんで、孤児院の人を……!」

「孤児院って……?」

「貴様……シラを切るつもりか……!」

怒りに震える聲が、狂者に問い掛ける。

「孤児院、孤児院……ああ。あの獲がたくさんいた所か」

「答えろ!」

「別に理由なんて無いよ?そうだね……寄りのない子どもばかりだから、殺しても誰も気づかないかなーって思ったのが唯一の理由かな?」

……こいつ、狂ってやがる。

「そんな……そんな、理由で……!」

「ウィズ」

「……イツキよ……我は怠惰だな」

予想外の事を口にするウィズが、狂者との距離を1歩詰める。

「我われがもっと早く行していれば、この施設の存在に気づいていれば、孤児院のみんなが死ぬことは……!イツキよ、我は我われが憎い……!行が遅くて、異変にも気づけない怠惰な我われが……!だが、それはそれだ……孤児院のみんなを殺したお前を、許さない!」

力強く怒りをぶウィズ、その手の甲がを放ち始める―――

「イツキ!力を貸してくれ!こいつは……こいつは、生かしておけない!」

―――『七つの大罪』、『怠惰』が誕生した瞬間だった。

    人が読んでいる<発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください