くそー可いなホントに、そのはにかんだ表が可いんだっての。

服裝からして彼も同じ學園に通う生徒だと推測でき、奈緒と同じの科章を付けているって事は、奈緒と同じ普通科の生徒であり、言いかえれば僕とも同級生ってことだ。

「ん？　どうしました？　私の顔に何か付いてますか？」「いいい、いや、ななにも付いてないっ」

あれ、彼が急に近にじて変な意識が働いてしまう。これも慣れしていない良い証拠なのか？　無にこの場から逃げたい衝に心ともにかられる。それ以上微笑まれるとこの心臓が発してしまうぞ

「あ、じゃあ直ったからこれで僕は！」「あ、まって！　もしかして貴方は……。私の事、ご存じありませんか？」

目先の問題を解決し安堵すると、急に自分の不甲斐ない分を思い出し、ことさら彼を直視できなくなってしまっていた。急いでチェーンを所定の位置に格納して固定し、さあ立ち上がり回れ右――するのだが、彼が僕の汚れた手を握り絞めてそんな事を言ってきた。

ドキッとしたのは言いうまでも無く、現に心臓が口から発されそうだ。

「え、いや……名前も分からいないかな～すみません」

失禮にも背を向けたままそう言うと、

「ああ、……ごめんなさい、そうですよね。……人違いです」

後頭部に聞くからに落ち込む獨白に近い聲がぶつかる。

「……」

  自分の失言を取り繕うことも、分かり訳す落ち込む彼をフォローすることも出來なければ、振り返る事すら出來ないで固まるだけの自分がけない。小汚い手が解放されはしたが、あきらかに彼は寂しそうな雰囲気を醸している。

先も言ったが、僕は年齢＝彼いない歴の冴えない男だ。こんな、どこかの社長令嬢とも言い表せる清楚でお淑やかな人さんと知り合いの訳がない。

もし仮にもそんな高貴な知り合いがいたとしたら、せいぜい武家のお転婆娘が良いところ。良家のお嬢様の知り合いなんてとんでもないぞ。父親が武闘家のお隣さん家の男勝りな馴染を除いては、僕にしおらしい反応を示す淑は皆無である。

結論を言ってしまえば、僕なんて男はね。気の利いたフォローも出來ず言葉を詰まらせ、発言すればするほど、親になろうとすればするほど、そんな気はないを困らせる事しか出來ない間男がお似合いだ。昔で言うとアッシーくんとしての足になるのがお似合いである。

「……、“初の„男の子に似てたのでつい……嬉しくなっちゃって。あの、これで手を拭いてください」

彼が何かを取り出したのをじ、一杯の男気を引っ張り出し足元だけを視野にれ振り返る。多分、僕の返答が意にそぐわなかったに違いない、差し出されたハンカチがかすかに震えていた。

「ははは、良いですよ変な気を使わないで。それに、僕みたいなダサい男と間違われたその初の相手の方が可哀想だ」「……」

初の相手とは乙チックな事を言うもんだ。頬を赤らめながら灑落たシルクのハンカチを僕に手渡す仕草はとても可憐で可らしい。こんな子に好かれる男とはさぞかしイケメンで頼もしい男なんだろな。

自分とは対極的な人間像が浮かびちょっぴりへこみ、想笑いにも悲壯が籠ってしまう。

「じゃあ、……私はこれで。ホントにありがとうございました、さようなら――」

これまでの會話は全て一メートルも満たない距離で行われ、どこの馬の骨とも知れぬ僕にお嬢様風の彼は一度も嫌な顔する事なく、禮儀正しくお辭儀をすると足早に去っていた。一旦は人を引き留めた立場でありながら、それはとてつもなく早い“逃走”と言えた。

「さようならって……あ、ハンカチ忘れてるよ！」

その折に、目の當たりにした彼の表を、僕は何年経っても決して忘れないだろう。名も知らぬ彼が言い殘した「さようなら」とその表はあまりにも初心な僕には衝撃的過ぎる置き土産だった。

れば崩れてしまいそうな雪の結晶、吹けば飛んでしまう綿の様な、いつしか散ってしまう儚さがあるからこそしい花、そうとも比喩出來る。彼の去り際はそれらに似ていた。「初の相手に似ていて、嬉しくなっちゃって。」無関係な男としては、とてもセンチメンタルになってしまう言葉である。この気持ちは何だ一？

「僕は、もう一度會いたいんだけどな……」

僕がその手の花を良く摘むデキる男なら、こんなけな発言はしないであろうが、生憎、僕は年齢＝彼いない歴となるデキない男である。遠くなる彼の後ろ姿を見送るだけしか出來ないのだった。

でも、數分の出來事が僕の褪せた青春に淡い彩を與えてくれたのは確かである。たった數回言葉をわしただけの、言ってしまえば日常的な他もないやり取りが、僕の何かを與え変化を與えた事は間違いないだろ。それが青春の代名詞ともいえると気が付くのはもうし先ではあるが。