《代わり婚約者は生真面目社長に甘くされる》19
唖然とする間にすべてが終わり、あたりが明るくなる。
あたりはざわめいて、そこから離れる人、水槽に近づく人などさまざまだ。
だけれど私はまるでそこに固定されたかのように立ち盡くしていた。
「……え?」
悠馬さんが私にキスをする意味に思い當たらないほど、私は子供ではなかった。
「悠馬さん……?」
「すまない、つい」
彼は目を逸らす。
視界の端ではクラゲが舞っている。幻想的な――そう見せているのだろうけど――景も相まって、まるでこれが夢のようだ。
覚めないでほしい、悪い夢。
「私、だって、言いましたよね? ――あなたをいつか失させてしまうって」
――私のこと、好きなんですか?
なんて聞けない。
婚約者という間柄なのにそんな中學生みたいな臺詞と逡巡はあまりにも稽だ。だけれど、私たちの関係はあまりにも歪んでいる。まだ子供同士のの方が真っ當だろう。
「その『いつか』と『かも』に恐れているなら俺はデザイナーも社長もしていないよ」
「でも。本當に……」
俯く。
私はどうしてこう、親切を無礙にしようとしてしまうのか。
違う。その親切を裏切っていることが恐ろしいのだ。
だから、どうか、それ以上私になにも思わないでほしい。來たるべき日が來たらあっさりと分かれてしまえるような……。
もう手遅れに近いけれど。
「つばきさん」
彼も何か考えていたようだけれど、ぱっと表を変えた。
「次、どこ行こうか」
……クラゲの部屋でのことをごまかすように、私も悠馬さんもごくごく普通の態度で振舞いながら殘りを見て回った。
魚の種類を逐一確認してみたり、小さなプールでサメの背中をってみたり、無邪気にふるまう。
それでもふとした拍子にのが思い出されて私はどきりとしてしまう。その直後に、がひどく締め付けられるような覚に襲われるのだ。
アクリルガラスにうつる自分の姿が一瞬つばきになる。私達の顔は姉妹に間違えられる程度には似ているとしても……自分の顔を見て「つばきだ」なんて、そんなことあるはずがない。
恐れているのだろう、つばきの反応を。それか、つばきにーー……。
「つばきさん? さっきからずっとクリオネ見ているけど、好きなの?」
「え? あ、ううん……。デフォルメされたのは可いけどエサを食べるときは生々しいなあって考えていただけ」
「バッカルコーンか。俺も小さいときにテレビで見て泣いたことがある」
「ふふふ、そんなに?」
「泣き蟲だったからな、昔は」
「ぜんぜんそう見えない」
「大人になったから」
おみやげをしだけ見て、外に出る。そもそも二人で出掛けたのはなので誰かに買う必要もない。
思ったよりも時間が経っていて外は黃昏が近づいていた。
「帰ろうか」
私は頷いた。
○
帰宅してすぐに悠馬さんはお風呂に行った。大変な仕事があったときはなによりもまずお風呂にるのが彼なりのリフレッシュ方法らしい。
セットした時刻通りにお風呂にお湯が溜まる発明をした人は偉いと思う。
服をいで部屋著に著替える。私も悠馬さんがあがったらすぐにシャワーを浴びよう。ところでこれ、洗濯機はだめだろうか。クリーニングに出したほうがいいかな。
ベッドに腰掛け、スマホを手に取る。友人からの些細な近況連絡に目を通したあと、つばきのチャットルームを開いた。既読はつかない。
「つばきのせいだからね……」
仰向けに寢転がり呟く。
あの子が逃げなければ、私はこんな苦しくならなくても済んだのに。
だけれど実家の會社のことを考えると遅かれ早かれ本家は無茶ぶりをしてきたはずだ。それがたまたま悠馬さんとの婚約だった。
ぼんやり天井を眺めていると、悠馬さんが浴室から出て自室にった音がした。空いたかな。
ぼんやりした頭でそういえばメイク落としが切れそうだったと考えながら場にる。服をいでいると洗濯機の下になにかキラッとるものがあった。
こんなのあったっけ?
拾い上げると上品なデザインのネクタイピンだった。確か、今日悠馬さんがつけていたような。落としたことに気づかなかったのかな。
あとで渡そうとしていると、背後で場の扉が開く音がした。
一人暮らしの時の鍵をたまにかけ忘れてしまう癖が、今回、あまりに悪いタイミングで発した。
ゆっくりと振り返ると、悠馬さんが立っていた。
「……こっちに、ネクタイピンが……」
ぼそりと彼は言うが、意識はもうピンから離れているのだろう。
今の私は下著姿だ。
今度はもう、隠しようもなくーー傷跡を曬していた。
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