司は寢ることなく街道を歩き続けていた。ゴブリンロードに襲われた森よりも、もっともっと遠くへ。アインにかけられた恩を無駄にしないために。

あたりが明るくなり始める。朝が來たようだ。どこまで來たのだろうか。街道は一本道ではなく所々で別れている。一晩中街道を歩き続けた司は、今どこにいるのかさえ分からなくなっていた。これなら地図を貰うんだったな。司は心の中で後悔する。

太も高く昇り、時間はちょうど十二時になっていた。そろそろ休憩しよう。街道の端の木に腰掛けリュックから食べを取り出す。昨日まで全く食が無かったのがウソのように、司は食べを口に運んだ。

半分ぐらい食べたところで、近くの草から音がした。今まで街道を歩いてきてすれ違ったのはほんの數人程度。魔が出るということが人の行き來を減させてるようだ。ということは魔の確率が高い。もしくは國からの追手か。

司は急いで立ち上がり、持ってきた剣を構える。

「誰だ！」

司の問いかけに返事はないが、だんだん音が近づいてくる。剣を握る手に汗が滲み出る。今か今かと集中狀態の司の前にそれは現れた。

チョコンッ

六十センチほどで一つ目の魔だった。とてとてと歩く様子からみて、おそらく子供なのだろう。ゆっくりと近づいてくるが、司の置いた食べをずっと見つめているだけだ。どうやら、戦闘が目的ではないらしい。食べをしがっているようだ。司はその様子をみて、書庫で読んだあの本のことを思い出す。

（魔にも知がある。人間のように言葉も話す。昔は魔と人間が理解し合い共存していた）

司は勇気を振り絞り、魔との対話を試みる。子供という點も勇気を後押しするのに十分な要因となっていた。

「食べたいのか？」

木に腰掛け、さっきまで食べていたを手に取り魔に見せてみる。

「食べたい！」

魔は元気よく返事をし、両手を広げて食べたいアピールをしてくる。ただ外見が違うだけで、まるで人間の子供と同じだ。やっぱりあの本に書いてあったことは正しかった。魔とも流ができる。

「じゃあ、あげるよ」

「わーい！　ありがと」

魔は勢いよくあげたを食べていく。豪快な食べっぷりに司も驚いた。よほどお腹がすいていたらしく、すぐに食べ終えてしまった。

「おいしかった！　ありがと」

魔はお禮を言ってさらに司に近づいてくる。距離が距離だけに司も剣を握りしめる。だが、そんなことはお構いなしのようだ。魔は司の隣によりかかるように腰掛ける。

「人間が怖くないのか？」

司は疑問に思ったことを質問してみる。

「人間は怖いよ。でもお兄ちゃんは優しいから大丈夫！」

食べの力は偉大らしい。どうやら懐かれたようだ。

「俺が襲ったらどうするつもりだったんだ？」

「泣いておとうちゃんを呼ぶつもりだったよ！」

「名前とかってあるのか？　俺は司って言うんだが」

「テウスって言うんだよ。司お兄ちゃん」

司とテウスは仲良く談笑を始める。そういえばお父さんって近くにいるのかな？　司が思った瞬間それは現れた。

「テウス何してるんだ！」

聲の方を向くと、二メートルはある巨漢に特徴的な一つ目の魔がいた。サイクロプス！　司は書庫で見た資料を思い出す。ステータスは平均でＣ－程度、強い個はＢ－にもなる強力な魔だ。

司は一瞬で立ち上がり、剣を構える。ステータスが上がった今ならどうにかなるかも。そう思った司の希は、一瞬で打ち砕かれた。目の前に現れたサイクロプスに反応すらできない。振るわれた拳が司に當たる瞬間、テウスが間に割ってった。

「おとうちゃんこの人いい人だから！　食べくれたんだよ！」

「そうなのか！　それは失禮した。すまない」

テウスのお父さんらしきサイクロプスはすぐに謝罪をしてくる。子供の言葉を疑ったりしてない。重度の親バカかな。司が思っていると

「本當に申し訳ない。息子に食べをいただいたようで。私はルギスと申します。近くに村があるのでいらしてください。できるかぎりおもてなしさせていただきます」

急にかしこまった態度になった様子から、禮には禮をといった気高い種族なのだろう。本にもそう書てあった。だがそう簡単に信用はできない。子供ならまだしも、大人の魔は何を考えているかわからない。司が警戒していろいろと思考を巡らせる。

「心配しないで！　みんな優しいから！」

テウスの一言で、司はついていくことを決心する。ルギスのことを親バカと思ったが、自分も大概だな。司は心の中で笑うのだった。