《発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。》54話
「イツキ、シャルは―――」
「うるせぇ……どけ」
屋敷に帰ると同時、ストレアが心配そうに寄ってくるが―――押し退のける。
「あ、ご主人様―――」
「うるせぇ……どけ」
飛び付いてくるフォルテを―――押し退ける。
「ちょっとイツキ―――」
「うるせぇ……!うるせえうるせえうるせえうるせえうるせえッ!」
怒ったように寄ってくるランゼを押し退け、自室に向かって走る。
「くそ……ッ!くそくそくそくそくそッ!」
自室の扉を蹴破り、壁を毆る。
拳に響く痛み……しだけ、頭のが引く。
「ふうー……!ふうー……!」
頭のは、し引いた。
それでも、怒りはまったく収まらない。
再び壁を毆る……怒りは収まらない。
壁を毆る。怒りは収まらない。
壁を毆る。怒りは収まらない。
壁を―――
「うるっさいわね!さっきから何やってんの!」
隣の部屋で暮らすマーリンが、だらしない服裝のまま俺の部屋にってきた。
「あんたさっきから―――うん……?の、臭い……?」
眉を寄せ、俺の背中に顔を寄せ―――
「あんた……何したの?服、の臭いしかしないわよ?」
「……うるせぇ……お前には関係ねぇ」
「はあ?!何その言い方!」
俺の頭を摑み、強引に顔を橫に向けさせられる。
「……酷い顔、してるわよ」
「……うるせぇ……どけ」
「何かあったの?の臭いといい、顔といい……なんか、いつものイツキじゃ―――」
「うるせぇ……って、言ってんだろうがッ!」
手を払い、突き飛ばす。
「痛……!いきなり、何すんのよ!」
マーリンの平手が、俺の橫っ面を弾いた。
「づッ―――!うるせぇんだよッ!どいつもこいつもッ!」
怒りをび、拳を振るい―――
「甘いわ!」
「なっ―――ぐはっ……?!」
『フィスト』で力を上げているわけでも、『クイック』で撹かくらんしているわけでもない……さらには怒りで冷靜さもない一撃。
そんな雑な一撃が、『騎士國』で訓練をけていたマーリンに通用するわけもなく―――簡単に避けられ、投げられる。
「―――ッ!放せてめぇええええッ!」
「放すわけ、ないでしょうが……っ!」
関節を極められ、痛みと怒りでびを上げる。
「放せおらぁああああああああッ!」
「だったら……落ち著きなさい!」
「落ち著いてんだろうがッ!放せってんだよッ!」
「どこが落ち著いてるのよ?!」
慌てたマーリンの聲が、何故かさらに怒りを煽あおる。
「何かあったんでしょ?!言いなさいよ!でないとわからないでしょ?!」
「……シャルが!『森國』に行った!でも俺には何もできなかったッ!」
「だからって八つ當たり?!」
「悪いんだってわかってる!でもどうすればいいかわからねえ!」
関節を極められたまま、思いをぶちまける。
「俺は!うぬぼれてた!シャルが!俺の事を!ずっと好きだって!好きでいてくれるって!勝手に思ってた!」
「好きでしょうが!あの子があなたを嫌いになるわけないでしょうが!」
「なってんだよ嫌いに!昨日の夜言われたんだよ!『森王子』と結婚するってなぁ!」
昨日の出來事を思い出し―――怒りが再燃。
「俺が何をした?!何か嫌いになられるような事をしたか?!幻滅されるような事をしたか?!」
「……………」
「俺はもう!何を!……何を信じていいか、わからねぇ……!」
俺は……異世界に來て、初めて涙を流した。
「結局、同じだ……異世界ここでも地球向こうでも……俺が信じた人は、裏切るんだ……!」
「……………」
「同じなんだよ……繰り返すんだよ……俺は、この程度の―――」
「ねえ……イツキ」
関節極めを止め、マーリンが俺の前に座る。
何を言われるのか、と―――
「―――アホォオオオオオォオオッ!」
「うぶっ?!」
思いきり頬を毆られ、吹っ飛ぶ。
「あんたは本當にバカよね!ウィズとサリスから何も聞いてないの?!」
「ウィズ、と……サリス……から……?」
「あの手紙、どう見ても不自然だったでしょ?!」
……不自然?
