《みんなは天才になりたいですか?僕は普通でいいです》41.ディレイオフェンスVSディレイオフェンス

試合の立ち上がりは靜かなものだった。ジャンプボールを制したのは高橋さんのチームで、1本目のシュートはセンターである佐藤さんのインサイドプレーだった。

一見すると高長と能力の高さであっさりと點を取った様にも見えるが、ポジション取りが半端なく上手い。ボールをもらった時點で、勝負はついていたってじだった。

さてここから相手チームがどう出るか…だけど、強豪校相手でも自分の達のスタイルを変えなかったみたいだ。いや……相手が格上だからこそ、自分達の最も得意とする戦法を取るのは當たり前の事かも知れない。

相手チームのガードがハーフコートを超えた辺りで時間が経つのを待つ。バスケをやっている人からしたら、この景はかなり異質だ。

通常ガードがボールをキープして時間を稼ぐと言ったら、各クオーターの終了間際に殘り時間と24秒ルールの兼ね合いで時間調整するか、試合終了直前まで接戦で、數點しかリードが無い時に、相手のオフェンス回數を出來る限り減らしたい時くらいだ。試合開始直後でそんな事をしていたら、事を知らない人が見たら、何かトラブルでもあったかな?  と思うレベルだと思う。

ショットクロック(24秒ルールの殘り時間を示す時計表示)が10秒を切ったあたりで相手チームのセンターとフォワードがき出す。

スクリーンプレイだ。スクリーンプレーって言うのは、自分が壁となって味方のディフェンスのきを阻害して、味方をフリーの狀態にするプレーのことで、地味ではあるけどこれをやるのとやらないのでは全然違ってくる。

特にレベルが上がれば上がるほど、お互いのディフェンス力も上がるから、自分一人でディフェンスを振り切ってボールを貰い、自分一人でマークマンを抜き去り、更にカバーで出てきたディフェンスをかわしてシュートを決めるなんて蕓當、オフェンス力が余程ずば抜けてないと出來ない。

なんて事を言ってる間に相手のガードもき出しフォワードにボールがる。そこからシューター、センターの順にパスが周りインサイドヘワンドリブル突いてからのアウトサイドへのパス。それを貰ったフォワードがミドルシュートを見事に決めてみせた。

かなり息のあったプレーで、何度も何度も練習してきたきの様に見えた。シュートを決めた相手チームは喜ぶこともなく、すぐに自陣に戻りディフェンスの勢を整える。まるで訓練された軍隊のようなきは、し不気味さをじるほどだ。

高橋さんのチームは一どんな風にこのチームを崩していくのだろうか、と余計なお世話なのは重々承知の上で心配になってきた。

「ねえ、弓月。この試合どうなると思う?」

「うーん、分かんない。力の差はあるだろうけど、ロースコアなゲームってどう転ぶか分からないとこあるからね。高橋さんがどれだけ主導権を握って試合のペースを上げていけるかによるんじゃ……」

って言いかけたところで自分の目を疑った。何と高橋さんもハーフコートを超えた辺りでボールをキープして時間が経過するのを待っている。

「えぇ……まじで?」

揺を隠しきれず聲がれる。會場を見渡しても、観戦している人の多くは私と同様に困している。そう、私と同様に揺している。

走って點を取るスタイルの高橋さんのチームが相手チームの得意とするディレイオフェンスを真っ向からけてたったってことだからね。と、言うか両チームディレイオフェンスの試合なんて今まで見たことないんだけど……これってどうなるの?!

そんな心配を余所に、相手チームとほぼ同じ、ショットクロックが10秒を示した瞬間、高橋さんのチームもき出す。

高橋さんはドライブで自分のディフェンスを抜き去り、カバーで出てきたセンターを引きつけ逆にそれでフリーになった佐藤さんへとパスを出す。佐藤さんがゴール下でパスを貰いそのままシュートにいこうとした時、別のディフェンスがカバーに來てシュートブロックをするべく飛び上がる。

しかしそれは予想の範疇だったみたいでポンプフェイクでワンテンポタイミングをずらして、相手にをぶつける様にして飛び上がった佐藤さんはファールを貰いながらシュートを決めてしまった。

バスケットカウントだ。ファールを貰いながらシュートを決めたらそのままフリースローを一本貰えるのでそれを決めれば3點プレーになる。あ、フリースローは一本で1點しからないからね。

それにしても高橋さんには驚かされる。チームで事前に話していたのか、司令塔である高橋さんの獨斷か……

どちらか分からないけどまさか相手チームの得意スタイルをそのままやり返すなんて。

佐藤さんはフリースローを決めてこれで5-2。だけど、相手チームも伊達に決勝戦まで上がってきたわけではない。高橋さんの対応に怯むことなく、自分達のやる事をきっちりとやっている。

焦らず、時間を使い試合のペースを落とす。自分達が追いかける立場でそれをやり抜くのは口で言うほど簡単なことではない。點差と時間が気になりだしたら頭から離れなくなる。焦って浮き足立てば必ずミスをする。ミスをすれば更に點差が開く。そうなれば立て直すのは困難を極めるだろう。

試合の最初から最後まで一貫するには相當な神力が必要になる。

正直言って私は絶対にやりたくなーい!

「す、凄いゆっくりした試合展開だね」

「そうだね。観てるこっちは心臓に悪いよこれ。1つ1つのプレーの重みが半端じゃない」

そう。両チーム合わせて攻撃回數が極端にないんだから、1つのミスが試合結果に與える影響は必然的に大きくなる。この異常な狀態でどこまでノーミスでプレーできるかがこの試合の鍵になりそうだ。

そして1クオーターは両チーム共に特に大きなミスをするとなく、10-6と言うとんでもないロースコアで終了した。相手チームからすれば、強豪校相手にたったの4點差で1クオーターを終えたのは十分な果と言える。作戦功と言っても過言ではない。

バスケにおける4點差なんてあってない様なものだからね。

いつまでこの張狀態が続くのか?  そしてこのまま點差が徐々に開いていくのか?  今後のゲーム展開は私の予想できる次元を超えてしまっていた。

クオーター間の休憩はたったの1分しかない。その間だけでも取り敢えず……私たちもきゅーけーだっ!!

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