《みんなは天才になりたいですか?僕は普通でいいです》32.貍寢

「……先輩」

「起きてますか? 先輩」

盛大にフラグをたてたものの、今日一日、かなり力を消耗したみたいでベットにった後すぐに眠りに落ちていた。寢落ちだ。は早くも筋痛になりかけているみたいで寢返りを打とうしただけで全の痛みが酷い。

今は関係ないけど、年をとると筋痛が數日後にくるっていうのは本當なんだろうか。

頭はボーッとしていて、起きているのか寢ているのか自分でもよくわからない。

耳元で誰かが何か言ってる気がするけど、これは夢か?

「ふふ。先輩よっぽど疲れたんですね。気持ちよさそうに寢てる」

「結構、綺麗な寢顔ですね。意外とまつが長い」

段々と頭がはっきりしてきたけど、ひょっとして月見里さんが僕の枕元で何か喋ってるのか? ……なぜ?

でも今は目を開けるのも億劫だ。貍寢りをするつもりも無いけれど、今は月見里さんの言葉に反応することが出來ない。

「先輩は矢野先輩とどうなるんですかね……?  応援するとは言ったもののあんまりにも進展がないのでいい加減待ちくたびれましたよ」

「一度、忠告しましたよね。気が変わらないうちに矢野先輩のこと、決著をつけた方が良いですよって」

そう言えば、いつだったかそんなことを月見里さんが言っていた気がする。

「それに、先輩の本當に好きな人って誰なんでしょう。矢野先輩?  姫城先輩?  」

何でそこで詩歌の名前が出てくるんだ。僕と詩歌は別にそんな関係じゃ無い……

「姫城先輩のことを助けてあげたそうじゃないですか。詳しくは知りませんけど。本當にお人好しですね」

やめてくれ。僕はお人好しなんかじゃない。全部自分のためにやってるだけだ。ただの自己満足だ。

「もし……私が先輩のこと好きに

なっちゃったって言ったら、先輩どうするのかな」

ドクンと僕の心臓が大きな音を立てた。それと同時にごくりとがなる。部屋中に音が響いた様な覚。

でも大こういうのって自分にはそうじられるだけで、他の人には聞こえていないものだ。たぶん。

「私は……別に二番目でも良いんですけどね。先輩は嫌がるかな?」

よかったり取り敢えず起きているのは気付かれて無いみたいだ。でもなんでこんな話を……

しかも二番目でもいいってそんな馬鹿な話があるかよ。格好悪い所ばかり見せているし、後輩からからかわれてる様なダサい男だぞ。なんでそんな奴のこと……

まあ、主にからかってくるのは當の本人なんだけど。

「はあ。でも何でこんな気持ちななったんだろ」

「本當の自分を見せても、先輩なられてくれそうだからかな?  それとも……自分でもよく分からない」

「でもこれって矢野先輩を裏切ることになっちゃうし。まいったなあ」

なんだよ。ここに來て人生一番のモテ期到來か? にわかには信じ難い。

頭は隨分とはっきりしてきた。

ただ、今更タイミングよく目を覚ますのもおかしな話で、寢たふりを続ける他なかった。

「ねえ、先輩。どう責任取ってくれるんです?」

「先輩が……優しくするからいけないんですよ」

「……」

暫くの沈黙。外から聞こえる蟲の鳴き聲だけが今この部屋を支配している。

「はあ。私も、もう寢よう」

なんなんだよ。僕はどうすればいいんだよ。

たよりに告白されて、それに応えることも出來ず、更に後輩にまでこんな思いをさせてしまっているのか。

最低じゃないか。いつの間にか、僕は人から好きと言われて素直に喜ぶ事も出來ない人間になってしまっていた様だ。

「あ、そうだ先輩。一つトリビアを教えてあげましょう。人間って本気で寢ているときは唾を飲まないらしいですよ?  」

ん? っえ? そうなん?

あれ?  起きてるのバレてたの?  ちょ、これって……

結局またからかわれただけって事か?! く、くそ。やられた。

「あれ?  先輩?」

「……」

「うーん。本當に寢てるのかな。まあ、どっちでもいいか……」

「おやすみなさい、先輩。」

びっくりさせやがって。どこまで人をおちょくれば気がすむんだよ全く。

でも、もしこれが冗談とかではなく、月見里さんの本當の気持ちだったとしたら……

いやいや、あり得ないな。相手はあの月見里さんだぞ。まるで自分に言い聞かせる様に心の中で何度も繰り返し、浮かれかけた心に蓋をする。蓋をして、上から抑えつける。

経験上、ここで真にけたらロクなことにならない。そうだよな?

、誰に言い訳をしているのか分からないけど、無理やり自分を納得させて僕ももう一度眠りにつくことにした。

ああ、本當に疲れた。

おやすみ、月見里さん。

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