《発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。》61話
「シャル!」
「はぁっ、はぁ……ストレア、さん……」
肩で息をするシャルが、フラフラとストレアに近づく。
「早く馬車に乗って!すぐに出発するから!」
「待ってストレアちゃん……シャルちゃん、イッチャンは?」
「……逃げろって、言われました」
「に、逃げろって……どういう事?」
「……『ゾディアック』が現れて……イツキさんが、1人で……」
シャルの言葉を聞いたサリスが、森に向かおうと―――
「ダメだよサリス!」
「放してストレアちゃん!イッチャンが1人で戦ってるんだよ?!」
「サリスさん……無駄です。助けに行っても、足手まといにしかなりません」
「だからって……!イッチャンを見捨てるの?!」
珍しく聲を荒げるサリスが、ストレアとシャルを睨む。
「……イツキさんは、必ず家に帰ってくるって約束してくれました」
「そんなの……!」
「だから、イツキさんを信じます」
「……サリス、とりあえずシャルを馬車に乗せよ?」
「………………もういい!うち1人でイッチャンを探す!『ソウルイーター』っ!」
「ちょっと、サリス―――」
飛び上がるサリスが、森の中へ消える。
「―――シャル!無事だったのね!」
「ランゼさん……ごめんなさい。イツキさんを置いてきてしまいました……」
「別に良いのよ!シャルが無事だったなら!それに、イツキなら大丈夫よ!ね?」
シャルの手を取り、ランゼが馬車の中に引き返す。
「シャルよ、イツキは何か言ってたか?」
「ウィズさん……先に帰れって、必ず帰るって約束してくれました」
「そう……それなら『アンバーラ』に引き返しましょう」
ランゼに全員の視線が集まる。
「ちょ、ちょちょ本気?!イツキを置いてくの?!」
「イツキが帰れって言ったなら、それに従うわ……それに、イツキの事よ。何か考えがあるに決まってるわ」
「うむぅ……それかも知れんが……」
腕を組むウィズが、難しい表を浮かべる。
「私たちにできるのは、イツキが帰ってきた時に『お帰り』って言ってあげる事よ」
「でも……それなら自分がここに殘って、イツキの加勢に―――」
「ううん……サリスが行ったから、その必要はないよ」
何とも言えない悲しそうな表のストレアが、馬車にってくる。
「サリス……そう。サリスなら大丈夫ね、あの子も強いから」
「で、でも……」
「……マーリンって、変な所で心配よね」
「心配って……あなたは心配じゃないの―――」
ふと、マーリンが一點を見つめる。
見つめる先にあるのはランゼの手……その手は、震えていた。
「……『アンバーラ』に向かう。いいわね?」
「……えぇ、文句ないわ」
「それじゃ、行くわよ」
―――――――――――――――――――――――――
「ぎゃあああっ?!あ、足、足が……!」
「くそっ……!やりやがったぞあの『人族』!」
目の前に、赤い水溜まりができる。
足を斬られたエルフから流れたのだろう。
「ふー……!ふー……!」
クソ……!視界がボヤけてる……距離が摑みにくい……!
それに、しずつ視界が紅く染まってきた……
覚的にわかる……限界を迎えているのだ。俺のが。
「くっ……!囲め囲め!相手は1人だぞ!」
「『クイック』―――!」
「な―――うわあああああああっ?!」
斬れ。
「く、來るな―――ぐはっ……」
斬れ。
「『ファイアウォール』!」
「『アースバレッド』!」
「『ダークネス』!」
斬れ。
「な、後ろ―――うっ?!」
「エスカノール様!危険です!下がって―――」
―――斬れッ!
「……ずいぶん、暴れるね」
「……どこだ……クソエルフぅ!どこにいやがるッ!」
ボヤける視界のせいで、『森王子』がどこにいるかわからない……というか、判別がつかない。
全部同じやつに見える……クソ……うぜぇ……!
「ここだよ―――『襲い掛かる怒りの突風シルフ・インパクト』」
聞こえた。あいつの『霊魔法』の聲が。
「―――こっちかぁあああああッ!『フィスト』ぉおおおおおおおおッ!」
聲が聞こえた方に、思いきり刀を振り下ろす。
空振った一撃は斬撃となり、放たれた風撃とぶつかり合い―――相殺。
「そこかぁあああああッ!『クイック』ッ!」
右足に力を込め、前に飛ぶ。
近くのエルフを斬りつける―――違う。こいつじゃない。
「危ない危ない……君、目が見えてないの?」
……ヤバイ……もう、力がらなくなってきた。
俺……死ぬのか?
……死ねない……まだ死ねない……!
シャルに會って、満足するまで笑い合うまでは、死ねない!
「……エレメンタルッ!使うぞ!」
『貴様……どうなっても知らんぞ!』
そろそろ、シャルは逃げただろう。
なら……使ってもいいよな?
斬ってもいいよな?
振ってもいいよな?
―――殺しても、いいよな?
「……『限界を超えし破壊の力エレメント・フィスト』」
『ヤバイ……!エスカノール、避けろッ!』
もう遅い。
お前らまとめて、ここで死ね―――ッ!
