《みんなは天才になりたいですか?僕は普通でいいです》38.世の中にはすごい奴がいるもんだと、がむしゃらな変質者は思ふ
そこからはもうがむしゃらだった。容も正直あまり覚えていない。
1クオーターが終わった時には35対4と大差をつけられてしまい、その後、相手チームのスターティングメンバーが試合に出て來ることは無かった。だけど、控えのメンバーもスターティングメンバーと比べて大きく力が劣るわけではなく、スターティングメンバーに見劣りしない、素晴らしいプレーを連発していた。
特に、試合の終盤に出てきたあの小さなシューティングガード……あの子は凄かったな。私の借りたビデオには映っていなかったし、背番號が18番だったから、一年生かな? スターティングメンバーにっていても不思議じゃないくらいのレベルだった。
高校一年生なんて、つい最近まで中學生だったんだから普通あんなプレーは出來ないぞ。世の中には凄い子が居るもんだ。
試合が進むにつれて、點差はどんどん広がっていったが、それでも私たちは諦めずに最後まで走り続けた。互いに聲をかけあいながら、飛び散る汗も気にせずに必死でプレーを続けた。
ボロ負けなのに、それでも楽しいとすらじた。こんな覚は初めてだ。
最終的に私たちは100點以上差をつけられて負けたわけだが、何も恥じることはない。悔いは全く殘っていない。いっそ清々しい。
それは私たちが全力を出し切って負けたこともあるが、相手もそんな私たちに手を抜かず、全力で応えてくれたからだろう。
試合が終わった後、更室で著替えていると、相手チームもゾロゾロと帰ってきていた。
「あ……高橋さんだ」
先述した様に、私は高橋さんに憧れていた。どうしよう、話しかけてみようかな……でもちょっとクール過ぎて怖いんだよな……。
いや、でもこの機會を逃したら多分一生話をすることができない。そう考えた私は勇気を出して話しかけてみることにした。
「あ、あの高橋さん!」
「はい?」
突然話しかけられて不思議に思っている様子だったが、表はピクリとも変わらない。
「さっきは試合、ありがとうございました」
「……どうも」
うーー。そっけない! いや、分かってたけど! いきなり話しかけられたらそりゃ不審に思うよね。でも、この熱くなった気持ちをどうしても伝えたくなってしまったんだ。
「えっと……私、シューティングガードをやってて、高橋さんのファンだったんです!  あの、えっと何が言いたいのか自分でもよくわからないんですけど、これからも頑張ってください!  応援してます!」
「……そうなんですか。ありがとうございます」
あーもー、本當わけわかんないよね。私に応援されたって、だから何?  ってじだよね。
「……えーっと、すみません、それだけです……あの、お邪魔してすみませんでした」
なんだか急に恥ずかしくなった私は顔が真っ赤になっているのを自分でじた。さっきまで試合をしていて、しかもボロ勝ちした相手チームになんて興味を持つ筈がない。
失敗したなぁ。話しかけるんじゃなかったよ、と後悔をして踵を返そうとした時、意外なことに高橋さんの方から口を開いた。
「あの」
「え?!  は、はい!!」
「あなた達のチーム。とても素敵ですね。私たちもあなた達のチームの様に、一致団結していきたいとおもいました」
「え……?」
驚きすぎて聲が出なかった。まさかあの強豪校の選手からそんな言葉をかけてもらえるなんて、夢にも思ってもいなかった。
「それと、1クオーターの最後のあなたのプレー。とても良かった。あそこまで綺麗に出し抜かれたのは久し振りです」
「い、いえ……あれはたまたまです。まぐれと言うか……」
「バスケに偶然はありません。積み重ねたものしか結果として現れませんから」
その言葉を聞いて、堰を切ったように私の目からボロボロ涙が溢れた。今まで……頑張ってきてよかった。そんな風に思えたら涙が止まらなかった。
「え?!  あ、あれ?  すみません、私、何か失禮な事を……」
突然泣き出した私を前に、普段はクールな高橋さんがうろたえていた。いつもの印象と真逆のオロオロした姿が、なんだかとても可らしく見えた。
どれだけ凄いプレーをしていようが、私と同い年のの子なんだな。
そう思ったら今度はなんだか笑えてきた。
「ふ、ふふふ。ぐすん。あはは」
泣きながら笑い出した私を見て高橋さんは更に揺していた。そりゃそうだよね。これじゃあ私、完全に不審者じゃん。
「ごめんなさい高橋さん。そんな風に言ってもらえるなんて思ってなくて、嬉しかっただけです。本當にありがとうございます」
「いえ……それなら良かったです」
ホッとした様子の高橋さんを見て、このまま、関係が終わってしまうのが凄く寂しくじられた。
「あの、もし良かったらなんですけど……」
「はい?」
「高橋さんの連絡先、教えてもらえませんか?」
向こうからしたら初対面。いきなり連絡先を教えろなんて困るだけだろう。だけど、ダメでもともと。言わなければ2度と會うことも出來ないかも知れないのだから。後悔するくらいならチャレンジしておいた方が絶対にいい!
「別にいいですよ」
「そうですよね。やっぱり急にそんな事言われても無理ですよね……って、ええ?!  良いんですか?  本當に??  個人報はあんまり簡単に人に教えない方が良いですよ!」
「あなた、やっぱり面白いですね」
「え?!  そうですかね。自分では割と普通だと思っていたんですけど……」
「これが私の連絡先です」
そう言って近くにあった紙切れに番號を書いた。なんだか男前だな。
「それと、同い年なんだから敬語はやめましょう。連絡、待ってますね。それではミーティングがあるので今日は失禮しますね」
そう言って連絡先を書いた紙を私に渡しながら軽く手を振って去っていく高橋さんを見送りながら、私はこう呟かざるを得なかった。
「ちょ……まじイケメン」
そして、敬語はやめましょうと言いながら、自分は敬語のままなんだけど……とつっこむ暇がなかったので、今度タメ口でメッセージを送ってみよう、と心に誓った。
こうして私の高校バスケは幕を閉じたのだった。
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