《みんなは天才になりたいですか?僕は普通でいいです》39.才能がある奴が試合で使えるとは限らない

二回戦が終わり、本日の日程で私たちはもう試合がない。二回戦と言ってもシード校なので、私たちにとっては一試合目なんだけどね。

先ほどの試合の相手チームは、はっきり言って敵ではなかった。

でも、お互い聲を掛け合っていて、とても雰囲気の良いチームだなとじた。

県大會に続いているとはいえ、地區大會では私たちの高校が負けることはほぼないだろう。

それにしても……ここ最近二葉の長が著しい。高校生の試合に慣れてきたことやチームに馴染んできたこともあるんだろうけど、それを差し引いても……

「よー、矢野。どうした?  難しい顔して」

ミーティングを終えて、それぞれクールダウンをしながら、自由時間を過ごしていた。

私はストレッチを終えて他のチームの試合を眺めていたんだけど、々と考え事をしているうちに、自分でも気付かないに、眉間にシワがよっていたみたいだ。

「皇キャプテン。いえ、し考え事をしていただけです」

「そうかそうか。どこか痛めでもしたんじゃないかと心配したぞ」

「それはないので大丈夫ですよ」

「ふむふむ。それじゃあひょっとして月見里の事かな?」

「えっ?  なんでそれを……」

「ははは。分かりやすいやつだなあ、お前は。まあ、あんだけ意識してりゃ誰だって分かるさ」

キャプテンはそう言ってはいるが、恐らくそれに気付ける人はそうはいない筈だ。々な人に気を配り、周りを見てフォローする。

數十名いる部員全員の微妙な変化や空気をじ取り、的確なアドバイスや悩み相談、時にはおどけて見せて場を和ませる。自分だって高校最後の大會に向けて、々と思うところはあるだろう。

それらを全て押し殺し、みんなのために暗躍する。そのの大きさに、改めて驚かされる。

自分を殺して他人を活かす。なかなかできることでは無い。それでいて自分もきっちりと仕事をして結果を殘すんだから、尊敬せずにはいられない。

「あはは……キャプテンには敵いませんね。まあ、そんなところです」

「矢野からみてあいつはどう映る?」

「そうですね。上手いと思いますよ。一度1on1をしましたけど、あの時……まるで猛獣とでも戦っているような気分でした」

「ああ。私たちも見ていたよ」

「はい。実際手も足も出なかったです。でも……あの時よりも更に上手くなっています」

「そうだな」

チームメイトのレベルが上がることは、チーム全としては當然プラスに働く。個々のレベルがあがれば、チーム全のレベルが上がるのは當たり前のことだ。

なのに、なんでこんな気分になるんだろう? 私は、二葉が上手くなるのが悔しいのだろうか。嫉妬?

それとも……後輩に追い抜かれたく無いという、ちっぽけな私の自尊心がこんなにも気持ちにさせているのだろうか? 私のに靄をかけているのだろうか。

もしそうだとしたら、私は……

「確かにあいつはバスケが上手い。私が過去見てきた選手の中でもトップクラスの才能を持っている」

「それは……皇キャプテンよりも才能があるって事ですか?」

「ああ。間違いなくな。それは斷言できる」

「……」

「だがな、矢野。よく聞け。『才能があってバスケが上手い奴が必ずしも試合で一番使える』とは限らないんだぞ?」

「それは……どういう意味ですか?  一番上手いなら、一番使える選手って事ではないんですか?」

「ノンノン」

そう言いながら私の目の前で大袈裟に指を振ってみせる。

「例えば、そうだな……1on1が日本で一番強い奴がいたとしよう。一対一ではそいつの事を誰も止めることが出來ない。それは間違いなく才能があるってことだ。じゃあそいつはプロバスケットリーグでMVPを取れる様な活躍を毎試合必ず出來ると思うか?」

