《99回告白したけどダメでした》188話

「たく……なんで俺が怒られるんだよ……」

服が並ぶ店の試著室の前で、俺こと武田武司はぶつぶつ文句を言いながら、中に居る知人の著替えを待っていた。

正直、服の流行なんて知らないし、何が誰に似合うかなんてわかるわけがない。

想を聞かれても、素直に似合うか似合わないかを言う事しか出來ない。

しかも、の買いは長いと良く言うが、服一つ選ぶのに一時間は掛け過ぎだと俺は思う。

「はぁ……なんで俺って買いに付き合ってんだっけ?」

元はと言えば、テストの時にこのを頼ってしまった事にあった。

々と勉強を見て貰った訳だし、まぁお禮くらいはしないといけないと思っていたが、まさかこんな形になるなんて……。

「大なんで二人っきりなんだよ! 他の奴もえばいいだろ! それか同じ子同士で買いに行けっての!」

そんなじで、俺がぶつぶつと文句を言っていると、周りのお客さんがクスクス笑って、俺を見ていた。

考えて見れば、ここは服の店。

客はどうしても目立ってしまう。

あぁ……早くこの場を離れたい……。

そんな事を考えていると、大學生くらいのお客さん二人の會話が聞こえてきた。

「高校生かしら? 初デートってじよね!」

「ほんとね、若いって羨ましいわ~」

デート?

いやいやいや、まてまてまて!

俺と古賀が? デート?

無い! 絶対無い!

いや、しかし見方によってはそうも見えてしまうのか?

高校生の男が、二人で買いに來る……。

あ、デートか………。

そうかぁ……俺の初デートの相手って……古賀なのか……。

そんな事を考えていると、試著室から古賀が出て來る。

「ど、どうよ?」

古賀は俺の選んだ、短めのスカートをはいていた。

純粋に似合っていると思ったのだが、そんな事よりも俺は古賀に言ってやりたい事があった。

「古賀……」

「な、何よ?」

「俺の初めてを返せ……」

「待って、本當に意味分かんない……」

俺こと古沢健は、現在カラオケ店で仲間と楽しく大熱唱していた。

まもなく、他の仲間と約束した集合時間になるので、あとは一人一曲づつ歌って、店を出ようと決めており、俺は歌い終わって暇だった。

「あれ? リーダー何所へ?」

「ちょっとトイレだ」

仲間の一人にそう言うと、俺はカラオケ店のトイレに向かった。

ゲリラライブの途中で、トイレに行きたくなったら困る。

早々に用を済ませて、俺は部屋に戻ろうと、元來た道を引き返す。

そんな時だった。

「ん? なんだ?」

俺がふと外に目をやると、男五人ほどがの子を取り囲んでいた。

狹い路地裏だが、大通りからもその景は見える。

しかし、通行人は見て見ぬ振りをしていた。

「……誰だって面倒事はごめんだよな……」

警察に通報すれば良いだけの話し。

俺はそう思い、ポケットからスマホを取り出し、警察に電話を掛ける。

を説明すると、警察はすぐにやってくるとの事だった。

「これなら問題ないだろ……」

そう思い、俺はその場を離れようとした。

しかし、そのときとある友の言葉を思い出し、俺は足を止めた。

『助けたいって思うなら、人任せはダメだろ?』

そう言われたのは、もう隨分昔の話しだ。

「たく……俺にも馬鹿がうつってきやがった……」

俺はそう呟き、店の外に出ての子のところに向かった。

俺は取り囲む男達に、一言聲を掛ける。

「悪い、そいつに用があるんだ」

「あぁ? なんだテメー」

男達は一斉に俺の方に視線を向けて來た。

恐らくは同じ高校生だろう。

しかし、彼らの風貌はとても模範的とは言い難く、どちらかと言うと、ヤンキーと呼ばれる方々だろう。

「そいつが何かしたのか?」

「あぁん! おめぇこの子のコレか?!」

そう言って茶髪にピアスの男は、俺に向かって小指を立てて尋ねる。

「このだのコレだの……主語が無いな、もっと勉強したらどうだ?」

「んだとぉ!!」

俺の言葉に、今にも毆り掛かって來そうな勢いの男達。

しかし、俺は慌てる事無く、落ち著いて言う。

「さっき、通行人のサラリーマンが通報してたぞ? 早く行った方が良いんじゃないか?」

「け! そんな噓に騙されるほど……」

男の一人がそう言った瞬間、どこからかサイレンの音が鳴り響いてきた。

タイミングばっちり。

俺はそう思いながら、半笑いで男達に言う。

「早く行った方が良いぞ?」

「っち!」

男達は舌打ちをして、そのまま路地の裏の方に消えて行った。

俺は男達を見送った後、フードを深く被って震えていたの子に聲を掛ける。

「大丈夫か?」

「えっと……は、はい……」

小さな聲で答える彼

歳は俺とそこまで変わらないだろう。

小柄で、長は低く、ほっそりとした型だった。

しかし、俺はなぜだかこの子の聲をどこかで聞いたような気がしてならなかった。

「君……俺と會ったことってある?」

「な、なにを急に?!」

「あ、いや。すまん。聞いた事あるような聲で……」

俺がそう言った瞬間、彼はビクッと方を振るわせた。

俺は不思議に思いながら、彼のフードの中の顔を覗こうとする。

「だ、だめです!」

「あ、いやすまない……確かに失禮だった」

「い、いえ……そ、それよりありがとうございました! それじゃあ私はコレで!」

「あ、そこには……」

「きゃっ!!」

そこにはビール瓶が落ちているから気を付けろ。

そう言おうとしたのだが、彼が急いでその場を離れようとして、俺の話が終わる前に、ビール瓶を踏んで転けてしまった。

「う~痛い……」

「はぁ……そんなに焦らなくて……も?」

俺は彼に手を貸そうと、彼の元により手を差し出す。

その瞬間、俺は彼が顔を上げたのを見て言葉を失った。

「あ、すみません」

の聲を何故聞いた事があったのか、俺はこのとき理解した。

そりゃあ聞いた事があって當然だ。

俺はこの子の聲を毎日のように聞いている。

「あの……どうかしました?」

「……フード」

「え……あ!!」

転んだ衝撃で、フードが頭からずれている事を伝える。

もそれに気がつき、さっとフードを被り直す。

そして、俺は彼に尋ねた。

「君……エメラルドスターズのゆきほちゃん?」

そう……彼は俺が最近ドはまりしているアイドルグループ「エメラルドスターズ」の綾清(りょうせい)ゆきほちゃんだった。

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