《召喚された賢者は異世界を往く ~最強なのは不要在庫のアイテムでした〜》第5話 決意
學校の校庭ほどの広さの訓練場で、俺は模擬剣を持ち、周りには十名を超える兵士達に囲まれていた。
「うちの孫を貰いけるなら、どれだけの実力があるか見せてもらわないとな」
その中の一人、アルの祖父であるガウロスは長ほどの模擬剣を肩に乗せニヤリと笑う。
ガウロスはアルの父、ガレットが近衛騎士団長の前の団長であり、代々ミルダ家から輩出されているルネット帝國きっての武闘派の一家であるとアルからもこの道中に聞いていた。
……さて、どうするかな。倒すのは多分簡単だろう。正直言えばアル一人でも全員に勝てるとさえ思える。
実際に俺たちが指揮を捕らえたところもわかっているはずなのにな……。
手を抜いて負けるという手もあるが、三人にはすぐに見破られるだろうし気を抜く訳にもいかない。
俺は剣を軽く振り、を確かめると兵士達に向かって構える。
「準備は良さそうだな。では、始め!」
俺を囲むように兵士達は剣を向けながら広がっていく。
そしてその中の五人が剣を振りかぶり俺に向かって駆けてきた。
……守るより攻めるか。
俺は魔力を纏い全を強化すると一気に駆け出す。そして模擬剣で斬りかかり、一気に二人の模擬剣を叩き折り蹴り飛ばしていく。そのままさらに驚いている兵士の懐へ飛び込み、腹を毆りつける。
本気を出したら臓が破裂するかもしれないから、あくまで加減はしている。
それでも俺のきに周りを囲んでいる兵士たちは驚愕の表をする。
「それまでだっ」
まだ四人しか倒していないが、後ろにいたガウロスから聲がかかった。
俺は模擬剣を下ろし、ふぅーと一息吐く。
「これだけの実力差があれば、最後までやっても結果は変わらん。大事な時に兵士に怪我でもさせられたら困るからな」
一応回復魔法は使えるから、死んでさえいなければ問題ないんだけどな……。
兵士たちも張が解けたのか、各々に座り込んだ。
「ここからはワシとだ」
ガウロスが一人だけ俺の前へと出てきた。
それは年老いているとはいえ、他の兵士とは一線を置いた強さをじさせた。
擔いでいるのは大剣。
いくら模擬剣として刃は潰してあるだろうが、直撃すれば骨折くらいはする。
俺は表を引き締め、剣を構え直す。
「では、參る!」
勢い良く飛び込んでくるが、やはり他の兵士より強いとはいえ、アルにもスピードは劣る。
難なく剣でけ止め、払い退け、そして一気に後ろに回り込み、首筋に剣を當てる。
「これで終わりですね……」
俺の言葉にガウロスはを震わし、そしていきなり笑い始めた。
「アッハッハ。ここまでかっ! これほどまでにトウヤ殿は強いのかっ! それはうちの孫も惚れるわけだ」
あっという間に勝負はついた。
すっきりとした格で助かった。こんな時期にムキになられて怪我をされても困るからな。
「よし、話の続きをしよう」
そう言ってガウロスは機嫌が良さそうに屋敷へと戻っていく。
兵士たちは訓練を再開するようで、俺たちはガウロスの後を追った。
◇◇◇
「それにしてもここまで強いとはな……。その人數で帝國の指揮を捕らえただけのことはある。それに三人が惹かれるのもな……まさか賢者殿までとは思わなかったがのぉ」
目の前でガハハと笑顔を浮かべるガルロスに思わず苦笑する。
模擬戦が終わり、先ほどまでいた応接室へと戻ってきた。
「それよりもおじいさま、……帝都の方はどうなってるのでしょう……?」
アルの言葉に先程まで気だったガウロスの表が暗くなる。
「王都は完全に墮ちておる。早く逃げられた者は、こことエルフ自治區に逃げ込んでいるが、殘った者で人族はそのまま住民として住み、獣人やエルフたち亜人は奴隷に落とされておると報がっておる。陛下たちは地下の牢に捕らえられているはずだ。しかし報が今は全くってきてない」
やはりジェネレート王國は人族至上主義だ。ルネット帝國で捕らえられた奴隷は帝都を平定した後、ジェネレート王國へ奴隷として運ばれるだろう。早く帝都を取り戻さないとな……。
「それで……これからどうするつもりで……?」
俺の言葉にガウロスは顔を顰め拳を握りしめる。
「……まだ何も決まっておらんのだ。ここの守備だけでもいっぱいだからの。お主たちが敵を退かせたおで助かったが……」
正直、帝都の報が知りたいが、ここに駐屯しているのは獣人や、帝都から避難してきた者ばかりだ。
帝都に忍び込める者はない。
……仕方ないか――。
「俺が……。俺が帝都に忍び込みます」
「な、なんと!?」
「トーヤさんっ!?」
俺の言葉に全員が驚きの表をする。
「ここの守りは、三人が加われば勇者がこない限り問題はないだろう。それに……俺はサランディール王國の冒険者だしな? 人族だし問題なくり込めるだろう」
指揮も捕らえている。勇者はジェネレート王國へと帰還したと言っていたし、三人のレベルはすでにそこらの兵士には負けないはず。それに三人を同行させてもシャルは顔が割れているし、アルとナタリーは獣人とエルフだ。一緒にいたら確実に捕らえられる。
しかし俺ならば問題はない。
「しかしだな……お主がいくら強いとはいえ、一人では……」
「俺なら大丈夫です。勇者さえいなければ……」
勇者がどれだけ強いのかはわからないが、そう簡単に負けないはず……。
俺とガウロスの視線が差し、そのまま無言が続く。
「……わかった。賢者殿やアルが認めているのだ。わしも認めよう。トーヤ殿、頼んだ」
そう言ってガウロスは俺に頭を下げる。
「これを持っていってくれ。何かの時に役立つはずだ」
ガウロスは懐から寶石で裝飾された短剣をテーブルに置いた。
柄には紋章が彩られ、高級品だということが見て取れる。
「これは……?」
短剣に視線を落とす俺にガウロスが説明を始めた。
「これは、王家からワシが息子に騎士団長を譲った時に承ったものだ。この紋章を見れば帝國の者ならば誰でもわかるはず。トーヤ殿の助けになるはずだ」
「そんな大事な……け取るわけには……」
「いいのだ。トーヤ殿に頼らなければいけないのもまた事実だ。け取ってくれ」
ガウロスは真っ直ぐ俺のことを見ながら頷く。
「わかりました。確かにお借りします」
短剣をけ取り、俺はこの帝國の為に手助けすることを決意した。
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