「それは……たぶんないと思います」

「だろうな。私もそう思う。じゃあそれは何故だ?」

「1on1と5対5の試合は、別だからです」

「そうだな。バスケはチームスポーツだからな。1on1が強いに越したことはないが、だからと言って別に活躍するための必須條件って訳でもない」

「まあ、何が言いたいかというと、一人で全部できる奴なんていないって話だ。いくらシュートの才能があってもフリーの狀態を作ってパスを出してくれる人がいなきゃ、そいつは活躍できないだろうな。それにシュートが上手くても、機械じゃないだ。手元が狂って外れることもあるだろう。それを拾ってくれるリバウンダーがいなけりゃ、怖くてシュートなんて打てやしないだろう?」

「……はい」

「センターは背が高い分ドリブルが苦手な奴が多い。ゴール下で圧倒的な力を発揮できる才能があっても、ボールを運んでこれないんじゃお話にならない。ボールを運んでくるガードだってそうだ。ドリブルがいくら上手くたって、自分一人で點を取り続けるのは難しいよな。つまりは適材適所ってことなんだよ。同じチームメイト同士で、あいつの方が上手い、こいつの方が才能がある、なんて事を考えるだけ時間の無駄って事だ。それよりも、こいつの才能をどう活かしてやろう?  こいつにはこんなきをさせたらもっと簡単に點が取れるんじゃないか?  とか、そういう事を考えた方が百倍楽しいぞ。……まあ、お前は昔から考え過ぎる節があるからな。お前が悩んでいる事は、たぶん、今お前が考えるべき事では無い」

「……」

「避けられない問題であり、いつかは真正面から向き合わないといけない時が來るのかも知れない。だけどなぁ、矢野。ここからは私のワガママでもあるんだが……」

俯く私にキャプテンは続ける。

「三年生が引退するまでの間、お前のも、お前の頭の中も全て私たちの為に使ってくれ。私らが上に行くためには、お前の力が必要なんだよ。余計な事は考えるな」

「キャプテン……」

全く、私は々な人に支えられてばかりだな。それなのに自分は余裕がなくて、後輩に追い上げられることに怯えて、本當にダメなやつだ。

こうやって無理矢理にでも引っ張ってくれる、頼りになる先輩の背中を見て、私も長しなければいけないんだ。

「お前と夕凪を足して2で割ったら丁度いいくらいなんだけどな」

「ふふ。確かにそうですね」

私には皇先輩の様なカリスマとキャプテンシーは持ち合わせていない。花ちゃんの様な特異なセンスも持っていない。

高橋先輩の様なハンドリング技ややディフェンス力もない。佐藤先輩の様なゴール下での力強さも、八重樫先輩の様な鋭いパスも、富田先輩の様な正確なシュートも。

それでも、キャプテンは私の力が必要だと言ってくれた。そうだ、今はどうやったら先輩達の役に立てるのかだけを考えよう。それから先のことは、その時に考えればいいんだ。

「キャプテン。ありがとうございます!  私、先輩達を絶対全國へ連れて行きます!  約束します!」

「ああ。頼りにしてるぞ。たより。なんちゃってな!  はははー」

ほんと、豪快な人だな。でも、この人について行きたいって人間に、人生で何人出會えるか分からないけど、高校生の段階で近にそういう人がいることは、とても幸せな事なんじゃないかって思うんだ。

「えっとな、今のは『頼り』にすると、お前の名前の、『たより』をかけてだな……」

「キャプテン!  ダジャレの説明を始めないでください!  恥ずかしすぎます!!」

「そ、そうか?!  結構おもしろいと思ったんだが……」

「確かに、キャプテンはバスケのセンスはピカイチですが、ギャグセンスは壊滅的みたいですね。そこは他のチームメイトを頼ってください!」

「さっきまで落ち込んでたやつが言うじゃないか。まあ、若い奴はそんくらい元気がある方がいいと思うぞ!」

一個しか年変わらないじゃんって思ったけど、つっこむのはやめておいた。今度こそ、うじうじ悩むのはもうやめだ。私にできる事を、きっちりとこなすのみ!

明日からのトーナメンの続きも絶対に勝って、県大會に駒を進めるぞ。心でそう誓いを立てて、會場を後にした。

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