《発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。》51話
「……あ……ああ……ここは……?」
頭を振りながら、を起こす―――
「―――ッ?!」
それと同時、鋭い痛みが頭を走る。
酷い痛み……まるで、脳に針を刺されているみたいだ。
「が、あ……!痛いてぇ……!」
「あ……イツキ!目が覚めたのね!」
「ランゼ……か。ここは?」
「『水鱗國』の王宮よ。イツキ、『雙子座』を討伐した後、倒れたんだから」
ズキズキと痛む頭を押さえ、ベッドから降りる。
「づッ……!それで……他のやつらは?」
「マーリンとアクセルは怪我で治療中。それと……一応、ウィズも別室で休んでるわ」
「ウィズ……?ウィズに何かあったのか?」
「ええ。聞くところによると……『牡牛座』と戦った、って言ってたわ」
『牡牛座』と……戦った?!
「ウィズの所に案してくれ」
「でも……今は、自分の心配をした方が……」
「俺は大丈夫だから。ウィズの所へ―――」
「その必要はない」
不意に聞こえた第三者の聲。
見れば……り口に、いの子が立っていた。
「ウィズ……よかった」
「ふん……我われが『牡牛座』ごときに遅れを取るとでも思っていたか?」
自信満々、大膽不敵……怪我1つ無い所を見ると、勝ったみたいだな。
「えっと……『山羊座』はどうなったんだ?」
「サリスたちが討伐したって聞いたわ」
「……あれ……シャルとかは?」
「シャルは『人王』の所と一緒にいると思う。サリスとストレア、あと『水鱗王』は謁見の間にいると思うわ」
そうか……全員、無事なんだな……
「すー……はー……」
「どうかしたの?」
「んや……ちょっと調がな」
目を閉じ、深く深呼吸を繰り返す。
……ふう……し頭痛が引いてきた。
「……みんなの所に行くか」
「ええ!」
「うむ……そうするか」
―――――――――――――――――――――――――
「イツキ!」
「イッチャン!」
駆け寄ってくるストレアとサリス……2人とも、怪我はないようだ。
「ご主人様ぁああああああ♪」
「うおっぶ?!」
背後からタックルしてくる変態……違う、『水鱗王』だ。
「ワタクシ、怖かったですわ……ご主人様が守ってくれると思ってましたのに!」
「ふざけろ……変態のお守もりはウィズで充分だ」
「おい。それはどういう意味だ?」
「信頼できるウィズで充分だ、って言いたかったんだよ」
「そっ……そうか、それなら……ふふっ」
チョロいな。
「えっと……グローリアスさんたちは?」
「『獣王』はアルちゃんの所。シャルちゃんは……『人王』と外にいるはずだよ。でも……今は行かない方が良いかも」
「は?何でだよ?」
「シャルちゃん……思うところがあるらしいから」
思うところがあるって……悩みでもあるのか?
「……親子で話したい事があるんだろ」
「そうなのかな?」
「まあ知らんけど……ってか、『山羊座』を討伐したって聞いたけど」
「ううん。うちじゃなくて『人王』が討伐したよ……スゴく強くてビックリしちゃった」
……いや、そんなに強かったの?
それなら初めて會った時、なんでドラゴンに殺されそうになってたの?めっちゃ疑問なんだけど?
「……おい。お前いい加減離れろ」
背中に抱き付く『水鱗王』の頭を摑み、押し退ける。
「……ワタクシの事を飼ってくれるという約束は……?」
「してねえよ」
「い、良いではありませんか!絶対、迷は掛けないので!」
涙目で訴えてくる『水鱗王』……いや、ドMマーメイドはちょっとなぁ……
「お願いしますご主人様!ワタクシ、一杯ご奉仕させていただきますわ!上の世話から下の世話まで!むのなら、を捧げることもやぶさかでは―――」
「おうちょっと黙ってろ」
「……それでしたら、もう一度勝負しませんか?」
「勝負……?」
勝負って……遊戯ゲームのことか?
「ワタクシが勝てば、ご主人様に飼ってもらう。ご主人様が勝てば……二度と、ご主人様とはお呼びせず、ご主人様の事を諦めますわ」
「……んで、遊戯ゲームの容は?」
「そうですわね……カードゲームはどうでしょう?」
カードゲーム……トランプの事か?
「……ルールは?」
「簡単な容ですわ♪まずカードをめくります。そして、次にめくるカードが、最初にめくったカードの數字より高いか低いかを當てる……それを、どちらかが失敗するまで繰り返すんですの♪」
「あー……ハイ・アンド・ローか」
「よろしいですの?」
「ああ……すぐに終わらせてやるよ」
差し出すトランプの束をけ取り、シャッフルする。
よくシャッフルし……山札の上から、1枚カードをめくった。
「7か……なかなかいいじの數字だな」
「丁度、真ん中の數字ですわね……♪」
楽しそうに笑う『水鱗王』……もう一度山札からカードを取り、裏を向けたまま機に置いた。
「……さあ、どっちだ―――」
「高い、ですわ♪」
即答かよ。
だが、數字が高い確率は2分の1……さあ、どうだ―――
「10……ワタクシの勝ち、ですわね♪」
「……勝負強いな、お前」
「うふふ……さあ、次はあなたが當てる番ですわよ♪」
山札を手に取り、シャッフルを始める。
「さて……それでは、めくりますわね♪」
『水鱗王』の綺麗な手が、カードをめくった。
「3……か」
「どちらにされます?」
「高い、だな」
迷う必要はない。これは確率の問題だ。
3より低い數字は、1と2しかない。
となると……次の數字は、3より大きい數字である可能が高い。
「それでは……♪」
ニッコリと笑みを浮かべる『水鱗王』が、山札のカードをめくった―――!
