《ヘタレ魔法學生の俺に、四人もが寄ってくるなんてあり得ない!》青天の海辺・晝ノ刻
「泊まりましょう!皆さん!」
そんなことを言い出したのは天條先輩だった。
「泊まり……ですか?」
反芻したのは姉さんだ。
「でも俺達著替え持ってきてませんよ?」
「そこはご心配無く。うちの別荘に客人用の服が置いてありますから」
別荘だと……!?金持ちって良いなあ……。
「……そういう事なら。とりあえずあの二人に聞いてみます」
「華、俺達今夜は天條先輩の別荘に泊まることになったんだけど、良いかな?」
「うん。雨宮君が良いなら……」
良し。華の許可はとれた。あとはケイトだな。
アイツの事だ。海で遊泳でもしてるんだろ。
案の定泳いでた。しかも割りと上手い。
「ケイト、ちょっと良いか?」
「ん?何?」
「今夜天條先輩の別荘に泊まるんだけど、良いか?」
「ん?良いよ!何か面白そうだし!」
面白そうだから泊まるのか……。まあそれは置いといてだな。
「今……何時だ?」
海パンのポケットからスマホ(防水とは言え塩水に耐えられるか不安だが)を取り出し、電源をいれる。
「十二時五分……ちょうど晝飯の時間か。ケイト、あがるぞ」
「午前は海って無かったな……。まあ、午後れば良いか」
午前は寛いでばっかりだったし。
「皆さん、何かお晝ご飯を買ってきますが、何が良いですか?」
買い出しを申し出たのは天條先輩だった。
「俺は焼きそばで」
「私もー」
「あ、私はたこ焼きお願いします」
「私は……焼き鳥……」
中々良いチョイスだな。(俺含め)ド定番のものを頼んだ。
「分かりました。しばしお待ちくださいな」
「……う。……暁!」
「うわ!?」
びっくりした……。何だどうした?
「先輩が帰って來ないんだけど……ちょっと見てきてくれる?」
まさか道に迷うような先輩じゃあるまい。
「……オッケー。チンピラいたらどーしよ……」
チンピラっていうか……この気にあてられたノリノリの兄ちゃんなら良いんだけどね。
……皆さん、私、雨宮暁は大変不幸な事態に陥っています。
「ガチのチンピラ二人とかさ、學生にどうしろと?」
先輩絡まれてるし。なんか斷ってるけどそのうち無理矢理連れてかれるよな。これ。
「怖いけど……まあ、魔法使えば何とかなるよな。多分…」
俺は小聲で魔法を発する。
「見えざる鎖を解き放て。『超越せし』オーバー・ドライブ」
こいつは中國のナンとか気功ってヤツを參考にした魔法らしい。何か全の筋力が発的に強化されるんだとか。
「だからさあ、晝飯代持つから俺らと遊んでくれよお姉さん!」
「ですから……私は今急いでいるのです。あなた達に構っている暇などありません!」
「いやいやそう言わずに……」
バシッ!と先輩が男の頬を張った。まるでどこぞの真っ白になったボクサーが出てくる漫畫みたいだ。相手の顔が。
「……ッ!こいつ……」
「言っておきますが、私、しつこい男は嫌いですの。それと、すぐに私の友人が現れますわ。えらくずさんな強化魔法がかかっていますが」
うわあバレてる。まさか魔力波を知したのか?まあ、強化魔法なんて初めて使ったし、ずさんなのは認めるけど。
「……お兄さん達、ちょっとその人から離れてくれませんかね?」
俺はなるべく相手を刺激しないように仲裁にる。
「あ?何だてめえは」
案の定食って掛かられた。…あー、『漢の毆り合い』タイマンまっしぐらっすね。これ。
「俺は……まあ、この人の友人ですよ。何かやけにノリノリな人に絡まれてるなーヤバイなーと思って」
「そうですわ。実はこの方。『雨宮流護拳』の免許皆伝者ですの。痛い目に遭いたくなければ、お早めに引き下がる事をお勧め致しますわ」
え、何その強いんだか弱いんだか分からない護。うちは普通の中所得層の家庭ですよ!
「護拳だかなんだか知らねえが、良いぜ。ガキ一人余裕でボコれるわ」
うわあ……。なんかガチっぽい構えだ。片方は目がマジだし。詰んだな、俺。
とかなんとか言ってたら右ストレートが來たあ!
これ當たるけどどうにかしてダメージ軽くしよう。
そんな考えで右にを捻ったら、
バヒュッ!と音がして、変な方向にが飛びかけた。
「ぎゃあ!?何これちょっとどういう事!?」
辛うじて踏みとどまる。あぶねー……。木にぶつかったらペシャンコだったな。
「今度は俺が!」
(手加減のつもりで)左ストレートを打ち込み、即座に自分の方に引いてみた。
「がっ!?……ぐおっ……」
數メートル吹っ飛ぶ毆り合いとは一。
男は気絶したっぽいが、俺にもダメージが來た。
「いっつ……」
見ると、左手首が赤くなっていた。変な毆り方したからかな。
「このヤロ……ッ!!」
 今度は間合いに余裕があった。試しに後ろに下がってみる。
砂が巻き上がり、四メートルくらい後ろに下がった。
「ふっ!」
ドヒュッ!と拳圧だけで相手が吹っ飛んだ。恐るべし。『超越せし』オーバー・ドライブ
「おおー……痛い」
これ骨にヒビってるな。多分。
「雨宮さん!傷を……」
「ああ、いや。大した事ないですよ。ちょっと痛みますけどね」
「それでも怪我は怪我です!ほら!」
グイッと引っ張られ、ペタペタられる。
あ、えっとその……當たってるんですがわざとですか?
「……腫れてますし、わりと痛がってますよね?ヒビがっているのでは?」
「病院行きか……」
「皆さんには言っておきますから、行って來なさいな」
そう言われて、俺は病院に行く事にした。
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