「海が近いからかしら……良い風ね……」

「うん、街よりも風が通って、良い気持ちだね」

二人はならんでベンチに座りながら、海風をじていた。

気溫は高いものの、風のせいか、そこまで暑さをじない。

風でなびく髪を綺凜は手で整える。

そんな彼の仕草に、誠実は見ってしまった。

綺麗な瞳に、さらさらの髪。

誠実はそんな綺凜を見ながら思う。

(この人を諦めるなんて瞬間が、いつかは來るのだろうか……)

そんな事を考えていると、電車がやってきた。

綺凜と誠実は、電車に並んで乗り込み、ボックス席に座る。

電車の中は空いており、車両には誠実達を含めても5、6人しか人が居ない。

「雨が上がって、今日は良い天気ね」

「そうだね、雲一つ無いよ」

窓の外から空を見て、二人はそんな他も無い會話をする。

「そう言えば、燈臺はどうでした？」

「楽しかったわ、鈴ちゃんと古沢君が騒いでたけどね」

「あいつらは、今回の旅行で一番騒がしかった気がするよ……全く」

「でも……楽しかったわ……こういう経験したこと無かったから」

笑顔で言う彼を見て、誠実もふと笑顔になる。

前の関係では、こんな彼を見ることは出來なかっただろう。

この笑顔を見れただけでも、誠実は頑張ってきたかいがあったと思った。

しかし、誠実が見たい綺凜の笑顔はこの笑顔では無い。

「また、來ような」

「そうね、また……ね」

誠実と綺凜は、そう話しながら二人、電車にのって街に帰って行った。

＊

「ただいま～」

誠実が帰宅したのは、丁度お晝を過ぎた辺りだった。

家には誰の気配は無かった。

みんな出かけているのだろうと思い、誠実は自室に向かい、荷を下ろす。

「あぁ～疲れた～」

なんだかんだ言っても、旅行は疲れる。

そんな事を思いながら、誠実は久しぶりの我が家の空気をじ、ベッドに橫になっていた。　段々と眠気が襲ってくる中、隣の部屋から音がするのに誠実は気がついた。

「ん？　奈穂いるのか？」

誠実の隣の部屋は奈穂の部屋だ。

奈穂も今は夏休みで、基本は家にいる。

しかし、モデルの仕事がっているときは別だ。

誠実は居るなら、丁度良いから土産に買ってきた貝殻の髪留めを渡してしおうと、誠実は奈穂の部屋に向かう。

「奈穂～いるか～？」

コンコンとノックをした後に、誠実は聲を掛ける。

しかし、返事は無い。

もしかしたら寢ているのかもしれないと思い、誠実はすぐさま部屋に引き返そうとした。

しかし、誠実が引き返そうとした丁度そのとき、奈穂の部屋のドアが開いた。

「お、おかえり……おにぃ……」

「なんだ、居たのか……ただいま、お前何やってたんだ？　汗もそんなにかいて」

「な、何でもないわよ！！　それで何よ！　なんか用！？」

急に怒り始める奈穂に、誠実は若干驚きながら、お土産の髪留めを手渡す。

「ほらよ、土産だ」

「え、あ…ありがと……気が利くのね……」

「まぁ、バイト紹介して貰ったりしたしな……恵理さんの件でも迷かけたし…」

「何？　キーホルダー？」

「いや、髪留めだ、お前に似合うと思ってよ」

奈穂は誠実の居る前で、お土産の袋を開け中を取り出す。

「可い……」

「だろ？　俺って中々センスが良いだろ？」

「まぁ、それは置いといて……」

「置いておくな！」

「でも、これ本當に可い……おにぃ、付けて」

「え、なんでだよ、自分で付けろよな」

「良いから！　はい」

誠実は髪留めを渡され、奈穂の後ろの髪を束ね、髪留めで留める。

昔はこうやって、良く誠実は奈穂の髪をまとめてあげていたので、すんなり出來た。

「お、中々にやってんじゃん」

「そう？　ありがと」

嬉しそうに笑顔を浮かべる奈穂。

たまにはお土産を買ってきてやるのも悪くないなと、誠実はじる。

これなら、栞と恵理に買ったお土産も好調であろうと、誠実は一安心する。

「じゃあ、俺は一眠りした後に、恵理さんの家に行ってくるわ」

「え？　なんで？」

「いや……ちょっと……な」

誠実は奈穂に聞かれ、そっぽを向きながら答える。

そんな誠実を見て奈穂は思った。

(怪しい……)

そんな奈穂の考えを読み取ったのか、誠実は一目散に部屋に戻る。

「じゃあ！　お休み！」

「あ！　ちょっとおにぃ！！　もう！」

奈穂はまだ聞きたい事があったが、誠実が部屋に戻ってしまい、聞くことが出來ずに不機嫌になる。

しかし、自室にもどり兄から貰ったお土産を見て、そんな気持ちはどこかに行ってしまった。

「えへへ……似合ってるって……」

先ほどの兄の発言を思いだし、奈穂はベッドの上で笑みを浮かべる。

一方の自室に戻った誠実は、ほっと一安心していた。

「あっぶね～、この話を追求されるわけにはいかねーからな……」

夏休み前に、誠実は恵理にある頼みをした。

それは買いに付き合って貰うという頼みだった。

今日、恵理の家に土産を渡すついでに、その買いの容についても説明しようと思っていた誠実。

なぜその事を奈穂に知られては困るかと言うと……。

「お前の誕生日プレゼントの相談に行く、なんて言える訳ねーもんな……」

そう、誠実は恵理に奈穂の誕生日プレゼンとの相談と、買いに付き合って貰おうとおもって、海に行く前に買いに付き合って貰う約束をしていた。

の意見も貰えた方が良い上に、何より奈穂と同じ仕事をしている人だ。

仕事関連でのしそうなもわかるかもしれないと、恵理を誠実は相談相手に選んだのだった。

誠実はスマホで恵理にメッセージを送り、あとで自宅にお邪魔しても良いかと尋ねる。

返事はすぐに帰って來て、簡単に了承がもらえた。

「じゃあ、夕方の四時頃に……伺います……っと！　これで送信！」

誠実はお邪魔する時間をメッセージで送り、ベッドに倒れる。

出かけるまでの殘りの時間を誠実は寢て過ごそうと、誠実は目を瞑る。

海の次は、奈穂の誕生日、その後は栞の家に二回目の訪問。

夏はまだまだ長そうだとじながら、誠実は眠りの中に落ちていく。