《召喚された賢者は異世界を往く ~最強なのは不要在庫のアイテムでした〜》第13話 賢者の調合
一ヶ月も経つと四人での暮らしは慣れてきた。
この屋敷に住むことになった翌日には、シャルとアルにも冒険者登録をしてもらった。街の出りを含めその方が便利だったからだ。
二人は普通に見てもである。街を歩いていれば目を惹き、冒険者ギルドに連れて行って登録する時には大変な騒ぎとなり、あちこちのパーティーから勧があった。
終わらない勧合戦に呆れたミリアのお勧めで三人でパーティーを組む事になった。
その時のギルドにいた連中の殺気は全て俺に向かった。
……思い出しただけでも震いする。
そして屋敷の中で年長者であるはずのナタリーが、一番世話をやかれている狀態であった。
賑やかなこの生活もいいかもしれない。
日本にいた時は職場と家の往復で、帰ってからはネットゲームの日々だった。
俺は紅茶を飲みながら、三人の會話を楽しむ。
「トーヤ! わしが一番魅力的であろう!? こんなケツの青い二人よりもっ!」
思わず口に含んだ紅茶を吹き出す。
勝ち誇った顔をするナタリーに思わず苦笑し、肯定とも否定とも言わない。
「トーヤさん! 私のほうが魅力的ですよねっ。こんなツルペタロリっ子より!」
「誰がツルペタじゃっ!! わしの魔法でその角を焼いてやるぞっ!!」
「まぁまぁ二人とも……トーヤ様も困ってますし……」
「「うるさい、このヒョロっ子がっ!!」」
「なんですってー!」
この一か月で、シャルは相変わらず『トーヤ様』と呼ぶが、アルは『トーヤさん』に変わっていた。
暗かった表もしずつ明るくなっていき、俺は安心する。
そんな時、ギルドからの呼び出しがあった。
◇◇◇
「トーヤ、わざわざ済まんな。実はあの鎧の件だ……」
対面に座る、エブランドが口を開く。
「で、どうなったんだ……?」
俺の言葉にエブランドは苦蟲を噛み潰した様な表をする。そしてーー。
「領主宛に、ジェネレート王國より使者が來たらしい。帝國より逃げた皇族がこの國にいたらすぐに引き渡すようにとのことだ。お前……もしかしてあの二人は……」
「皇族ではない……はずだ。ナタリーからも貴族の令嬢と聞いているしな。もし、皇族だった場合はどうするんだ?」
「それは……ギルマスと領主で話し合っているはずだ。ルネット帝國とは同盟を組んでいたから良かったが、もし、ジェネレート王國がこの國に攻める可能もあってだな……最悪は……」
その言葉の先はなかった。
「――引き渡すつもりはない」
俺は斷言した。
それは俺の本心である。なからずこの一週間で二人には惹かれている自分がある。
引き渡せば、前と変わらず安寧な生活が待っているかもしれないが、後悔が必ず殘るだろう。
「そうか……、わしのほうで上手くやっておく。ただ、お主のほうも注意しておけ。ここの領主もギルマスも保に走る可能はある」
「わかった。それについては注意しておく」
「わしとしても、お主にはこの街に殘って貰わないとな。今やこの街のギルドで稼ぎ頭だろう。逃す訳にもいかないからな」
笑いながら話すエブランドに、俺も笑みを浮かべる。
ギルドを後にし、街を歩きながら考える。
……念のために食材は次元収納ストレージに仕舞っておくか。この先何があるかわからないしな。
屋敷の方に向かっていたが、市場へと歩みを進め、食材を購していく。
買いを終えて屋敷に著く頃には、すでに日は傾いていた。
「ただいまぁ」
屋敷に戻るとフェリスがすぐに迎えてくれる。
「おかえりトーヤ」
フェリスはもう普通に會話が出來るようになっていた。ナタリーも「こんな事は知らん」と言いながらも、普通に會話を楽しんでいた。
ダイニングにると、三人がいつものようにテーブルを囲んでいる。
「ただいま、みんな」
「おかえりなさい、トーヤ様」
「トーヤさんおかえりー!」
「お腹が減ったのじゃ!」
最後の一人の言葉は聞き流し、「ハイハイ、今作る」と言いキッチンにる。
食材を取り出していき、料理を作っていく。
オークのをミンチにし、卵や香辛料を混ぜ練りこんでいく。最後にパンを細かくちぎり形を作っていく。
片面を焼き、ひっくり返してからは、酒と水をれ蓋をして蒸していく。
その間に、野菜をいくつか取り出してサラダを作る。
「よし、出來たぞ」
テーブルの上に並んだハンバーグとサラダ、それといつも作り置きしているスープにパンだ。
「はんばーぐなのじゃ!! わしはこれが一番好きなのじゃ!!」
ナタリーのハンバーグには、旗が立っている。以前、冗談で付けたのが気にったらしく、毎回つけるように催促されるのだ。
お前が一番子供なんじゃないか……?
食事が済み、皆で紅茶を飲んでいる時に俺はギルドであった事を話す事にした。
「みんな話があるんだが、いいか。今日ギルドで言われた事なんだが――」
「それなら、酒を飲みながらでどうじゃ? いい酒を手にれたのじゃ」
ナタリーは自分の次元収納ストレージから瓶を一つ取り出す。
アルは頷き、グラスをキッチンにとりに行った。
グラスを並べ、四つのグラスに酒を注いで各自に配る。
……あんまり酒なんて飲まなかったのにな。珍しい……。
そう思いながらもグラスをけ取る。
「まぁ、先に乾杯をするかのぉ。乾杯」
「「「乾杯」」」
皆でグラスを掲げ、口へと運ぶ。
アルコールは高いものの、甘みが口の中へ広がっていく。
良く飲んでいたエールとはまったく違う。
つい、飲みすぎるのでは? というくらいの味さだった。
「これ、味いな……」
「そうじゃろう。これはわしが特別な調合をした酒だからのぉ。味くて當たり前じゃ」
ナタリーは満面の笑みを浮かべそう言った。
……今、なんと言った?
……“わしが調合した?”
「ナタリー、何を作ったん――――」
その言葉を最後に俺の記憶はなくなった。
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