ちゃんと悠馬さんの部屋に來たのは初めてかもしれない。プライベートにはあまりれないようにしてきた。同棲していても自分だけのテリトリーは大事だと思っていたからだ。

黒を基調としたシンプルな部屋。すべてのものが使いやすいように考えて配置されているのが分かる。過ごしやすそうだとひと目で思った。

ベッドに座る。

「……悠馬さんのにおいがする」

「男臭いとかそういう？」

「ううん。安心するにおい」

「俺も君のにおいは安心する」

悠馬さんは笑って、そっと額に口づける。まぶた、頬、。まで下りて私の部屋著の裾に手をれた。

「その前に、電気消してほしいな」

「そうか。真っ暗だと見えないから、小さいのだけつけていい？」

「……うん」

部屋の隅にある間接照明だけを殘し、部屋の電気が落とされた。おぼろに悠馬さんの郭が見える。

服をいで下著だけになる。

探るように悠馬さんの指が私の皮をり、くすぐったかった。その後を追うようにが落ちる。

左肩に鈍い。あまり傷跡の覚は良くない。

「あんまり、らないで……」

「なんで？」

「面白いものではないでしょう？」

「君の一部だから、もっと知りたくて」

……どんな顔して言ってるのだろう。そして私はどんな顔して聞いているのだろう。

つぅ、とあばらからへそまでなぞっていく。ショーツまで屆くと指が止まる。

「いい？」

「……ん」

顔なんて見えないと分かっているけど、腕で顔を隠しながら私は返事をした。

○□○

『これ、あげる！』

痛みに耐えながら、私は寶を差し出す。

『この子がいたらもうさみしくないよ』

ねえ、だからもう泣かないで。

また會おうね。絶対だよ。

○□○

何か夢を見ていた。疲労にたゆたいながら目覚める。

頭をかし見たデジタル時計は夜中の二時を示していた。人の布団で寢るのは張して、よく眠れない。

水でも飲もうかと起き上がろうとするとがかない。どうしてだろうと働かない脳で考える。

理由は簡単だった。悠馬さんが私を抱きまくらみたいにしているのだ。ちょっと重い。

だけど起こすのも悪いなあ……と悩んでいるうちに、悠馬さんが起きた。

「んー……寢れない？」

「ううん、ちょっと起きちゃっただけ。寢直そうかなって思っていたところ」

「そっか……」

寢ぼけているのかむにゃむにゃしている。かわいい。

傷跡がズキズキし始めてとっさに庇う。至近距離の場にいるのだから當然悠馬さんも気づいた。

「どうかした？」

「あの……傷跡が。疼いて」

「……」

手探りで悠馬さんが私の肩にれた。

「痛い？」

「痛いというか、変なじがする。このじだと明日は雨かな」

「天気も分かるの？」

「気圧とかでなんとなく。特技というかなんというか」

傷跡そのものがコンプレックスなので大々的に特技と言ったことはない。もし天気が知りたいなら普通にニュースを見ればいい話だし。

「雨か。月曜日に雨だとちょっとテンション下がる」

「分かる。だから明るいの傘で乗り切っているよ、私は」

「あのミントグリーンの？」

「そう。水に濡らすと模様が浮かび上がるんだ。……でもこれ、さしている人には分からないんだよね」

「面白いね」

「悠馬さんもなにか明るいの傘を買おうよ。きっと雨の日でも楽しくなるよ」

小學生みたいなことを言っている自覚はあるが、半ば眠りながらなので仕方がない。

「どんながいいかな。俺、ビニール傘か黒い傘しかないからな……」

「今度探しに行こうよ」

「……うん、今度。今度……」

しの間のあと、すぅ、と悠馬さんが寢息をたてる。

サイドテーブルの時計に手をばして目覚ましをオンにした。これで寢過ごすことはないだろう。事で遅刻しましたなんて恥ずかしすぎる……。

悠馬さんの腕の拘束が緩んでけるようになったけれど、やっぱりこのまま寢ることにした。じっと橫たわり、彼の気配をじる。

窓の外では雨のかすかな音が聞こえ始めた。しずくの落ちる音を追いかけているうちに、私の意識は再び沈んでいった。