「うっ―――ああ……?」
『トスッ』と、左腕に軽い衝撃。
痛みは無いが……何故か、刀を落としてしまう。
ボヤける視界の中……棒のようなが、左腕の上腕に刺さっているのが見えた。
これは……矢か?
「エスカノール様!あいつは間もなく毒でけなくなります!その隙に捕らえましょう!」
「……だってさ。ああ安心してよ。即効だけど、死ぬような毒じゃないからさ。半日はけなくなるだろうけど」
……毒、か。
なるほど……もう左腕には毒が回り始めてるから、刀も握れないんだろう。
「―――食らえッ!」
『ズドンッ!』と、右足に重い衝撃が走り―――膝を突いてしまう。
……何を食らった……?クソ、見えない……!
「ふぅー……!ふぅー……!」
「怖いねその眼……まだまだやれるって眼だ」
『森王子』が、俺を見下ろしている。
……ダメなのか……?
俺は、ここまでなのか?
―――嫌だ。
「ぉ、ぉおぉおおおおぉおおおおおおおお……!」
「なっ……お前、毒が回っているのに……?!」
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だッ!
「お前ら……絶対……!」
震える足……ボヤける視界……使えなくなった腕……調も最悪。
でも……立つしか、ない。
「ぁあああァああああアアああああッ!」
「し、『襲い掛かる怒りの突風シルフ・インパクト』!」
吼える俺に向かって、暴風が迫る。
ああ……死んだな―――
「えっ―――今のは……」
「……イッチャン」
綺麗な緑が、視界にる。
……イッチャン……って事は、まさか―――
「サリ、ス……?」
「なんで……なんで1人で戦おうとするの?うちは、イッチャンの役に立てないの?」
フワフワする……おそらく、サリスが飛んでいるからだろう。
「君は……さっき結婚式に乗り込んできた……」
「うるさい」
背中に固い。
……地面に寢かせられたのか……?
「……許せない」
「許すも何も、君たちがここに來なければ済んだ話でしょ?」
「そんなのどうでもいい……イッチャンを傷つけたのは、許せない」
サリスの聲は……怒りに震えていた。
「……うちの家族は、この世界にはいない……だから、イッチャンが家族のようなもの……この世界に來たとき、行く先の無いうちを屋敷にってくれた……イッチャンには恩がある。そして、うちの家族を傷つけられたのは……本當に、許せない―――『デスサイズ』」
鎌を握るサリス……その手が、眩しく輝き始める。
「……お前ら魂、まとめて狩ってやるッ!」
―――『七つの大罪』、『憤怒』の誕生した瞬間だった。
―――――――――――――――――――――――――
「……う、く……」
「あ、イッチャン!目が覚めた?」
暗い……寒い。
あ、上半がだから寒いのか。
ここは……どこだ?窟か?
「……お前……なんで來たんだよ……」
「心配になったからに決まってるじゃん!」
「……シャルから何も聞かなかったのか?」
「聞いたよ。聞いたけど……どうしても、心配になったから……」
を起こそうとして―――激痛が走った。
「あ、ぐっ……!」
「無理しないで!イッチャンの、スゴい事になってるから!」
ボヤける視界が……しずつ回復してきた。
……あれ……サリス、上半が下著姿じゃん。
「……ここは?」
「『森國』の近くにある窟だよ。ほんとはイッチャンを持ち上げて、連れて帰ろうと思ってたんだけど……うちも、ちょっと怪我しちゃってね。ここに隠れて怪我を癒してるの」
……右腕には木の板が當てられ、布でグルグル巻きにされていた。
骨折した時の治療法だ……サリスがしたのか?
しかもこの布……サリスの服じゃん。
「お前……わざわざ服を使わなくても……寒いだろ?」
「……それ以外、方法が思いつかなくて……右足も骨折してたから、一応治療してるけど」
「……ありがとな」
「ほんと……右腕は肩から手首まで砕。右足は膝が折れてる。左足は火傷でボロボロ……大変だったね」
俺の左腕をでるサリスの手―――その手の甲に、紋様があった。
「……お前、それ……」
「これ?なんか出たの。『憤怒』って書いてあるよ」
『七つの大罪』―――まさか、サリスが?
「……ま、今さら驚かないけど……お前、寒いだろ?」
「大丈夫!寒さには強いから!」
エッヘンと小さなを張り、サリスが得意気な表を見せる。
「……これからどうするかな」
「外にはエルフの警備がウロウロしてるからね……出るなら、回復した後だね」
サリスの左足……巻いている服が、に汚れていた。
「んー……眠たくなってきたね」
「……そうか?」
「うん……ちょっと橫になろうかな」
俺に近づき、隣に寢転がる。
「……ね、イッチャン」
「ん?」
「やっぱり寒いから……ちょっと寄ってもいい?」
「……ん」
ピッタリとをくっつけるサリスが、俺の左手を握ってくる。
「暖かい……生きてる……」
「當たり前だろ……お前が助けてくれたんだから」
「えへへ……」
甘えるように、俺の左腕を抱き締めてくる。
……うん、あれだ。
ちょっとらかいが、腕に當たってる。
「……サリス……近くないか?」
「そう?」
……なんか俺も、眠たくなってきた。
人があるから、安心してきたのだろうか……
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