ねえ、泣かないでよ。ねえ、泣いちゃだめだよ？　ねえ、どうして君たちは泣いているの？　ねえ、お願いだから泣き止んでくれよ。

一これで何回目だろうか。僕はまた同じ夢を見ていた。ここ最近、保育園生くらいの三人の児が蹲りながら背中合わせとなり、漆黒のペンキで塗りつぶされた世界の中で泣いている。一人は男の子で、殘りの二人はの子。服裝と泣き聲でそれだけは分かった。

世界が暗いせいか、それとも誰かの意図的なモノかは定かでないが、三人の顔は全く見えなければ、僕自も視界だけが三人の全を捉えられる位置にあるだけの狀態で、微妙な距離でそれぞれ泣きわめく三人を傍観する事しか出來ないでいた。

一この子たちは誰でどうして泣いているんだろか。なぜ、人の夢の中で互いを無視して勝手気ままに泣いているんだ。せめて、三人仲よく泣いてくれれば、一つの原因を解決すれば泣き止ませることが出來るかもしれないのに。

「ふわああああ、良く寢れたと言うのかこの狀況？」

今日も何も解決しないまま朝を迎えてしまった。

遮のあるカーテンかられ出すしにわれ、窓を解放し朝を全に浴びながら大きくびをする。背中が小気味良く鳴って気持ちが良い。

春眠暁を覚えず――、と言う有名な漢詩があるにも関わらず、目覚まし時計よりも三十分も早く起きて朝顔並みに全で合している。あれだけ脳でワンワンと泣かれれば頭は覚醒してしまうモノ。お蔭様でお隣さんのおてんば娘さんよりも早く新鮮な外気を肺一杯に吸い込み一日を始めてしまっているぞ。

これで一ヶ月連続か、ホント健康的な男子高校生になったモノだ。

「さすがに、奈緒はまだ寢てるみたいだな」

ときに、この二階の窓から屋伝いでも行けちゃうお隣さん家の一室に、自他共に認める馴染――奈緒なおが枕とは反対の位置で気持ちよさそうに寢ていることだろう。小學生の時なんかは頻繁に屋をつたって互いの部屋を行き來したもんだ。それこそ、さっき夢に出てきた年達と同じくらいの時から。

  が、本日からめでたく高校二年生となり、あの頃の鼻垂れ小僧では考えも付かない大人の悪戯が今では百個は思いつくと言うのに、中學校に上がって以來、滅多に拝めていない境の地へとあそこ昇格した。昔はあのキャラ柄のカーテンの側にいるのが當たり前だったのに、時の経過とは末恐ろしい。

僕らはその辺の男共がときめかせる異の馴染同士だと言うのに、実際は普通の友人関係で、決して妄想閃く仲ではない。保育園から現在進行形で一緒の學校に通う腐れ縁であっても、一線までは越えていない。世の男陣、特に馴染から発展するを渇する諸君、期待に応えられなくてゴメンってじだ。

「ん～なんか食ないな。張してるのか？　たかがクラス替えだぞ」

目覚めが目覚めだけあって気持ち的に気だるかった。仕方ない、たまには優等生を演じるのもいいでしょ。クリーニングに出されて新品同然の著心地を醸すブレザーを羽織り男でが違うチェック柄のズボンを履き一階へ降りる。

「あら、今日は人類終末の日かしら？　最後の晩餐は何が良いかしら愚息よ」

で、リビングにると謂われもない言葉を浴びせられ苦笑い。昔から父よりも父らしい母がお玉をかざしてきた。

「イエス様もこんな下らない理由で最後の飯を食べたのか、いつの時代も浮世の風はにしみる。取り敢えず、眉目秀麗で頭脳明晰の出來る男は朝抜く代わりに晩ご飯は豪華な馳走を希する」

「彼も出來たこともないイケメン？　寢言は寢てから言うもんだよ。ま、しっかり勉強してくるなら、あんたの大好を用意してあげましょう」

「彼だと？　そんな都市伝説よりも、キャビアとフォアグラが食べられる事にひゃふぉー」「安月給のお父さんが聞いたら崩れ落ちる妄言ね。バカ言ってないでさっさと行ってきなさい」

母さんから開口一番で罵られつつ、ズッシリと重い弁當箱を手渡され玄関へ。うだつの上がらない父の代わりに、一家の大黒柱を務める母さんは今日も絶好調でその愚息をその毒舌を用いてけし掛け玄関先で見送る。

「母さんみたいなおっかない彼が出來るよりはマシだよ！　に敷かれてたまるか！　じゃ、行ってきます――」「あ、コラ！　いまなんて言った――」

エンジン全開！　フルスロットル、振り落されるなよ！　我が相棒ただのママチャリを全力で漕ぎ自宅から急離だ。僕は今日、風になるんだ以下省略――。