「イツキ!帰っていたのか!」
「イッチャン!ウィズちゃんがスゴい発見をしてくれた―――なにこの狀況」
部屋にってきたサリスが、室の狀況を見て後ずさる。
「考えるのは後だ。サリス、手紙を貸してくれ」
「う、うん!」
「見ろイツキ……昨日の手紙だ」
『たくさんの方々へ
しの間、皆様の前から姿を消したこと、謝罪します。
決して、皆様が嫌になったわけではありません。
逃げたわけでも、ありません。
今日、私は『森王子』と結婚することが決まりました。
ては、さようなら』
「これがなんだよ。普通の手紙じゃねぇか」
「よく見ろ。『では、さようなら』が『ては、さようなら』となっているだろう?」
「んな事ぐらい、俺でも気づいてんだよ」
「ふむ……では、謎を1つずつ解いていこうか」
手紙を機に置き、ウィズが腕を組む。
「まず……主語がバラバラだ。最初は『たくさんの方々』と書いているのに、次には『皆様』、その次にも『皆様』と書かれている」
「……だからなんだよ」
「この『たくさんの方々』という言葉に意識を向けるためだ……では、次に行くぞ」
ウィズの白い指が、上から四行目を指さす。
「『逃げたわけでも、ありません』……意味はわかるか?」
「……いや、わからねぇ」
「うむ。この文には、意味など無いからな」
……はっ?
「いや……意味がわからんのだが?」
「この文は、文字を合わせるだけに書かれた文だからな」
「文字を……合わせるため?」
「うむ……次で最後だ」
指をらせ、一番下の文を指さす。
「『ては、さようなら』……この『ては』をどう思う?」
「さあ?『では』と書き間違ったんじゃねぇの?」
「そう思うのが普通だ……だが、実際は違う。この『ては』も、文字を合わせるために書かれているのだ」
「さっきから文字を合わせるためって……一どういう事なんだ?」
「……これは、シャルの心のびだ」
上から順に指さし、ウィズが目を閉じる。
「『た』『すこ』『決けっ』『逃に』『今きょ』『て』……頭文字を読んでみろ」
「た……す、けに……き……て……」
「イツキ……シャルの所に行ったのだろう?いつ結婚するとか、言っていなかったか?」
「……1週間後って言ってた」
「ふむ……『1週間の間で準備を整え、助けに來てくれ』という事か」
……噓……だろ。
シャルは……俺の事を、嫌いになったわけじゃなかったのか?
「なあイツキ」
俺の手を握るウィズが、慈に満ちた視線を向けてくる。
「これを『偶然』の一言で片付けるのは簡単だ……だが、偶然で終わらせるつもりは……無いよな?」
「シャルは、あなたを待ってるのよ……あなたを信じて、待ってるの」
「シャルちゃんはイッチャンが大好きだからね……お姫様のお迎えは、イッチャンの仕事だよ」
3人の視線をけ、俺は―――
「……めんどくせぇなぁ、あいつは……」
一言、言ってくれれば良かった。
『本當は好きです』と。『いつか助けに來てください』と。
シャルがそう言わなかったのは……俺たちの安全のためだ。
「だからって……自分が犠牲になれば済む話、とか思ってんならお仕置きが必要だな」
3人を殘し、部屋を出る。
そのまま廊下を進み―――俺が來るのを待っていたように、マーメイドがいた。
「フォルテ。ちょっと貸してほしい道があるんだけど」
「はい♪これですわよね?」
「正解……」
ポケットにそ・れ・をれ、王宮に向かった。
―――――――――――――――――――――――――
「グローリアスさん」
「イツキ君……!シャルは―――」
「殘念、ながら……」
俺の言葉に、グローリアスさんが絶に満ちた表を見せる。
「……グローリアスさん」
「なんだ……?」
「シャルを助けるためなら、『森國』と対立してもいいですか?」
一瞬の沈黙……おそらく、俺が何を言っているのか理解できなかったのだろう。
だが、一瞬だ……その一瞬で、グローリアスさんも理解したはずだ。
『シャルを連れて帰れば『森國』と対立する事になる』と。
「そんな事は気にしない……シャルが帰ってくれば、それでいい」
「それなら……俺に任せてください」
「もちろんだ……私の娘を、連れ帰って來てくれ」
頷き、王宮を出る。
―――シャルの結婚式まで、殘り6日。
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