話はカラオケから春香を自宅まで送り屆けたその日の夜に戻る。僕は帰宅して早々に晩飯と風呂を済ませ、自室のベッドに寢ころびスマホを恍惚とした表で眺めていた。

「今日はカラオケってくれてありがとう、また、雅くんの熱唱聞きたいな～」「プリクラ撮るの久しぶり。大事にするね」「お家まで送ってくれてありがとう。星座詳しいんだね、もしよかったらまた教えてね」

見慣れたはずのラインの起畫面。今まで登録されていなかったの子の名前。トークボタンに付いた赤丸の數字。の子らしく絵文字、顔文字、スタンプで彩られた文面、どれをとっても僕にとてつもない幸福を與えてくれる。　そう、僕はまさしくいま、春香とスマホを通じて言葉をわしている。二時間前までは、學校でしか味わえなかった喜びを、今夜からは四六時中味わることが出來るのだ。こんな素晴らしいアプリを制作した企業と、チャンスをくれた拓哉や奈緒になんと謝の気持ちを伝えればいいものか。もちろん、二人とも、即日、どんな時でもやり取りできるようになっているが、この気持ちは聲で伝えたい。

「ん？」

早速、アドレス帳から奈緒の攜帯番號を選ぼうとした矢先、コンコンと規則的に窓が鳴った。それは誰かが意図的に窓をノックしていると判斷でき、僕はすぐさまベッドから降り窓辺に向かいカーテンを開けた。

「やっぱり奈緒か」「やあ、久しぶり」「ん？　そうだな、三時間ぶりってところか？」

時計を見ると二十二時を長針が示しているが、奈緒は首を橫に振る。

「ブッブー。正確には、十三カ月前でした」

顔の前で指で×を作る奈緒。

「ああ、そういう事か。確かにこうして奈緒がここに來るのは久しぶりだな。高校學する前だったな最後は」「うん」

高校にってからは一度も屋伝いでこちらに來なかった奈緒。今夜はどういう風の吹き回しだろうか。僕が電話を掛ける前に、奈緒からこうして僕の元へ出向いてくれた。

「ちょうど奈緒と話したかったことがあるから、ほれ上がってくれ」「ありがとう」

僕が手を差し出すと奈緒は素直にその手を取り、サッシに手を置くと窓を上る姿勢になる。が、夜か何かでった奈緒が姿勢を崩してしまい、思わず奈緒のを抱き寄せてしまった。

「だ、大丈夫か？」「ご、ごめん。ありがとう」

急の出來事でお互いがお互いの首筋に顔を當てたままけなくなってしまっている。　奈緒も風呂上りなのだろう。とてもいい匂いがする。思わず踏ん張る下半に違う力が働き制不能に陥る。奈緒も奈緒で嫌がらず靜かに呼吸しつつ微だにしない。いつもなら何するのエッチ！　ってぶん毆ってくるのに。　ほんの數秒だと思うが、僕らは不思議なくらいなにも出來ず互いの鼓を薄い部屋著の間からじていた。珍しく奈緒の鼓は早く、なんだか首筋にかかる吐息も熱を帯びているような気がする。なんともっぽい限りだ。こんなことを春香としたらきっと僕が僕でなくなってしまうこと間違いなしだ。

「おわ、危なかったな。ほら、今度こそ良くつかまれ」「……、何とかも筆のあやまりね。あたしがこんなミスするなんてありえない……」「そうだな。お、春香からか」

タイミング良くスマホが鳴り我を取り戻した僕は、顔を赤く染め上げる奈緒を部屋へと引き上げスマホに神経を傾ける。その間、僕が春香とのネット會話に時間を費やしている合間に、奈緒は著崩れを直し無言で窓から吹き込む夜風に火照ったをさらしていた。

「ねえ、いまなんて言ったの？」「ん？　春香って」「ほうほう、なるほどなるほど」

大膽不敵な笑みをとはこのことだ。気持ちを切り替えた奈緒が、片方の口角だけを上げ不審な笑みを浮かべ近づいてくる。

「な、なんだよ」「ライン換するだけじゃなくて、呼び捨てにする間柄にまで発展させてきたんだ？　みやびもやるときはやるんだね。さすが男の子」「奈緒がそそのかしてきたんだろよ」「あたしは春香っておしそうに呼べるようになること。なんて條件は出してないわよ？」

僕の長は１８０センチあり、奈緒は１５０センチあればいいくらいの小柄な格をしているのだが、今の奈緒はこの長差をじさせないほどなんだか大人びた口調をして僕をベッドの縁まで追い込んできている。