《初めての》錯する心03
「あたし、みやびのちょっとした優しさが好き。毎年誕生日プレゼント買ってきてくれるところも。あたしの大好きなをちゃんと覚えててくれているみやびのその優しいところが好き。だから、みやびはさ、周りに流されないで? 雑誌とか、巷で人気とかそんなの関係ない」
それは他の誰かにも言っているような言い回しであった。その言葉を紡ぎながら僕の手を何度も何度も握る奈緒。握手がしたいのかと思い握り替えると満足そうに微笑み今度こそ帰るらしく窓に手をかけた。
「頑張ってみやび。きっと想いは通じる。だって、みやびにお似合いなのは春香だもの。ずっと一緒にいるあたしが言うのだから間違いない」「なんだよ、照れくさいじゃん。奈緒にそこまで言われたら僕も男だ、一杯頑張るぞ」「うん、しっかりやりなさいよ? そこら辺の男子よりは優位な位置にいるんだから!」
こうして會話をしながら窓を乗り越える手助けをするのも期に比べてスムーズになってきた。僕と壁一枚隔てた別世界に降り立った奈緒は、最後にとびっきりの笑顔を咲かせ一度大きくびをすると自分の部屋へと戻っていた。たかが寢る場所が違うだけで、皆同じ時間を過ごしているのにもかかわらず、僕は見知った人間がこの別々の世界へ行ってしまう覚がどうしても苦手だった。なんでか、分からないがもっと話をしたい相手が帰る姿を見ると、この覚は一層強まる気がする。春香はいまどんな思いでこの夜を過ごしているのだろうか。
「大丈夫か?」「心配ご無用、新しい足場を準備したもの」
向こうには僕がいないため、奈緒は自力で窓を乗り越えないといけないのだが、薄暗く気づかなかったがしっかりとした踏み臺が屋に設置されており、それを使い難なく窓を乗り越えた奈緒はカーテンを閉める前に手を振ってくれた。僕もこっち用のを用意しとこうと思う。奈緒がケガをしたら一大事だ。
「おやすみ奈緒、そっちそこ頑張れよ」
奈緒がどうして誰とも付き合わないのかは分からない。拓哉が言うように異に興味がないってことは斷じて否定してもいいのだが、彼氏をつくらない理由が本當に検討もつかないのだ。あんなに良い子で可いのだから、僕としては拓哉とくっ付いて幸せな高校生活――青春を謳歌してもらいたいものだ。拓哉の奈緒への気持ちを知っている以上は僕も何かできないかと思うところがある。 手を振られたので振り返す間。僕はそんなことを思っていた。自慢の馴染なんだ奈緒は。だから、僕と同じ様にこのにこんなにも素敵な気持ちを毎日抱いてもらいた。奈緒にも素敵な日々を送ってほしい。僕が毎日幸せなのと同じ様に――。
で、その翌日。奈緒に蔑んだ目で見られている僕。
「普通忘れる?」「いや、忘れない」
大きなあくびを二人でする僕たち。僕のあくびは遅くまで春香とラインをしていたからである。そして、明朝にまたあの夢を見て起きてしまったからでもあった。
「大きなあくび。間抜けに見えちゃうわよ」「そっちこそ、そんな大きい口開けたらいつもお菓子を頬張ってるのがばれるぞ」「いいじゃない別に、味しものは頬張るものよ」
僕の前だと取り繕うことを忘れている奈緒は、本日三回目のあくびをして自分の自転車を僕の前に移させた。
「眠いからお願い」「なんだよ、また僕が漕ぐのかよ」「あたしでもいいけど、みやび変なところるからだめ」「変なところってどこだよ?」「」
と、奈緒は自分のをわざとらしく鞄で隠す。
「あのな、摑めるがあるならそういえよ、鷲摑みにす――」
人の話しをすべて聞く前に、その固い拳で僕の頬を強打した奈緒は、僕の返答を待たず自転車の籠に鞄を押し込むと荷臺にった。
「ませるわけないでしょば~か! いくらみやびだからってそんなの……付き合ってもいないのに……許さないんだから」 ゴニョゴニョと語尾を不鮮明に何かを言っている奈緒。相変わらず言葉よりもが先にく腕白ガールである。文句を言ってそれでも気が済まないのであるなら、初めて毆るという行を取って頂きたい。 でも、そこが奈緒らしくて僕はたまらなく好きなので、この痛みはセクハラをした代償として甘んじてけれよう。
もしも変わってしまうなら
第二の詩集です。
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