―――――――――――――――――――――――――
「おうマーリン」
「あら……お見舞いなんて優しいわね」
「お見舞いじゃねえよ。お前の無様ぶざまな姿を見に來ただけだ」
「あんたって人は……!」
ベッドに寢た狀態のマーリン……まあ、元気そうだ。
「……怪我は?」
「『獣王』のおかげで傷1つ無いわ!……それより、さっき部屋の外から男の人のび聲が聞こえたけど……何かあったの?」
「あー……ちょっと『水鱗王』に負けて絶しちまった」
「何それ?!」
まさか……あのカードが1だったとは……
「あ……ねえ……い、イツキ?」
「おっ……お前が俺の名前呼ぶとか、初めてじゃね?」
「うるさいわね!別に良いでしょ!」
白い頬を赤く染め、恥ずかしさを誤魔化すように大聲を出す。
「あの……あり、がと……」
「は?」
「だから、その……『雙子座』を倒してくれて……剣を取り返してくれて……ありがと……」
耳まで真っ赤にして、頭を下げてくる。
「ほら……自分は、人より強いから……今まで、何かあったら自分の力で解決するしかなかったの」
枕元に置いてある剣……それを見つめながら続ける。
「あの剣はね……お父さんから貰ったの」
「……そうだったのか」
「5年くらい前に死んじゃったけどね」
力無く笑い、マーリンが剣を手に取る。
「……こうやって剣を……ロンゴミアントを握ってるとね、お父さんと手を繋いでるような気がするの」
「……………」
「なんてね!もう、誰かに守ってもらうなんて久しぶりだったから……ちょっと……なんか……あっ!」
ふと顔を上げ、俺の顔を見つめてくる。
「……わかった」
「は?」
「イツキの事、なんでムカつくのかなーって思ってたの……なんでムカつくかわかったわ!」
嬉々とした表のマーリン……無言でその頭を摑み、力を込める。
「いだだだだだだっ?!ちょちょちょっと!痛い痛い痛い!」
「……誰がムカつくって?」
「痛いわかったゴメン!謝るから!」
本気で痛そうなので、仕方なく頭から手を離してやる。
「で?なんで俺がムカつくんだ?」
「……お父さんにそっくりなの」
「顔が?」
「ううん。格が」
おっと格と言われましたか。
となると……マーリンのお父さんって、相當格が悪かったのかな?
「自分、お父さんと喧嘩ばっかりしてたから……自分のお父さん、家だったら絶対上半だったの」
「……おい」
「それに、お母さんがいるのに他のの子を連れ回したり、平気で下ネタを連呼したり……ねえ待って。なんで頭を摑もうとするの?!」
こいつは初めて會った時の事を、まだ言うか。
それに、の子を連れ回したり、下ネタを連呼したりとか……の子はともかく、下ネタ連呼は今回の遊戯ゲームだけだっての。
「……けそうか?」
「もちろん!ちょっとが足りないだけよ!」
「そうか……んじゃ、今日の夜にはここを出るから、準備しとけよ」
「上から言われるのはムカつくわね」
「おう頭握り潰してやろうか?」
「怪我人には優しくしなさいよ!」
―――――――――――――――――――――――――
「お父様……」
「む……シャルか?」
王宮の外に立つお父様……その手には、一通の手紙が握られていた。
「……それは?」
「気にするな……シャルには関係の無い事だ」
グシャリと手紙を握り潰し、ポケットにしまう。
……噓だ。
私に知られたくないから……手紙を握り潰したのだろう。
「それで、どうしたのだ?イツキ君の看病をするのではなかったのか?」
「そのつもりでしたが……ランゼさんに任せてきました」
「ほう……他人に看病を譲ってまで、私の所に來るとはな。何かあったか?」
手紙が気になるが……それは後だ。
不思議そうに私を見つめるお父様に、思いを伝えた。
「私……私、もっと強くなりたいです!」
「……何故だ?」
「もう嫌なんです……守られるだけの存在なんて、もう嫌なんです!」
今回の件も、『森王子』の件も……迷だけ掛けて、私は何もできなかった。
「私のせいで……私が弱いせいで……イツキさんが怪我をして、イツキさんが傷ついて……嫌なんです!」
「ふむ……そうか……」
「私は、イツキさんの後ろで守られるのではなく、イツキさんの隣で共に戦いたいんです!」
私の言葉にお父様は目を閉じ……首を縦に振ったのだった。
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