《召喚された賢者は異世界を往く ~最強なのは不要在庫のアイテムでした〜》第2話 凱旋
剣を首に當てたまま男に起きるように促す。
男は震えながらもゆっくりと起き上がった。
「わ、わしを誰だと思っているのだっ! ジェネレート王國の侯爵、バネット・フォン・ガルジーナであるぞっ!」
強がるバネットに思わず俺は笑みを浮かべる。
……いい人質が出來たもんだ。
正直それしか思わない。シャル達に貴族の階級などは教わって、侯爵という立場はある程度上位の貴族だというのはわかっている。
「――なら、そのお偉いさんのお前が『兵を引け』と言ったら引かせられるな。出來ないなら――周りの奴らと仲良く転がるだけだが」
俺の言葉にバネットは顔を引きつらせる。
「わ、わかったっ。すぐに兵を引かせる!! だから、命だけはっ!?」
ロープを取り出してアルに渡すと、バネットを後ろで手を組ませ縛りあげる。
「トーヤさん、これで大丈夫です!」
頷いた後、街を攻める兵士たちに視線を送ると、後方の部隊が俺たちの襲撃に気づいたのか、一〇〇人程度がこちらに向かってくる。
そこに向かって、牽制のために魔法を放った。
「そこで止まれっ! お前たちの親玉はこの通りだっ! 何かあれば、すぐに首が飛ぶぞっ」
剣を首に當てたままぶ。
兵士たちは途中で剣を向けたままであったが、止まって様子見のようだった。
「ええぃっ! お前たち! 兵士を引かせるのだっ! わしの命が掛かっているのだっ!」
バネットの言葉に一人の兵士が、笛みたいなを取り出し、吹き始めた。
撤退の合図なのであろうか、砦に向かう兵士たちも行進をやめ、振り返った。
俺たちは馬車に乗り込み、者をアルに任せ、俺はバネットを者臺で剣を首筋に當てたまま乗り込む。
念のため、シャルとナタリーは馬車の中にってもらった。
そしてゆっくりと兵士たちに向けて進ませる。
さすがに指揮が人質に取られていては、兵士たちもきが出來なかった。
「おい、兵士たちに引かせるように言え」
剣を首筋にし強めに當てると、コクコクと頷き兵士を引かせるようにぶ。
「お前たち、一度引くのだっ! 侯爵であるわしの命が掛かっておるのだっ!!」
「こいつの言う通りだ、しでも変な真似をしたらーー」
首を掻っ切るポーズをすると、バネットは顔を青ざめさせる。
馬車をゆっくりと進めていくと、兵士たちは距離を取るように人波が割れていく。
その中を俺たちは砦に向けてゆっくりと進んだ。
そして先頭の兵士たちを追い抜かしたところで、バネットに更に指示をだす。
「とりあえず兵士たちにはお帰りになってもらおうか。このまま攻める訳にもいかないだろう? 誰か使者になる者はいないのか?」
「そ、側近は……全部お前たちが倒してしまっただろう」
「たしかにそうだったな。でもこの兵士たちの指揮がいるだろう? そいつを呼べ」
「むぐぐ……わかった……。おいっ!大隊長を呼べっ!!」
バネットの聲に兵士たちは慌ただしくき始め、そして一人の兵士が前に出てきた。他の兵士たちと比べ、つきも大きく鎧も豪華であった。
「――閣下、お呼びと……。大隊長のガルダです」
し離れた場所で膝をついたガルダに、バネットは恐々としながらも指示を出していく。
「兵士たちを引かせるのだっ! 駐屯地まで戻って殿下の指示を仰いでくれ」
「意」
ガルダの掛け聲で兵士たちは引いていく。ゾロゾロと引いていく兵士たちを眺めていると、砦の方から大きな歓聲が上がった。
兵士たちが見えなくなると、バネットはため息をつく。
「これでいいだろう。解放してくれるんだろうな。もちろん……」
「する訳ないだろ……普通に考えろよ」
「何だとっ!? 話が違うではないか!!」
「いや、誰も解放するなんて最初から言ってないぞ? お前を解放したらまた攻められるって普通に考えても分かるだろう? 當分の間は人質だな」
俺の言葉にガックリと肩を落とすバネットを置いておいて、アルに門へと向かうように伝える。
門へと向かうと、上から兵士たちが弓を構えた狀態で、一人の男がぶ。
「お前たちは何者だっ!?」
視線をアルに送ると、立ち上がり門の上の兵士に言葉を返す。
「私よっ! ガレット・フォン・ミルダの子、アルトリア・フォン・ミルダよっ! ここにはシャルロット皇殿下もいるわっ!!」
アルの言葉に一際割れんばかりの歓聲が響き渡った。
聲を掛けてきた兵士は目を大きく開き、そして人質のバネットまで驚きの表をしている。
「皇殿下だとっ!? すぐに門を開ける。暫し待たれよ」
待っていること數分で、閉じられていた門がゆっくりと開かれていく。
そして門が開き終わるとコクヨウに合図を出しゆっくりと馬車を進ませた。
門を潛ると、戦いの準備をした兵士たちが一堂に構えている。
そんな中、馬車の扉が開き、金糸で彩られた真っ白なローブを著たシャルが降り立つ。
シャルの姿を見た兵士たちは、一斉に武を手放し片膝をつき頭を下げたのだった。
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